土管
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「な、なんで!?」
結界外に取り残されたデデビビが戸惑いの声を上げる。
理由は簡単だった。
強制転移はなかった、無作為転移もなかった。
けれど人数制限があった。それだけだ。
最後に入ろうとしたデデビビが結界に弾き飛ばされ、先に入った六人。
正確に言えば四人と一体と一匹が結界に入れた。
「うわー、僕だけ入れなかった」
一瞬戸惑ったデデビビもすぐに人数制限があったと理解する。
「人数制限があるのは確かに考慮すべきだった」
「どうしよう、デビがいないと連携が狂うよね?」
「確かに美しくないが……」
「やるしかねぇべ」
「オボッチャマヌキデドコマデヤレルカ、ウデノミセドコロデスネ」
「SDWN」
「ムィ、ムィ、ムィ!」
結界外に取り残されたデデビビに向かって、お前はまた次の番だ、ここは任せろと言わんばかりにムルシエラゴがアテシアの周囲を飛び回る。
「こうなった以上、任せるよ。やれるよ、クレイン、ユテロ、アテシア、ジョレス」
「ワタシハナシデスカ?」
「ムィ!」
「JEN1-4Aとムィは十分強いでしょ。修行つけてもらっても、手も足も出なかった」
「ウレシイオコトバデス」
心なしかJEN1-4Aの表情は笑顔だった。
「ムィ」と大きく泣いてムィも結界内を旋回。
その結界の中央には大きなハエトリグサが存在していた。
「蠅系の魔物はいない……で良いべさ?」
レシュリーから教わった【照明球・青】をユテロが準備しているが使うことはないのかもしれなかった。
気になるは結界の境にある土管だろう。土管が隙間なく、並べられている。蓋がしてあるから何かが入っているのだろうけれど、今はそれが何かわからない。
中央のハエトリグサの大きさは封印の肉林とそれほど変わってないように見える。
けれど見ればハエトリグサの口の歯に加え、葉までも刃になっていた。
「切れ味が上がっているだけ、と見るには安易すぎるよね?」
「ソウデスネ。データニハイッテイル、”ハエトリグサ”トノガイケンノソウイテンハソレグライデスガ……」
「土管には何かあるんべな?」
「みたいだね。でも始まらないと発動はしないみたいだよ」
「DH、HJIIでしょう?」
攻撃を加えなければ動き出さないと判断して相談・推測タイムとしていたクレインたちだったが、痺れを切らしたアテシアが唐突に長弓〔威厳ある淑女アージェイル〕で矢を放つ。
ズブリと茎に刺さった途端だった。
ハエトリグサがその口から涎を垂らす。何度か噛みつくような動作とともに前方に咆哮。
それに合わせて周囲にあった土管の中から口を丸くすぼめた小さいハエトリグサが出現。
その口から細い赤外線が伸び、結界内の冒険者を何度か通り過ぎる。
赤外線はやがて空飛ぶムィへと標準を合わせて止まった。
ミニハエトリグサの口から砲弾が標準のあったムィへと飛んでいく。
それはアテシアの一撃で唐突に始まった中での、ある意味ハエトリグサの先制攻撃だったが
「ムィ」
とムィはなんなく避けた。がそれだけでは終わらない。
「散開!」
クレインが叫ぶ。ハエトリグサがクレインたちがいた場所を飲みこもうとしていた。




