表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
860/874

連携


***


 ヴィヴィが多頭のデュラハンに突撃するとデュラハンは気づいて手に持つ大斧の振り上げて叩きつける。

「避けろ」

 とセヴテンが言う頃には、ヴィヴィは大斧の前で一拍停止。セヴテンには攻撃的に見えたヴィヴィだったがきちんと周囲が見えている。ヴィヴィの目前で大斧は大地へと突き刺さる。

 それを見てヴィヴィはその大斧へと【頭蛾頭餓(ズガズガ)】の二連打を入れる。

「ぬぅ」

 武器破壊を狙ったものだが、【頭蛾頭餓(ズガズガ)】は本来突撃の力を利用したもの。一拍停止した時点で思ったほど威力は高くない。

 武器を破壊されてはまずいと思ったのか、多頭のデュラハンが急いで地面から引き抜く。

 その引き抜く隙をついてセヴテンが多頭のデュラハンへ急接近。

 直剣〔樹枝状のコーバス〕を握って懐へと飛び込む。その強固な鎧へと薙ぎ払いの一撃を食らわせたところに、シュキアの長二叉捕縛棒〔支配者ドロップウィップ〕が追撃。

 振り上げた腕を振り下ろさせないようにがっちりと長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)が抑え込む。

「やあああああああああ!」

 狂戦士たるシュキアは【筋力増強(ドーピング)】を展開していたが、それを凌駕するほどの膂力で多頭のデュラハンは抑え込まれた腕ごと振り払う。

 ぎぢぢっんとしなるほどの強烈な音が鳴り、それを受け止めたのはヴィヴィの鉄杖〔慈悲深くレヴィーヂ〕。両手で持って、斧の刃を抑え込もうとしたが、ヴィヴィでは受け止めきれず、そのまま吹き飛び、石原に立つ石のような樹木にぶつかる。

「今、あちきを守ろうとしたっ……!」

 シュキアは飛び込んできたヴィヴィにそういう意識を感じて逆に驚いていた。狂戦士なので多少の傷は問題ない。それでも抑え込むのが失敗した時点で、想定以上の傷を負う覚悟はできていた。

 けれどヴィヴィの乱入でシュキアは無傷でいた。

「よそ見をするな」

 ヴィヴィが立ち上がるのを見てセヴテンが叫ぶ。今はヴィヴィを心配している暇はない。立ち上がったのなら戦える、そう判断して集中しろとセヴテンは言っているのだ。

 依然、標的はシュキア。

 先ほど振るった大斧で薙ぎ払ってくる。大きく振り上げて振り下ろしたほうが、威力が高いが、先ほどのヴィヴィの武器破壊狙いが無意識的に振り込まれているのか、自分の獲物を壊されないような戦い方を選んでいた。

 薙ぎ払いを避けて、長二叉捕縛棒〔支配者ドロップウィップ〕で胴体を抑え込もうと突く。

 長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)で捕縛できれば多頭のデュラハンに自由はない。

 後ろに壁があれば容易に捕縛できたが、多頭のデュラハンは後ろへ下がって右へと避けることでそれを回避。シュキアはそのまま避けた方向へと長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)を力強く振り抜く。

 強烈な一打が多頭のデュラハンの胴体へと打ち込まれ、多頭の鬼の表情が痛みからからわずかに歪む。

 それでも、肉を切らせて骨を断つべく、踏ん張って大斧を振りかぶる。

「鬼さん、こちら!」

 多頭の鬼たちに注目させるようにわざとセヴテンが挑発。

 安すぎる挑発だが、ぎろりと鬼の頭がセヴテンを向き、腕の捻りだけで大斧の刃がセヴテンへと向かう。

「こっちも忘れて……」「もらっては困るよ~」

 四本の耳短剣(イヤードダガー)が多頭のデュラハンの周囲を飛び交う。

 その軌道を見せることで聴覚と視覚で、耳短剣(イヤードダガー)が狙っていることを多頭のデュラハンへと意識づけることで大斧の軌道が分かりやすくなる。

 小蠅が自分の周りをぶんぶんと飛び交っていると集中できない、あの感覚と同じだ。

 そんななかで繰り出した攻撃をセヴテンは造作もなく避ける。

 大斧が空振りした瞬間に耳短剣(イヤードダガー)が多頭めがけて強襲。大斧をめちゃくちゃに振るって、耳短剣(イヤードダガー)の一本を地面にたたきつける。

 瞬間、足元から発生した【蔦地獄】が多頭のデュラハンの腕を絡めとり、細かく操作された残りの三本が耳短剣(イヤードダガー)がさくりと多頭のデュラハンの首元へと突き刺さる。ウエイアとの連携だった。

