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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
850/873

指示

 chartDCSに自身の倒し方を聞いたのは決して自棄になったからではなかった。

 突然の質問にモモッカもイチジツもアズミも唖然としていたけれど、キナギは気づいたのだ。

 自分を模したドッペルドールの左腕にはchartDCS端末がついていないことに。

 だとしたら、chartDCSが提案する方法ならもしかして倒せるかもしれない。

 それは窮地に思いついた苦肉の策ではあった。

「キナギ・ユウヤナギの倒し方を教えて」

 それは結界外の冒険者にとっても意味が分からなかっただっただろう。そもそも今いる結界外の冒険者のなかでchartDCSをつけている冒険者は中級冒険者学校を利用したことのあるキナギだけだった。

 むしろ今ではそちらのほうが珍しい。

 現在のランク2~6の冒険者の多くがchartDCSを利用している。

 当初chartDCSは困難とされていた試練攻略の道筋を表示するための端末だった。

 しかし昨今ではそれだけではない、終極迷宮(エンドコンテンツ)の情報源に新しい情報が蓄積された結果、冒険に関するあらゆる情報を知ることができるようになった。

 おそらく攻略だけではなく魔物の情報や冒険者の情報も入手できる。もちろん特典など使用者自身がランク7にならなければ知れない情報もあるうえに、冒険者の情報は最新というわけではない。

 常日頃成長する冒険者の最新の情報が即手に入るほど万能ではないから全てを鵜呑みにはできない。それでもある程度正確な情報を得ることができる。

 それは低ランク冒険者のランク上昇を後押ししてきたという実績が証明していた。

 そしてそれは未知との戦いにおいてある程度の情報を得れるという点で、戦うための一歩を踏み出す役に立ってくれている。

 今ではモココルが設立した中級冒険者学校で必須の学習項目となっているほどだ。

『もちろんだよ、キナギ。以下にキナギ・ユウヤナギの倒し方をいくつか紹介するね!』

 機械音声が端末から延びる有線の耳栓を通して響く。随分と親しげな話し方だった。

『キナギ・ユウヤナギはランク6の冒険者で、レベルは――』

「その辺の説明は省いて」

『わかったよ、キナギ。じゃあさっそく、倒し方を紹介するね!


 1.遠距離攻撃で削る

 彼の柳友新陰流は待ちがとっても得意。近づく戦い方だととっても不利だよ。

 魔法や矢で削ると時間はかかるけど戦いやすいよ。

 魔砲士や殲滅士ならもっと遠距離から攻撃できるから、もっと戦いやすいよ。


 2.得意技をつぶす

 彼は【柳友新陰流・右旋左転】が得意技だよ。だからその力よりも強い技を使って押し返したらのけ反って隙ができるんじゃないかな。

 そのときが技を叩き込む大チャンスだ!』

「もっと、いい倒し方はない?」

 キナギは早口で告げる。

 幸運なのはドッペルドールがキナギたちの真似をして、立ち止まっていてくれていることだ。

 基本的にキナギたちの戦術を真似しているのだろう。


『もちろんさ、キナギ。さらに一歩踏み込んで、倒し方を提案するよ!

 彼は柳友新陰流を使うから以下が有効じゃないかな。


 1.フェイントを入れる

 待ちの構えに攻撃でフェイクを入れて、それから本命の攻撃を当てればいいと思うよ。

 相手も最初はフェイクかも、と思うことを想定して二回フェイクを入れるのもいいかも。

  

 2.間合いを狂わせる

 相手の攻撃を釣るのもいいかも。フェイク攻撃をするのではなく、間合いに入ったり出たりするだけでも、待ち構えている相手には相当なプレッシャーになると思うよ』


 chartDCSはキナギ自身というよりも柳友新陰流を重きに置いた回答をキナギへと教えてくれる。

 黒騎士カンベエはその体現者で、chartDCSが回答したような待ちを得意としている。

 もっとも、黒騎士カンベエはchartDCSが出したような回答では太刀打ちできない強さを持っていて通用しないだろう。けれど基本的に現存する柳友新陰流の使い手なら、確かにchartDCSが出した回答が対策としては王道だろう。

 キナギも、chartDCSが導き出した回答が対策になるとは理解していた。柳友新陰流の使い手が柳友新陰流の弱点を知らないわけがないのだ。

 もっともキナギは特殊。一度、柳友新陰流を破門されて、再度入門したという経歴を持つ。

 そしてその破門されたあと、冒険者として生き残るために柳友新陰流を基本としつつも型を崩したいわば自己流の構えを作り出していた。

 自己流の構え――といえば格好良いが、柳友新陰流から見ればそれは良くない癖。

 しかもキナギは待ち、という行為自体が得意ではない。

 なので珍しくキナギは柳友新陰流でありながら、結構自分から攻める派であった。

 それをchartDCSは考慮していない。

 やはりchartDCSの冒険者の情報は最新でない、不足している。

 キナギ・ユウヤナギをランク6の柳友新陰流を使う聖剣士としか見ていない。

 とはいえ、chartDCSを使おうと思ったことでキナギはある着想を得た。

「何かわかりましたか?」

 アズミが問いかける。端末を持っているのはキナギだけなので、アズミたちにはどういう回答をもらったのか分かっていない。

「何個か対策をもらいました。もっともその対策は、俺としてもまあそうだろうという回答だったので」

「じゃあ向こうも分かってそうだね」

「苦笑」

「ええ。確かに。けど、ドッペルドールになくて俺にあるものも分かりましたから」

「如何?」

「とりあえず自分自身のドッペルドールの相手をお願いします。俺が俺のドッペルドールを倒せれば、あとは切り崩せるはずです」

 仲間に方針を告げたキナギは足袋でしっかりと地面を踏み力強く走り出す。同時にキナギを模したドッペルドールが走り出した。

「キナギ・ユウヤナギと戦う場合の初撃の一番のおすすめは?」

『一番のおすすめは二秒待ったあとに斬り払いです』

 何の根拠か分からないがそう提案される。

 キナギは思考放棄して言われるがまま二秒待ちで構える。

 待ったキナギに対してドッペルドールは切り上げてきた。

 初めてドッペルドールと攻撃が食い違う。それまでは同じ動きで防がれていたのに。

 待ったことで切り上げが空を切る。

 待たずに斬り払っていたら踏み込んだ結果、お互いの刃がぶつかる結果になっていただろう。

 空を切ったのを見計らって放った斬り払いはわずかにドッペルドールを掠める。

 掠める程度だったのは自分でも予想外の展開に高揚して大業物〔大立回りヒデミツ〕を握る手が少しだけ力んだせいだろう。そのせいで狙いが少しだけずれてしまっていた。それでも何もできなかったときよりはよっぽど良い成果だ。

 一方で表情のないドッペルドールに動揺はないように見えた。

「次は? そのまま指示を出し続けてくれ」

『わかったよキナギ』 

 キナギはchartDCSに質問する一方で、胸中でこう強く念じ続ける。


 感情を殺せ。

 何も考えるな。

 言われるがまま、指示に従え。


 まるで操り人形のように、キナギは言いなりになって戦い始めた。

 ドッペルドールは自分の思考を読んでいる、そう考えたうえでの思考放棄。他人任せだった。

『右から太ももを狙って突いてください』

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