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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
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質問

 異端の島から戻った時のことを思い出しながら道なき道を目印を頼り走っていく。

 目的の境目から少し離れたところに野営を設営中の冒険者たちがいる。

「こっちでござる」

「前の結界よりずいぶんと離れた位置だね」

「いきなり巻き込まれないように対処してるんでしょ」

「今、ぎりぎりまでウエイアが近づいているであるが……ここはキナギさんたちに任せても?」

 後ろで恐る恐る様子を窺っていたキナギがいきなりの名指しに体をびくつかせる。

 一部冒険者が野営の近くで待機しているのはキナギたちが戦いたいという主張を尊重してからだろう。

「お、おう。もちろんです」

「本当に大丈夫?」

 緊張が伝わってきたので、アリーがからかうように確認した。

「も、もちろんですよ。行ってきます」

「準備はしっかりね」

 そう言うとキナギは腕だけあげてその場を去っていた。しばらく見ているとキョロキョロとあたりを見渡して、イチジツたちを見つけて向かっていく。

「キナギたちが結界に入ったっぺ」

「中の様子は見えたであるか?」

「うーん、なんかよく分かんなかったっぺ」

「結界の外からぼんやりとでも見えなかったってこと?」

「目はいいほうだっぺ。けど、それでもなんかモヤモヤしていた感じだったっぺ」

「次の試練でいうと的狩の塔(ハンティングタワー)でござるか? どういう感じになるでござるか」

「グールとかかな……」

「いや、グールっぽくなかったっぺ?」

(シャドー)じゃない?」

 アリーがそれとなく言った。(シャドー)はドールマスターを倒した場合、敗北者がいなくなるので用意される前の冒険者のクローンのようなものだ。

「じゃあ前の結界で戦ったネイレスたちの……(シャドー)ってことかな?」

「どうかしら? 境界に貼られた結界って試練の時ほど強力じゃない気がするのよね。簡易っていうか、粗雑っていうか……」

「時間稼ぎが目的だから、障害になればいいって考えなのかも。僕たちの息の根を止めるつもりならもっと強力だっていい」

「なるほどね。確かにそうだわ。あいつは私とあんたは殺せない。殺すのが目的じゃないから」

 言葉は悪いけれど、レシュリー<1st>は僕たちを乗っ取ろうとしている。むしろ時間制限があるのは僕たちのほうだ。

「さて、キナギの様子を見に行こう」

 結界内での戦いはもう始まっている。

 けれど映し出された映像は、結界から離れすぎた野営からでは少し遠くて見づらい。


***


 目の前にいるのは人形の狂乱(ドールズパーティー)に出てくる(シャドー)によく似ていた。

 最初はウエイアの言う通り、黒いモヤモヤだった。それが四つに分かれて、真っ黒な等身大人形(マネキン)になった。身長はばらばらで、体ははっきりと輪郭が分からないように影のようにゆらゆらと動く。

 関節などの可動域には線が入っていて目が開き、ぎろりと動いた。

 四つの等身大人形マネキンはそれぞれが得物を持って構える。

 その動きに合わせてキナギたちも戦闘態勢。

 自分たちが構えたところでキナギは理解した。

 目の前にいる(シャドー)のような魔物は大業物〔大立回りヒデミツ〕とよく似た得物を持っていた。その得物は(シャドー)同様黒く同じものかどうかは分からない。

 けれど、その目の前の(シャドー)は自分と同じ構えをしている。誰かの構えをしていると言えばそれまでかもしれない。

 でも習いなおした柳友新陰流の構えで、しかも今でも直らない柳友新陰流の最初の構えで耳が動くという癖さえも同じならば断言できる。

「目の前のドッペルドールは俺たちだ」

「どっぺるどーる?」

「今名付けた。気にするな」

「そういうとこ、ありますよね。キナギさんは」

「了解」

 気心知れた会話をして、

「ではいつも通りで?」

 アズミの問いかけに、「よろしく頼みます」キナギは応じて戦いに身を乗り出す。

 自分たちが相手ならすぐ決着がつく、そう思っていた。


 けれど、そうならなかった。

 アズミは様々な戦いで活躍してきた〈光質〉の才覚を持つ冒険者だ。そんなアズミが烏金石の翌檜杖〔豊穣のトヨウケビメ〕を通して発動した魔法は【星明煌矢ルス・デ・ラス・エストレリャス】は、全く同時に発動したドッペルドールの【星明煌矢ルス・デ・ラス・エストレリャス】によって相殺。

 キナギの【柳友新陰流・右旋左転】も、同時に放たれたドッペルドールの【柳友新陰流・右旋左転】がぶつかり、刃と刃が衝突。火花を散らして互いの刃が滑り、同時にその場を離れた。

「全同時」

 イチジツが困惑するもの無理はない。使う戦術も動きでさえも同じだった。思考さえも同じとみるべきだろう。おそらく戦術に対する対策さえも同じだろう。

「これは困りましたね……」

「どうするの? キナギくん」

 モモッカが魔充剣ニッポンイチを握りしめてキナギを不安げに見つめる。

 キナギもキナギで問いかけられて動揺していた。

 もう一度仕掛けても同じ結果だろう。別の策を考えたとして、相手は自分だ。もしかしたら同じことを思いつくかもしれない。

 何か思いつかなければと思いながら、緊張からか左手を握りしめて、額をがんがんと叩く。

 そして自分の左腕にいつもお世話になっている小型端末をつけていることに気づいた。

 何を思ったのか、キナギはその小型端末にこう告げた。

「chartDCS。キナギ・ユウヤナギの倒し方を教えて」

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