「ギャギャ!」

 痛みで笑いのような悲鳴を零し多頭のデュラハンは首元に突き刺さった耳短剣イヤードダガーを乱暴に引き抜く。

 首元から流れた血はすぐに止まったが、代わりに纏っている全身鎧の足具にひびが入る。

「ひびが入って完全に砕けたら、おれさんたちの勝ちなのかな」

 セヴテンが言う通り、今まで与えた攻撃の何発かで、足具にはほとんどひびが入っていた。

 このまま攻撃を続けていけば膝上、腰、胴、腕、肩と続いて壊れるのかもしれない。

「頭狙っても結局は……」「鎧のひびに変換されそうな感じだよね~」

「うん。そだね。そんな感じするよっ!」

「首元狙うよりも鎧をちまちま狙ったほうがよさそうに見えるっぺ」

 フレアレディが首元に耳短剣(イヤードダガー)を突き刺してもその傷は再生されて鎧のひびに変換されているため、胴体を攻撃したほうが効率がいいという判断だった。

「すまない」

 そうしているうちにヴィヴィが合流。傷は全て癒えてないようだが、癒術を使った痕跡は見えるのでセヴテンはひとまず安堵する。

「次はあちきが受けるから安心してよ。こう見ても頑丈だよっ!」

 ヴィヴィに向けてシュキアが笑顔を向ける。

「善処する」

 まだ傷が痛むのか、顔をやや歪めてそう答える。

「お前さん、いったん下がってもいいよ」

「大丈夫です」

 絶対に大丈夫じゃない大丈夫だな、と四人は思った。それでも三人はヴィヴィの意志を尊重して何も言わない。

 大丈夫と告げたヴィヴィが先行するかと思ったセヴテンだが、少し待っても動き出さないのでセヴテンは何も言わずに先行して攻撃を仕掛ける。

 ちらりと横目でヴィヴィを見ると自分についてきているのが分かった。

 三叉槍〔向かい風のゼダン〕を【収納】から取り出して、先ほどよりも間合いを取るためというよりも、

長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)や鉄杖と間合いを合わせるための選択だった。

 多頭のデュラハンが大きく腕を振り上げ溜めるような姿勢。

 宿るのは闘気。

「来るぞっ! 警戒しろ」

 セヴテンの警告とともに多頭のデュラハンが大きく大斧を薙ぎ払う。 

【大薙撃】。

 先ほどよりも早い軌道でセヴテンへと刃が向かう。軌道をよく見てぐるりと飛び込むように回避すると多頭のデュラハンの姿は消えていた。

「どこだっ!」

「後ろっ!」

 遠くでみていたフレアレディの声で振り返った瞬間、後ろには多頭のデュラハンーーとヴィヴィがいた。

 微妙な違和感。

 【大薙撃】の二撃目を鉄杖で防いだヴィヴィの体をシュキアが抑えて吹き飛ばないように耐え忍ぶ。

「任せろっ!」

 足に力を込めて大跳躍。【速勢(スピードスタイル)跳躍型エリアルモード】を発動して多頭のデュラハンの真上から三叉槍を叩き込む。

 瞬間、多頭のデュラハンの視線がギロリとセヴテンへと移る。

 防塵具(マスク)を装着してない、右と真ん中のレッドキャップの口が開く。

「ギャ八!」

 口腔に光球が見える。

 そのまま発射されればセヴテンに直撃する。

 その瞬間、多頭のデュラハンの姿勢が崩れた。

 ヴィヴィが鉄杖で足払いした結果だった。

「いつの間にっ!」

 セヴテンは驚きを禁じ得ないが跳躍前のことを考えてみれば、ヴィヴィの行動は最善手だった。

 左のレッドキャップは耳短剣(イヤードダガー)を警戒し、右のレッドキャップはウエイアを警戒。

 中央のレッドキャップはセヴテンやヴィヴィを見ていたはずだったが、セヴテンが跳躍した時点で、中央のレッドキャップの視線はセヴテンに移った。同時に右のレッドキャップもセヴテンを見た。

 三頭のレッドキャップは喧嘩するほどだから、意思の疎通が取れていない。

 その状況が誰もヴィヴィを見ていないという状況を作った。

 その見ていないという状況をヴィヴィは誰よりも早く理解して、足払いを繰り出したのだ。

 それは見事に的中し、多頭のデュラハンは転倒。

 口腔に溜まった光球は的外れな位置へ光線となって発射される。

「今だっぺっ!」

 多頭のデュラハンが転倒すると気づいて、ウエイアは【蔦地獄】をいち早く展開。多頭のデュラハンの全身を蔦が絡めとり動きを止める。

「分かってるっ!」

 ちらりとセヴテンはヴィヴィを見やる。「お前さんはそういう冒険者なんだな」

 ヴィヴィが作った好機を逃すまいとセヴテンは態勢技能を惜しみなく使う。

攻勢(アタックスタイル)襲撃型レイドモード】。

 すさまじい闘気がセヴテンを包み、能力が上昇。ある意味で攻撃力に全振りする体制技能を全開にして、三叉槍〔向かい風のゼダン〕を叩き込む。

 ピキピキッ、ピキピキピキッ――

 鎧のひびが多頭のデュラハンの首元まで広がっていく。

 レッドキャップの頭もぐったりと動かない。そのまま静かに倒れていた。

「終わったっぺか?」

 ふと言葉を漏らしたウエイアはなぜか悪寒がした。

 結界はまだ、壊れていない。


「まだだ、まだ終わってないっ!」


 気づいて叫ぶが遅すぎた。


 ――瞬間、シュキアの胸が貫かれていた。


 多頭のデュラハンはひび割れた鎧のまま、その身を赤く熱く発熱させて仁王立ち。

 三匹のレッドキャップの顔も顔を真っ赤に染めて、怒りの表情でこちらを睨みつけている。

 シュキアの胸を貫いたのはレッドキャップの顔から発射された光線だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