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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
851/873

端末

***


 モモッカの魔充剣ニッポンイチと自身を模したドッペルドールの魔充剣がぶつかり、拮抗。

 キナギの分析通り、自身を模したドッペルドールは自身と同じように考え、同じように動く。

 イチジツも刀剣〔修羅場のアシュラ〕で刀剣を振るうドッペルドールと対峙していた。背丈などから見るにこちらもイチジツを模しているのは明白だった。

 アズミのドッペルドールがその中では一番わかりやすい。出現した場所から動かず延々と魔法詠唱を繰り返している。それはアズミも同様。イチジツやモモッカが護衛してくれるという信頼感の表れであった。

 疫病前にモモッカやイチジツは仲間の死を経験し、それからは主に空中庭園に活躍の場を移した。

 疫病後にはアズミの依頼で叔父に支配されたマガツカミ教を壊滅させたりもしている。

 多くは語られてはいないが、そういった経験を積み、同郷のキナギの頼みで時折大陸の仕事をして、四人の信頼は積み重ねられていった。

 だからこそ、キナギの言葉を信じて、三人はそれぞれのドッペルドールを相手取っている。

 もちろん、たまに自身のドッペルドールではなく、イチジツとモモッカはタイミングを合わせてイチジツのドッペルドールに斬撃を重ね合わせているが、その瞬間ですら、読まれているのか、モモッカのドッペルドールが助けに入るということを繰り返している。

 拮抗した力が拮抗したまま時間がだけで過ぎている状態。

 そんな現状維持に一石を投じるかのように、キナギは操り人形のようにchartDCSの指示に従い始めた。

 言い方は悪いが他人任せ、思考放棄の戦力を知れば、三人に積み上げてきた信頼がもしかしたら崩壊するかもしれない、そんな危惧さえも生まれる戦略。

 それでも、

 『右から突いてください』

 どこへ、とかどうやって、とかそういうのは考えないことにした。

 言われるがまま、自分に染みついている、右から回り込む動きをして日課のようにしている素振りを思い出し、その時に狙っていた位置を見定めて突く。

 それだけでキナギのドッペルドールの振り下ろしを避け、右肩へと大業物〔大立回りヒデミツ〕の刃が突き刺さる。

 狙いは概ね狙った通りだったが、それでも少し懸念が生まれる。

『いいね。次は左から回るように切り上げて』

 その懸念を忘れるようにキナギは言われるがまま次の一手。

 左回りで浮き上がるように一回転して切り上げる。まるで龍がぐるぐると回りながら空へと飛びあがるようだった。

 ドッペルドールは斬り上げに少し遅れて反応して後退の意志を見せる。が遅れた反応の分だけその斬撃の餌食になる。ドッペルドールの黒い体に傷が白く現れる。再生しないところを見ると再生能力はなく、なおかつそれがドッペルドールに傷を与えた証拠になるのだろう。

『いいよ。その調子! 次は振り下ろしながら突きに切り替えて足を狙ってみよう』

 また言われるがまま、キナギは動くが、先ほど覚えた懸念が一手前の行動で確信に変わっていた。

 それでもだからと言って策はない。言われるがまま、足を狙う。

 間一髪でドッペルドールはその突きを避けた。正確には小指の先を掠めていたが、表情がないドッペルドールは棚に小指をぶつけたときのような痛みはなく、また顔をしかめたりもしない。

『いいね! どんどん行ってみよう! 次は――』

 chartDCSとしては自分が指示した動作をした時点で成功だ。

 それを喜んでくれるのはいいが、chartDCSの指示を聞く、その動作を実行する、という時点で思考と行動にの間が空く。

 自分で考えて実行するのと、誰かの指示を受けて実行するのでは、どうしても刹那の遅延が発生するのは仕方がないことだ。そのうえ、普段不慣れな、覚えたての行動をするのだ。いつもの動き、いつものキレが緊張によってできないこともある。

 そうなればその遅延はもっと広がる。

 そしてその遅延した刹那があれば、キナギのドッペルドールは完璧ではないにしろ回避行動がとれる。

 なぜならキナギも完璧ではないにしろそういう状況下で回避行動をとれるからだ。

 他人任せの思考はこの結界に対しての想定外の正解だったのかもしれない。けれどその思考通りの動きをキナギ自身が遅延なく行えない時点で正解にはならない回答だった。

 けれどその懸念が的中したことでキナギはもうひとつの策に振り切る決心がついた。

「ありがとう、chartDCS。あとは自分で動く」

 なおもどう動けばいいか、を提示してくれるchartDCSにお礼を言ってキナギは目の前のドッペルドールへと大業物〔大立回りヒデミツ〕を振り下ろし、寸止め。

 意表を突くためのフェイントではなかった。当然、それをドッペルドールも読んでいて、大業物をどうともしていなかった。

 むしろ寸止めを見てから動き出す。

 寸止めたキナギが、刃の向きを変えてドッペルドールの刃を弾く。

 同思考の駆け引きが何度も繰り返される。

 一度後退すれば、ドッペルドールも後退する。そうすれば呼吸を整える時間は生まれるだろう。

 それでもキナギは駆け引きを繰り返す。フェイントに、鍔迫り合いに、打ち合い。

 いつの間にか呼吸を忘れていた。ドッペルドールは疲れも知らなければ呼吸も無意味なのかもしれない。

 酸欠になっていく感覚で緊張感が汗とともに生まれていく。

「プハッ!」

 と思わず息を吐きだして、生存本能のまま、思い切り吸い込む。

 瞬間、ドッペルドールが大業物を振り下ろしていた。

 呼吸の隙を狙われていた。キナギだってそうする。

 キナギも予定通り、大業物〔大立回りヒデミツ〕を振り下ろす。

 お互いがお互いに左腕を差し出す。

 ドッペルドールはキナギがそうするならそうするだろうという思考のもと、動きを模写する。

 であればキナギが左腕を差し出してでも攻撃すると、一種の捨て身の思考になれば、ドッペルドールもそのように動き出す。

 ただし、キナギの左腕にはchartDCSの端末があった。

 その強度は、店売りの小手よりも高い。冒険者がどんな場所でも冒険できるように防火防水などの耐性も付与されている。それはchartDCSの端末をつけたことで小手がつけれない欠点をなくすために設計されている。いわばchartDCSの端末は、端末付きの小手とも呼べた。

 キナギのchartDCSの端末に亀裂。キナギ本人の技量であれば、壊せることぐらいは自分自身が試して分かっている。けれど、左腕は無事。無傷ではない。思ったよりも威力があり、左腕の半分ぐらいまで切れ込みが入っていた。

 一方で、キナギのドッペルドールの左腕はキナギの振り下ろしによって切断されていた。

 血が噴き出るように粒子が切断した左腕から飛び散っていく。

 なぜキナギは左腕が無事なのか――表情は見えなくてもドッペルドールは動揺しているように見えた。

 そして左腕を失って左右の均衡を失ってしまえば、キナギと同じ動作はできない。

 瞬く間にキナギのドッペルドールは傷を増やして消滅した。

「待たせた」

 キナギは信頼してくれた仲間へとそう告げる。自分たちがどんなことが苦手でどういうふうに立ち回られるのが嫌かはさんざん話し合ってその対策も、対策の対策もしている。もちろんそれは四人有りきでの話。

 人数差を作った時点で、ドッペルドールが敗北するのは時間の問題だった。

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