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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
854/873

変色


***


「まずは確認だね」

 ディエゴに後押しされたまま結界に入った入ったレイシュリーはそう告げた。

 隣のナァゼが頷き、護衛のためふたりよりも前にいるミレーネもいきなり攻撃を仕掛けることなく足を止めた。

 目の前にいるグールは八体。グールそれぞれの全身の色は異なっていた。グールは元人間と言われており、全身の色は元になった人間の色から少し暗くしたような色をしている。

 けれど目の前のグールの全身はとても人間とは呼べない色をしていた。

 八色というのが、魔法士系複合職のレイシュリーやナァゼの目には属性の色に見える。

 炎、風、水、氷、雷、土、光、闇。推測が当たっていればグールたちの見た目はその属性を持っているようにも見える。

 レイシュリーがいう確認というのはその確認だった。

 胸にCN14423100と印字された赤色のグールにレイシュリーは【水鉄泡(メタルバブル)】を展開。

 橙極石の機菱杖〔和を平つヴアナラ〕から銀色の泡が展開され、ゆっくりと赤色のグールの右足に当たる。

 ばぢんとグールの右足がはじけ飛び耐性が崩れると同時に炎色だったグールの全身が水色へと変わり、胸の印字がCN11526116へと変化していた。

 さらにはじけ飛んだ右足が、グールの背丈ぐらいまで丸く膨れ上がり人型に収縮。CN14423100のグールが誕生していた。

「うう゛ぅうう」

 動きはゾンビと同じく鈍いが、それでも動きはある程度まとまって連携したり、防御しようとしたりする分、知性があった。

 しかもこのグールは分裂した部位が数分も経たぬうちに別のグールへと成長するらしかった。

 どこか、

「うう゛ぅうう……おおおぉおぉおお!」

 呻きを上げたグールが口から吐しゃ物を吐き出す。

 それはレイシュリーが弾き飛ばした右足のように、丸く膨れ上がる。

 数が二倍になることを恐れたナァゼが赤奇石の機鉄杖〔勇ましきムスーペッ〕から【憤怒炎帝(アードラメルク)】を展開。炎の海が何体かのグールと吐しゃ物を巻き込んで燃やし尽くすが一足遅い。

 吐しゃ物が丸く膨れ上がった時点で無敵時間でもあるのか、無傷のまま、八色のグールが誕生。

 それ以外に巻き込まれたグールのうち赤色のグールは無傷。

 茶色のグールは燃え尽きた両腕以外の色を漆黒へと変える。黄色のグールは水色へと全身を変化させていたが、ナァゼの才覚の影響もあり、ところどころに火傷の状態異常が発生していた。

 一方でレイシュリーが【尖突土(ペルセ・アルバートル)】を発動。

 増殖して誕生したグールの足へと地面から発生させた棘を突き刺す。足止めには成功したが

 赤色のグールは緑色へ、緑色のグールは黄色へ、黄色は水色へ、水色は青色へ、青色は茶色へ、茶色は漆黒へ、漆黒は白色へと色を変化させる。

「魔法で色が変わるんだ……」

 そう判断したのはミネーレが縄盾〔密偵ダーマン〕で胴体を殴った水色のグールは青色へと変化しなかったからだ。

「ごめんだし。次は頭を狙う」

 胴体を殴ったことで水色のグールは態勢を崩したが、飛び散った破片は一定数集まって膨れ上がり、水色のグールになっていた。

 とはいえグールはゾンビと違い、動きは遅くとも回避行動はとるし防御もする。容易に頭を狙って再起不能にするのは難しい。

「ってか、これ。あーし思ったんだけど、立体パズルみたいに全部の色を統一して倒すとかだったりしないし?」

「それだと厄介ですね」

「あーじゃあ、一列にすると消えるとか、同じ色三体触れさせたら消えるとか……」

「やってみてもいいですけど三体はともかく一列は難しくないですか」

 レイシュリーはミネーレの発想自体は面白いとは思ってはいる。

 レイシュリーが同意を見せるとミネーレは嬉々として同じ色のグールを集めようと躍起になった。それは同時に囮としてグールを引き付けてくれてもいたので、レイシュリーにとっては大助かりであった。

 立ち止まったレイシュリーは火傷したグールを監察しながら、絵が描かれた紙を取り出してどうしようかと考える。取り出した紙は紛遺物(オーバーツ)が描かれた紙だった。

 初回突入特典〔紛遺物音律(オーバーツ・リズム)〕を研究した結果、いくつか分かったことがあり、その紙はそのことに関係するものだった。

「あー、ごめん。やっぱし無理だったし」

 笑って、ミネーレが戻ってくる。三体接触はそうそうに試して消えないことを確認して、一列に挑戦しようとして無駄に増殖させただけで、難易度は相当高かったらしい。

「いえ、試してもらえて助かりました。ところで次はこれを描いてもらえますか? 上から見たときにこう見えるようになっていればいいので」

 そう言ってレイシュリーは紛遺物(オーバーツ)ナンスカの地上絵が描かれた紙を渡す。

「犬?」

「いえ、一応猿のつもりです」

 昔自分の描いた絵を見られたときに「これなんすか?」と言われた絵がこの紛遺物(オーバーツ)の原点だった。

「見えるっちゃ見えるね」

「気遣わなくていいですよ」

「でこれをあーしが描いたらどうなんの?」

「ぼくの特典が発動します」

 初回突入特典〔紛遺物音律(オーバーツ・リズム)〕の発動条件はレイシュリー自身が描くことだと思っていたが、正確には紛遺物(オーバーツ)の最後の一筆を描ければ発動できる。他の冒険者が全貌を描いたあと、一部を消して自分で書き直せば最後の一筆とみなされるので発動条件は結構緩い。

 発動後、描いたり消したりできるのがレイシュリーのみだったので、そうだと思い込んでしまっていた。

「ただ結構正確に描く必要がありまして」

「まあ、できると思うし。であーしに頼むってことは結構早く必要なんだし?」

 なぜ頼まれたか察したミネーレは頼まれたことが嬉しかったのか、

「任せろり」

 なんてことを笑顔で告げて初回突入特典〔自己矛盾(セルフプロデュース)〕で加速。

 速さに全振り調整したとてつもない速さで紛遺物(オーバーツ)が描かれていく。

 通り過ぎたグールの胴体を散り散りにしながら。

 その散り散りになった胴体もまた、グールへと成っていく。

「頼んだのなぁぜなぁぜ?」

 想定上に増殖したグールの数を見てナァゼが問いかける。決して責める口調ではなかったが確かに他に方法があったのかもとレイシュリーに思わせる程度には効果はあった。

「なんかごめん」

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