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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
862/873

獣欲

 ***


「任せた」

 ヴィヴィが唱える【蘇生(リヴァイヴ)】の詠唱を背に、セヴテンは多頭のデュラハンへと向かっていく。

 多頭のデュラハンも気づいて応戦。

 風を切り裂く音。踏み込む足。振りかぶる腕。何もかもがさっきより早い。

 シュキアを一撃で屠った光線に最大警戒しながらも、振りかぶった斧も油断ならない。

 先ほどまでは鋼鉄製の刃だったが、今はその刃が熱く光っている。

 【守勢(シールドスタイル)防御型(ディフェンスモード)】と鉄鋼盾〔尻上がりのシリヴ〕でその刃をガンッと受ける。

 瞬間、正面のレッドキャップの防眼鏡(アイマスク)が外れ、カッと光る。

「なっ――見えっ――」

 鉄鋼盾〔尻上がりのシリヴ〕で斧を払いのけた直後、一瞬で視界が暗闇に閉ざされる。

 全身を発熱させる前はやってこなかった攻撃方法だった。

 状態異常・暗闇。

 視界が封じ込まれたことで、五感で分散されていた殺意が少しだけ増幅して他の器官へと届く。

 ぶおん、と風を切り裂く音がより強調されて聞こえた。

 斧を振り回した音。

 左から来ると理解してセヴテンは鉄鋼盾を放り投げて感覚だけで池に飛び込むように前転。

 状態異常の時間が切れたのか視界が明瞭になると、怒りながらも悔しがるレッドキャップの姿が見えた。

「やっぱり出し惜しみなんて良くないな」

 あえて特典を使わずに戦っていたセヴテンは今更ながらにそう言葉に出して、自分が招いた事態に後悔する。

 シュキアが死んだのは自分が出し惜しみしたせいだとセヴテンは密かに思っていた。

 ヴィヴィが【蘇生(リヴァイヴ)】が使えたというのは結果論でしかない。

 自分が特典を使わずにどこまでやれるか試してみたかったわけではない。特典に欠点があるがゆえに出すのを惜しんでいた。

 けれどその欠点を今は気にしている場合ではない。

 セヴテンに変化が現れる。

 背格好こそ変わらないが、全体が青く発光し、全身の姿が極彩色に変わっていく。

 獣化士ではないのに、セヴテンは魔物へと変貌していた。

 その姿は 終極迷宮(エンドコンテンツ)でのみ確認されている。

 しかも出現したのは普段は魔物が出現しない、階層と階層の間、階段を下っているときのみ。

 階段を下っていた冒険者は出会った瞬間、何をされたか分らぬまま死亡し、奇跡的に残っていた記録媒体のみ、その魔物は確認されていた。

 その記録媒体を見た冒険者はまずは偽物を疑った。死亡した冒険者がそもそも撮影していたという状況がおかしいからだ。そんな偶然があるものなのか。

 遭遇率も低いうえに、その冒険者は即死した。なのにその魔物だけが映し出された映像だけが奇跡的に残っている。

 その主張のほうが整合性があるような気がして、その魔物は眉唾もの、都市伝説の類で取り扱われた。

 けれど、その映像が発見されてから、階段での不審死は増えた。

 ランク7の冒険者の絶対数が少なかったゆえに、あまり話題には上がらないうえに、増加といえるほどの数でもない。微増、1が2になった程度。

 しかしそれまで0だったことを考えれば、偶然と捉えていいものなのか――。

 ゆえに確かにその魔物はいる。そう結論づけられた。


 そんな魔物が――ここにいた。


 セヴテンがその魔物に獣化していた。獣化士は自分で倒した魔物にしか変身できないが、セヴテンはこの魔物にしか獣化できない。

 名をア・バオ・ア・ク(極彩蒼光)といった。

 最初は透明な姿。特典を使うたびに青い光の輝きが増し、極彩色もまた色を増やしていく。

 詠唱に集中しているヴィヴィはともかくセヴテンのその姿を見たフレアレディたちには理解が追いつかない。というよりも理解できない。それでもランク7に満たない冒険者は不思議な力というような認識で受け入れていた。

 ア・バオ・ア・クに変身したセヴテンを見た瞬間、多頭の正面であった防眼鏡(アイマスク)のレッドキャップが吹き飛んだ。

「力が制御できないから一瞬で終わらせる」

「ギャギャ!」

 多頭の正面が防塵具(マスク)のレッドキャップへと代わり、失った顔は左へと移る。

 防塵具(マスク)が外れ、口が光る。防眼鏡(アイマスク)が取れ、目が光った時は状態異常・暗闇になったのだとしたら防塵具(マスク)が外れたら何が起きるか――。

「何も起きないよ」

「ギャ?」

 多頭のデュラハンが変な声を出す。セヴテンのいう通り何も起きていなかった。

 疑問符を頭に浮かべる多頭のデュラハンをよそにセヴテンの蒼光のきらめきが増していく。

 そして一瞬だった。

 近づくのも一瞬、そして叩きのめすのも一瞬。刹那のうちに多頭のデュラハンへとその拳を五発ぶちこんでいた。

 腹と脇にそれぞれ一発。左足に一発。右手に一発。防音耳当(イヤーマフ)をしていたレッドキャップの顔に一発。

 その証左に穴が開く。レッドキャップの顔は吹き飛び、すでに多頭ではなくなっていた。

「終わりだ」

 残った最後の頭を瞬く間に破壊するとデュラハンのひび割れた鎧がはじけ飛んで消える。


 ちょうどその頃、


「隠された知識(ダアト)が開き、顕現! 生命の樹に刻まれし御魂よ。再び、御身へと戻りたまえ――【蘇生(リヴァイヴ)】」

 ヴィヴィの【蘇生(リヴァイヴ)】が発動し、シュキアが生き返っていた。


 同時に結界が消える。

 多頭のデュラハンの撃破とシュキアの蘇生、ふたつの成果に戦いを見ていた冒険者たちが沸き上がる。


 けれど――そんななか、セヴテンの体はウイエアへと勝手に走り出す。


「ごめんなさい、止めてください」


 戦いは終わったが、まだ終わってなかった。


 セヴテンの特典〔獣欲(ビースティアル)業を制す(ブレイキング)〕は

 使用者の姿をア・バオ・ア・クへと獣化させたうえに、ある程度の業――つまりはルール、効果などを強引に打ち消す力がある。

 多頭のデュラハンの顔――レッドキャップは正面の顔が装着している防眼鏡(アイマスク)防塵具(マスク)防音耳当(イヤーマフ)を取った際に、状態異常を引き起こすという効果があった。

 防塵具(マスク)のレッドキャップが正面になったとき、本来起こるはずの状態異常・沈黙が発生しなかったのはこの効果ゆえだった。

 もし効果が発動すれば、実は直線上にいたヴィヴィにもその効果が及び【蘇生(リヴァイヴ)】の詠唱は中断され、シュキアは生き返らなかったかもしれなかった。


 けれど〔獣欲(ビースティアル)業を制す(ブレイキング)〕は使った後、本人が疲れ切るまでは効果が切れず、無差別に周囲の冒険者や魔物を倒し続ける、という欠点があった。

 だからこそ戦いは終わっても、まだ終わってなかった。


 ――今度はセヴテンを止めなければならない。

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