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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
857/873

灰景


 ***


「じゃあ、あとは任せたし」

 ミネーレは気絶するふたりを抱えたままレシュリーにそう告げて野営へと帰っていく。

「当たり前だけど、私たちがいなかった間にみんなすごく強くなってるわね」

「まあ、レイシュリーは無茶しすぎだと思うけど」

「あんたが言う?」

 レシュリーの言葉はそっくりそのままレシュリーへと帰ってくるブーメランでもあった。

 良いように言えば責任感を持ったからゆえの発言かもしれないが、今もなお無茶はするレシュリーがレイシュリーにそんな言葉を言うのはアリーにとっては呆れを通り越して呆れ果てるしかない。

 ただ、ジョバンニが作成した接合機構円環は武器に新たな可能性を見出すもののように見えた。

 徐々にではあるけれど、キナギが使用したchartDCSや、レイシュリーのLabel AIなど新しい機能によって戦闘も進化している。

「ジジガバッドと一緒に戻った後、みんなが色々準備してくれたおかげだね」

「新型保護封つけてたせいで、私もヒロイン呼ばわりで説明にすごい困ったけど」

「まあ、あの時はまだ仮面をつけていようって判断だったから」

「コジロウとかはヒーローのことがあったからすぐに察してくれたけど、それ以外の冒険者への説明と情報の統制で予想以上に時間を食ったわ」

「ネタバレ厳禁でも絶対に我先にと情報を漏らそうとする冒険者はいるものでしょ」

「まあ。でも私の死亡説のお陰で信憑性は低くて、戯言程度ですんだけど、あれも結局のところ、あいつの持ってる魔剣が私ってこと?」

「どうなんだろう? それっぽいけど世界の異変が少し起こるしか言われてないからね」

「その調査とかも含めて、イロスエーサなんてあのときから今もやつれたまんまよ」

「うん。最大の功労者なのは間違いない」

 いずれ謝礼としてイロスエーサには何かしら恩返しをしなければいけない。

 当然、コジロウにも。コジロウも新型保護封をつけていたレシュリーとアリーについて尋ねる冒険者に事細かく説明してくれた恩がある。

 話に出てきたコジロウは何人かの集配員とともにすでに原点草原レベル5に向かっている。

「護衛の話では、攻撃してくる魔物が出てきたそうである」

 先行したコジロウからイロスエーサに連絡があったのか、ソハヤの道すがらの採集に付き合っていたレシュリーとアリーのふたりにイロスエーサが直接伝えてきた。

 ソハヤは、先日増援した冒険者たちが依頼によって素材を集めてくることが分かっているためか、アリーやレシュリーたちの移動を乱さないペースで採取していた。

 最初のわがままと比べたら大人しいぐらいであるが、魔物が襲ってくるという言葉を聞いて体を震わせたところをみるに冒険者ではない分、恐怖をより感じているかもしれなかった。

「ありがとう。イロスエーサも休んだほうがいいわよ」

「順調すぎると逆に休めないである」

「順調じゃなかったら、より休めないでしょ」

「それはそうであるが……」

 そう告げるイロスエーサにアリーはもう何も言わない。

 何にしろ、そうやってうやむやにして休まないのだろう。レシュリーが無茶をするように、イロスエーサも自分の専門分野に関しては無茶をする。

 イロスエーサではなく思わずレシュリーの顔をアリーは見た。そういう無茶する気質がもしかしたらレシュリーから伝播しているのかもしれない。先の戦いのレイシュリーやナァゼ然り。

 

 ***

 

 原点草原レベル5に入ると最初に目に入るのは灰色の景色だった。

「これ、木なの?」

 近くにある木の幹を触ってみると、樹皮は硬く、手で取れそうもない。手に届く枝は、硬いがしなることなくすぐに折れた。

 興味深々でソハヤが触る。

「葉も石っぽい太郎で候」

「というか石かもね」

 草原ならぬ石原かもしれない。足元に生える草も踏めば硝子のように割れて散らばっている。

 草原の入り口は雪を何人もが踏み続けたように足跡が入り乱れていた。

 すぐに曲がっている足跡は野営に続き、奥に続くのはコジロウたちのものかもしれない。

 先ほどまで青かった空も、今は雨雲に覆われたように曇り空で、灰のようなものが降っている。手に取って触ってみると雪ほど柔らかくはなく、一定以上留まっていると肩や頭に灰が溜まって、若干重い。もちろん動きが制限されるほどではないが。

 犬のような足跡は四足歩行の魔物だろうか。戦っているような形跡も、石の草が壊れた痕跡で理解できる。

「これ、体に悪影響とかないのかな?」

「ユリエステどのが到着したらすぐに成分をみてもらうである」

 はしゃぐソハヤの袖を引っ張ってまずは天幕の下へと急ぐ。

「じゃまずは野営地ね」

 仮に悪影響があった場合、アリーたちよりもソハヤのほうが影響を受けやすく、仮に病気などになった場合治りにくい。


 ***


「異常はないみたいです」

 ユリエステも石原の光景に面を食らっていたが、雪のように降る灰はまったくの無害らしくアリーはひとまず安心していた。

 野営地についても天幕の外に飛び出そうとしていたソハヤの腕を離すとソハヤはまるで犬のように野営地近くの木へととびついてその素材を集め始めた。もちろん、アリーが何かを言う前に野営地の護衛がソハヤの身辺を警護している。

「それはよかったであるが……よくないことも起きたである」

 ユリエステが来る直前から落ち着かなくなったイロスエーサが目先の問題が解決したことで次なる問題を口にする。

「ウイエアどのがいなくなったである」

「どういうこと?」

「分からぬである。ひとつ言えるのは魔物に襲われたわけではないようである。他の同行者によれば突然、消えたと」

「それって、ネイレスたちみたいに結界に近づいたから?」

「ウイエアどのは、このあとこの原点草原レベル5に来る予定であったからそれはないである」

 そこまで言って、イロスエーサは驚いて立ち上がる。次なる連絡があったらしい。

「他にも消えた冒険者がいる?」

「大変でござる」

 イロスエーサの驚愕と、先行していたコジロウの報せはほぼ同時だった。

「もう結界内で戦いが始まったでござる」

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