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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
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 ***


「終わったし」

 ナァゼとレイシュリーの会話なんて露知らず、一瞬で紛遺物(オーバーツ)を描き、一瞬でグールの数を倍以上にしたミネーレが戻ってくる。

「ありがとう」

 ナァゼとの会話の直後だったこともありぎこちなくレイシュリーはお礼を返す。

 想定以上に数は増えたが、それでも支障はないと判断。

「準備が整ったからふたりとも近くに」

 そう言ってレイシュリーは足元の線を消して、描き直す。

 発動条件を満たして、〔紛遺物音律(オーバーツ・リズム)〕が発動。

 描かれたナンスカの地上絵一面にstringendo(ストリンジェンド)の恩恵を持つ音律が大量に現れる

 初回突入特典〔紛遺物音律(オーバーツ・リズム)〕の音律がもたらす恩恵は能力の段階上昇とその恩恵に見合う何かの上昇。

 コジロウが触れた際にはstringendo(ストリンジェンド)の恩恵によって速度が徐々に早くなる一方で、疲れも徐々に早くなる。

 その効果は固定だと思っていたが、音律がもたらす恩恵の効果のひとつはレイシュリーが選択できる。つまり先の戦闘においてコジロウの速度がじょじょに早くなったのはレイシュリーが知らずにそう望んだから。イ峰で疲れが徐々に早くなるのはレイシュリーが選べない効果だ。選べない効果で、触れた冒険者、あるいは敵にとって有利になるか不利になるかも選べない。そう考えるとなかなか使い勝手も難しい特典だった。

 なんにせよ、発動した〔紛遺物音律(オーバーツ・リズム)〕は、まるで観光地の許容範囲を無視して押し寄せる観光客のように音律の数を増やし、そして誰の邪魔になろうとも関係ないと言わんばかりに踊り狂うように跳ね回る。

 その音律とグールがぶつかり合うのは必然だった。ぶつかった瞬間、音律は消え、stringendo(ストリンジェンド)の恩恵がぶつかったグールへと与えられる。途端にグールが盛大に吐しゃ物を撒き散らす。

 一匹のグールから一匹のグールだった増殖の循環がじょじょに早くなっていた。

「なんかやばそうだし」

stringendo(ストリンジェンド)の恩恵使ったのなぁぜなぁぜ?」

 ふたりに言われてる間にレイシュリーの詠唱が完了。三人の真下に【尖突土(ペルセ・アルバートル)】を連発していく。こうすることで牙の上に牙が生えるという現象が起こり、高所を生成することが可能だった。

 その間にも、stringendo(ストリンジェンド)の恩恵によってじょじょに増殖が早くなったグールが次々と増殖しては音律にぶつかるという行為を繰り返し、もはや結界内は三人がいる高所以外はグールで埋め尽くされていた。

「あれをやるよ」

 ナァゼの問いかけにレイシュリーはそう答える。あれ、だけでナァゼは理解できた。静かに頷く。確かにあれをするなら数は関係ない。

 けれど、まだstringendo(ストリンジェンド)の恩恵を使った理由は理解できていなかった。

 ナァゼとレイシュリーは急いで【収納】から闇市場でかき集めた機杖を取り出し何やら作業を始めていた。

「あーしは何をすれば?」

「少し見張っておいてください。組み立てに時間がかかるんです」

 ミネーレはそう言われて、下を眺めながらふたりの作業を時折ちら見する。

 ナァゼとレイシュリーは狭い【尖突土(ペルセ・アルバートル)】の足場で自分たちの機杖を含めた九本の機杖を何やら繋げていた。

「あ、やば」

 ミネーレが思わず呟いた頃には【尖突土(ペルセ・アルバートル)】の足場が崩れ始めていた。

 〔紛遺物音律(オーバーツ・リズム)〕によるstringendo(ストリンジェンド)の恩恵によって増えに増えたグールが、その頑強であるはずの岩にひびを入れて崩壊させた。

