紅葉
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「綺麗ね」
原点草原レベル6は一面の紅葉だった。
周囲にある広葉樹の葉が一面赤く染まり、草原も草紅葉となって、草や低木の葉も赤く彩られていた。
レベル5が一面石だったことを考えると、思わず立ち止まって眺めてしまうほどの絶景だった。
夕方ではないはずなのに空も赤く染まり、一体感が半端ない。
入り口が下り坂のようになっていて、全体ではないにしろある程度の広さが見下ろせるのも憎い。
今まであった激戦はまるでこのためのご褒美にも思えてしまう。
近くの広葉樹には見たことがないような果実が実っており、低木にも小さな木の実が実っているのが見える。
ソハヤが一目散に向かおうとしているのが分かって、アリーは景色を堪能するのもほどほどに、それを制していた。
「アリー、ここは一旦、ソハヤの自由にさせよう」
「どういうつもり?」
「この近くに見えるだけでも知らない果実や木の実が多い。ソハヤならその辺の鑑定もできそうだし、なんならジョバンニにも手伝ってほしい」
「そんな、必要――」
ある? と聞く前にアリーも僕の意図に気づいてソハヤを解放していた。ソハヤが下り坂を爆走していく。
「木の実や果実は逃げないわよ」
アリーもゆっくりであるけれどそれに続いていく。
「ジョバンニのほうは任せたわよ」
「うん。合わせて果実がおいしそうでもうかつに食べないように注意喚起しておくよ」
原点草原レベル6の樹木に実る果実や木の実は、どれもぱっと見は美味しそうだ。
警護を引き受けてくれた冒険者や野営地を設置して暇を持て余した冒険者が、美味しそうだからと手に取り、食べて状態異常にかかる、腹痛になるなんてことが考えられた。食欲には勝てない冒険者も多く、食事に戻るのも手間となった場合には十分にあり得る。
僕たちは獄災四季の秋の侵食とは戦うことはなかったから、その戦法は知る由もないけれど、美味しそうだけど有害な果実を実らせて冒険者を惑わすこともあったのかもしれない。
原点草原レベル6にジョバンニが少し遅れてやったきたのを確認して僕は近づいていく。
続々と冒険者が来ている姿を見るにディエゴはきちんとア・バオ・ア・クを引き付けているようだった。
***
「一晩かからずともやってみたけど、九割方食べられないね」
ジョバンニがそう告げる。周囲には冒険者がかき集めたおいしそうな果実があったけれど、それらすべてが食べられないことになる。
「まあ、薬の素材にはよさそうだからソハヤちゃんは大喜びな感じだけど……」
「本当なんでもできるね」
「ただ、この果実たちを流通に乗せるのはこのまま少し難しいかもね」
「まあ、このまま屋台に置いてあったら食べちゃいそうだものね」
「そういうこと。まあ、食べても死にはしないけど、状態異常になるものもあるから、腹痛よりきついかもね。時にこれとか」
一番いい香りがしていた赤く大きな果実を指さす。注意喚起する前に食べようとしていた冒険者がいたから急いで事情を説明した覚えがある。
「逆にこれが食べれる果実っていうのが驚きだよ」
触るとすぐに青みがかった皮がはがれ、ドロっとする紫の果肉が手につくその果実が見た目に反して危険がなく意外と美味しいのだから驚きだった。
「まあこういうところに生えている果実だから、魔物や冒険者にとって美味しくなさそうなものが実は意外と美味しいんだよ」
とジョバンニは言うけれどそれによく似た形状の黒い果実は毒性が強く食べられない。隣同士に置かれていたら色味をよく見て判断する必要がありそうだった。
「そういえば、偵察部隊が原点草原レベル6の結界を見つけたそうよ」
ソハヤの調合を横目に見ながら、イロスエーサから連絡を受けたアリーがそう告げる。
僕とアリーはソハヤやジョバンニと採集と調査に勤しんでいたからイロスエーサやコジロウにまたしても任せっきりだった。
「強制転移も、無作為転移もないことは確認済み。誰が挑戦するか相談中らしいわ」
「次のボスは順当にいけば――ハエトリグサだよね。なら――」
挑戦者が決定次第、戦いを始めてもいいと全員に伝えてある。
もうそろそろ始まるはずだ。
僕が野営地を出るとタイミングを見計らったかのように、絶景の赤い空に結界内の戦いが映し出された。




