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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
858/873

多頭

 ***


まず最初に感じたのは浮遊感だった。

「なんでっぺや」

 他愛のないボケにツッコんだ瞬間、ヒュッと浮く感覚が刹那にあって、ウイエアの身体は消えていた。

「えっ?」

「んっ?」

 ツッコミに変な返しが気になって、横を向くとそこにはさっき話していた集配員とは全然違う冒険者がいた。

 不可思議に思って周囲を見渡すと、同じように動揺している冒険者が四人いた。

 話したことはない冒険者もいるが、だいたいの冒険者の名前をなぜか無駄に記憶しているウイエアは全員がなんという名前かは分かった。

 集配社・救済スカボンズが九本指に指定したセヴテン・ゴー。

 先ほど「えっ?」と変な返しをされたシュキア・ナイトアト。

 右半分が炎の紋様(ファイヤーパターン)、左半分が氷の紋様(フローズンパターン)の衣装を着た冒険者、フレアレディ・フロストマン。

 そして四人目が――

 「ええと……」

 少し長い名前だったはずとその姿を一瞥して記憶の奥を探り、名前を引っ張り出す。

 ヴィヴィネット・クラリスカット・アズナリ・ゴーウェン・ヴィスカット。通称は――ヴィヴィだったか。

 じろじろと見るのも良くないとすぐに視線を逸らしたが、なぜかこっちに近づいてくる。

「怒るんじゃないっぺ!」

 少し不機嫌にも、睨みつけているようにも見えるヴィヴィの表情にビビってウイエアはそんなことを言うが、言われた本人はきょとんとしている。

 ヴィヴィとしてはウイエアの傍にシュキアがいて、フレアレディもセヴテンも、ふたりの元に近づいているようだったから、なんとなく集まったほうがいいと思って集まっただけだった。

 つまり勝手にウイエアがビビってしまっただけだが、ランク的に言えばウイエアがランク6で、セヴテンがランク7、他の三人はランク5なので、ビビる必要は全くなかった。

「何を言ってるんだ?」

 意味が分からないヴィヴィが問いかけるが

「うるせーっぺ!」

 とごまかすようにセヴテンの後ろにウイエアは隠れる。セヴテンとウイエアは何度か面識があった。

「あれ、もしかしてウイエアさん錯乱してます?」

 一応目上なので敬語ではあるが、自分の後ろに隠れたのがおかしくてからかうようにセヴテンはそう告げる。

「さて……」「見た感じー、無作為に選ばれたって」「ところだろうな……」

「けど、あちきとフレアレディが一緒に転移されたのはラッキーだねっ! いっつも一緒に戦ってるから」

「そうは言うがな……」「相手を見てみてよー」

 すでにボスを確認したフレアレディの言葉に促されるまま、わざと視線を逸らすように見ていなかったウイエアもその姿を直視する。

 首なしの胴体。その胴体は板金鎧に覆われていた。

 それだけでウイエアの体は震えあがった。もうその正体に想像はついていた。デュラハンだ。

 背中には大きな斧があり、どうやらこのデュラハンはそれを得物にして戦うようだった。

 ウイエアが震え上がったのは武器ではない、その腕に抱える顔だ。

 見たくない、見たい、見たくない――怖いもの見たさも勝って、恐る恐る、その顔を見た。

 鮮血の三角陣(レッドトライアングル)のデュラハンはその腕に抱える顔を対峙者の大切な人の顔に変える。

 けれど、今回はデュラハンが抱える顔は顔を覆う鉄仮面によって見ることはできなかった。

「ふぅ……ぶねぇ……」

 よほど見たくない顔だったのかウイエアは心底安心して思わず息を吐く。

 鮮血の三角陣(レッドトライアングル)のデュラハンはトラウマになる冒険者も多い。ディオレスですら耐えきれず、死を選んだほどだった。

 安心したのも束の間、

「なんの音だっぺや?」

 ボコボコボコボコとデュラハンの鎧の中から音がし始めた。

 いちいちその音に反応してしまうのはウイエアの性分だった。

 そしてデュラハンの首の切断面から――


 三つの顔が飛び出した。


「どぉおうわああああああああああああああ!!」

 驚き、のけ反り、そのまま尻もちをつく。

「はははははは。面白いなあ、ウイエアさん」

 セヴテンの後ろでひとり、道化師(エンターテイナー)のように過剰に反応するウイエアにセヴテンは苦笑。

 そんなウイエアのテンションにフレアレディとシュキアは連携に少し不安が生まれるぐらいついていけていない。

 ウイエアが驚いた三つの顔はすべてゴブリンの顔をしていた。なじみのあるゴブリンではなく、鮮血の三角陣(レッドトライアングル)で弟子たちの相手として出現した血濡れた帽子を被ったレッドキャップにそっくりだった。

 右のレッドキャップは防音耳当(イヤーマフ)を両耳に、正面のレッドキャップは防眼鏡(アイマスク)を両目に、左のレッドキャップは防塵具(マスク)を口に装着していた。

「言ってみれば……」「多頭のデュラハン、って感じだねー」

「いいねー、それっ!」

「多頭が結界の効果なのか、純粋な強化なのか分からないから、そこには注意しよう」

 セヴテンが冷静に忠告する。

 デュラハンの頭になっているレッドキャップがそれぞれ防音耳当(イヤーマフ)防眼鏡(アイマスク)防塵具(マスク)を装着しているのが気になっていた。

 忠告した矢先だった。

「マジィ!?」

 ヴィヴィが突っ走りデュラハンへと向かっていた。

「オイオイオイ、止めないとまずいっぺ!」

「分かってます!!」

 すでに自分が思い描いた戦術がすでに破綻したことで動揺しているのか、少し強い口調で、まるで怒鳴るように返答してセヴテンは走り出す。

 セヴテンが思い描く戦術としてはセヴテンが前衛で戦い、その際に生まれる隙をウイエアがかく乱。

 フレアレディとシュキアは獲物が長いため中距離で援護してもらい、ヴィヴィには癒術による援護と、魔法による攻撃をお願いするつもりでいた。

 鮮血の三角陣(レッドトライアングル)のような試練のボスはこちらが戦意を見せるまで意外と動かないことも多い。

 けれどヴィヴィが動き出したことでセヴテンたちは話し合う暇もなく、戦闘開始を余儀なくされていた。

 ウイエアのテンションに連携の不安を感じていたフレアレディとシュキアだったが、ヴィヴィの単独行動にその認識を改める。ウイエアよりもヴィヴィのほうが問題児のように目に映っていた。

 一方、ヴィヴィはいつも通り動いたつもりだった。仲間をあまり作らずいつもひとりが多かった。

 道化師(エンターテイナー)タブフプ・コーズナーの護衛をひとりで引き受けることが多かったから意外と前衛で戦うのは慣れてはいた。

 それをセヴテンたちは知らない。

 セヴテンたちにとってはレシュリーの知り合いで双魔士という後衛職――そんな認識しかない。

 だから前に出るのは危険というより迷惑行為、と経験則で感じてしまったのだ。一方で、それも仕方がない。

 そんな双魔士はそうそういない。一度か二度、一緒に戦ったことがあったとしても、それは双魔士の一般的な戦い方に埋もれて記憶の片隅からさえも消えてしまう。

 そんなヴィヴィが鉄杖〔慈悲深くレヴィーヂ〕で繰り出した【馬蛮伴(ババンバン)】が多頭のデュラハンに初撃を与えたところから、この結界内での戦いは始まった。

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