 慌ててナァゼとレイシュリーが機杖をばらまかぬように掴むなか、ミネーレは落下する岩とともに着地。岩を崩したグールは岩の下敷きになり、即死。

 しかし増え続けるグールはその欠番を補充するかのように増殖する。

「ごめんごめん。ちゃんと見てたんだけど」

「それよりもぼくたち連れて上に跳べますか?」

 早口でレイシュリーは尋ねる。

「うん。飛べるけど」

「じゃあお願いします」

 とにかく時間がない。

 高所の足場がなくなった以上、グールが三人にもう差し迫っている。数の暴力で押しつぶされるのも時間の問題。いや秒の問題だった。

 レイシュリーの願いを聞き入れて、ミネーレはナァゼとレイシュリーを抱えて、跳躍。

「これでいい?」

 ミネーレは一瞬で、【尖突土(ペルセ・アルバートル)】の足場の数倍以上の高さにまで移動していた。

「十分すぎるっ!」

 あまりの高さに怖すぎるぐらいだった。

「まあ、あとは落下するだけど」

 そして怖いことも言った。それでもレイシュリーは抱えられながら、ナァゼとともに九本の機杖を繋げ終える。

 赤奇石の機鉄杖〔勇ましきムスーペッ〕、紫輝石の機銀杖〔可笑しく笑うヨトウン〕、青鹸石の機銅杖〔悲しみ喚くミズガル〕、緑妖石の機墨杖〔恐れ慄くニザベエ〕、黄瞳石の機砒杖〔怒り狂うニヴル〕、茶鳴石の機鉛杖〔驚き愕くアスガ〕、白眩石の機金杖〔愛し慈しむアルヴー〕、黒恋石の機珪杖〔悪に嫌うヘル〕、橙極石の機菱杖〔和を平つヴアナラ〕。

 それは今はふたりとなったかつて九人いた聖櫃戦九刀(Accen9t)が持っていた機杖。

 仲間の死後、ナァゼとレイシュリーは闇市場に流れた仲間の機杖を集めた。機杖は搭載されているLabel AIに使用者の個性が強く出ていて使いずらいため、中古品が買い取られにくいという性質があった。それこそ蒐集家が買う可能性もあったが、機杖は本来の杖と違って機能性を重視しているため、蒐集家も手を出しにくいというのも功を奏したのかもしれない。

 全員分の機杖を手に入れたふたりは依頼で知り合ったザイセイアの伝手でジョバンニに武器の加工を依頼した。

 本来、武器は上下刀〔どちらの道へアトス兄妹〕のように、ふたつの武器をひとつにして扱う場合は最初からそういう構想をして作成される場合が多い。

 そういう意味ですでに作られた武器をひとつに合体させるにはかなりの難易度を誇る。

 それでもジョバンニは「いいよ」の一言で、しかも一晩でやってのけた。

 その腕前にふたりが脱帽したのは言わずもがなだけれど、そういう経緯を経て、ふたりは強力な武器を手に入れた。

 聖櫃戦九刀(Accen9t)の絆を込めたふたりで扱う、九輝石の機虹杖〔聖櫃に架かるビフレ〕。

 武器を結合させるために作成された接合機構円環〔聖櫃に架かるビフレ〕と九本の機杖にふたりの魔力を流し込むことで自動的に九本の機杖が解体、施工されて組み立てられる。

 槍のように長い柄。柄は一定の長さごとに色が変わり先端には九つの宝石。九人の機杖が基本なので意外とカラフルなのは九人だからこそだろう。

 その柄を前後でふたりで握る。先端の宝石を真下。

 増えに増え、今やもう歩き回る余地すらもないグールめがけて。

 ナァゼが叫ぶ。

 ナァゼの思考を九人分のLabel AIが一斉に読み上げ、柄を握るナァゼとレイシュリーの魔力を吸い取っていく。

 思考は一瞬。それだけで何をしたいかをLabel AIは読み取ってくれる。

 詠唱も一瞬。読み取った思考をLabel AIは一瞬で魔法へと変換する。

 無詠唱の最強魔法がそれだけで組み上げる。

 

 その魔法名を。

 ただただ、ナァゼとレイシュリーは叫ぶだけだ。

「【鬼炎万丈ボンブ・アンサンディエール】!!!」


 ***


 その威力を見て、ディエゴは思わず立ち上がる。

「無理しやがってぇ」

 その無謀さに笑う。

 まだ経験が浅いゆえかもしれない。

 けれどその無謀さがいいのだ。

 そういうのを見るのが最近はディエゴは好きになってしまっている。

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