翌朝
***
レシュリーが原点草原レベル4に救援にきた冒険者に食事を配給していると、原点草原レベル3にいた攻略組の面々がぞろぞろとやってきた。
原点草原レベル4の野営に届いた食事はクルシェーダが徹夜で作り上げた魔物を使った料理だった。
素材の名前を聞いて抵抗を持つ冒険者もいたが、その料理から漂ってくる強烈においしそうな匂いは空腹を刺激し、結局は抵抗が嘘だったかのように誰しもが食いついた。
クルシェーダは長丁場になると判断した途端、ある程度の魔物を倒した後、戦場を突貫の調理場に移した。野営に設計されている調理場の広さでは大人数の料理を作ることは不可能で、ほぼ広場に近い調理場を急増し、さらにはほぼひとりで魔物を捌き、慣れた手つきで料理を作ってみせた。
その光景は圧巻そのもの。
他の冒険者が取りこぼし、調理場に侵入した狂靭化魔物でさえも討伐し、その場で素材にして見せたのだから、その光景を見た冒険者は改めてクルシェーダの強さを再認識していた。
原点草原レベル4にやってきたコジロウにレシュリーがその料理を手渡す。
「そういえば、増援に来た冒険者たちはどうなったの?」
最前線で戦いたいと希望した冒険者は少なからずいたはずだ。なのに原点草原レベル4やってきたのは当初いた冒険者組だけ。
「イロスエーサどのがうまーく交渉したでござる」
「なんでも攻略組に入るのは勝手だけど無報酬。護衛や依頼をこなしたら報酬を倍出す、とのことです」
レシュリーとコジロウの話を聞いていたアルも会話に参加する。
「であればそっちのほうがメリットが大きいカ。両得だもんナ」
ジジガバッドがクルシェーダの料理を頬張りながら、イロスエーサの策略に感心する。
例えば何かの武闘会の団体戦があったとする。
それに優勝すればかなりの名誉。その団体戦に参加できるのは五人で、戦うのは三人。
仮にその団体戦で優勝すれば、残りのふたりは団体戦に参加してなくても、その一員だったという名誉が得ることができる。
それは後世に肴にできるほどの自慢だ。
イロスエーサの提案は、報酬を得られるうえに、そういう歴史に名の残る戦いに参加していた、という名誉が同時に得られる。
報酬と名誉、どちらも手に入るのなら名誉はその程度の名誉でもいい、と考える冒険者は少なくない。
名誉を欲しがって無謀に死んでいく冒険者は何人も見ていて、かと言って結界での戦いを失敗してしまうのはなんだか迷惑をかけてしまいそうで怖い。
そんななか、イロスエーサが出した提案は祭りに参加しに来ただけで危険な橋は渡りたくない冒険者にとってはまさに渡りに船だっただろう。
狂靭化魔物は確かに手強いが、癒術会が近くにあり、美味い飯もあり、護衛という慣れ親しんだ茶飯事のような依頼をこなせば報酬と、後に有名になるであろう戦いに参加したという名誉も手に入る。
結果的に自分たちにとって都合のいいイロスエーサの提案にほとんどの冒険者が全乗っかりしたことで、特に増援後のいざこざもなく、次の日は始まった。
***
「次はグールだったわ」
ソハヤの素材収集のついでに偵察に行ってきたアリーがそう告げる。
アリーが野営に戻ってくる頃にはイロスエーサも原点草原レベル4もやってきていたがその顔には疲れが見えた。
アリーやレシュリーだけではなく、他の攻略組に極力負担をかけないようにするのがイロスエーサの役目だった。
イロスエーサは元より戦力としてではなく支援としてこの戦いに参加している。役立ち方は人それぞれ。とはいえユリエステにコーエンハイムは支援だけではなく十本指であるという立場上、戦いにも参加する予定であった。
ソハヤの素材収集も滞りなく終わっている。イロスエーサが発した依頼の影響で原点草原レベル4だけでなく、他レベルの原点草原の素材も護衛の冒険者が収集を始めていた。
結果、素材が溜まり溜まり、ソハヤも笑顔で調薬を始めていて終始ご機嫌だった。
「なんか、色も違ってたわ。途中、色が変わってたからそれが結界の効果かも……」
「オイオイィ。そりゃ確実に弱点変わるタイプだろぉ」
ディエゴがクルシェーダの料理に舌鼓を打ちながら結論を出す。
もし色によって属性が変わるなら全属性を使いこなせるディエゴで対応できる。
「もしかしなくてもいよいよ出番か。なら俺ひとりでいい」
完食し、立ち上がったところで
「いや。ぼくたちに行かせてよ」
レイシュリーが立候補する。後ろにはナァゼ。
レイシュリーも〈少変〉の才覚があるため、全属性扱える。
「一応、護衛としてあーしも行くよ」
ミネーレが原点草原レベル4の野営部隊を死なせることなく守り切ったはディエゴも知っている。
「ふぅん」
ディエゴは三人を一瞥。
再び座り直して
「任せた」
レシュリーが何か言う前にそう告げた。
「メシ、おかわりあるか?」
ディエゴが近くにいた名も知らぬ冒険者にそう告げると、給仕係でもないのに、まるで逆らえないと言わんばかりに料理を配膳してしまう。
その堂々さにはまさに王者の風格があった。
そんな男の一言で次の結界の挑戦者が決まる。




