表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
846/873

代替

***


 次の結界――原点草原レベル2とレベル3の境界に一番早くたどり着いたのはネイレスたちの部隊だった。

 正確にいえばネイレスとセリージュ、メレイナ、ムジカの四人。

 セリージュが昔、このあたりで経験値稼ぎをしたことがあり土地勘があったからかもしれない。

 魔物たちはランクの高さに驚いてレベル0からレベル1同様に恐れて出てこない。

 油断はできないが脅威がほぼゼロの、ただの草原を駆け抜けていくにはそう時間がかからなかった。

 ボスゴブリン、ガーゴイル、サイクロプスと結界内のボスが続けば、

 次のボスは人形の狂乱(ドールズカーニバル)のドールマスターだろう。

 境界にある結界の中央にいる魔物は白いマネキンのように見えた。ドールマスターは本来、敗北した冒険者のひとりの(シャドー)であるから形が定まっていない。だからこそマネキンの姿なのかもしれない。

 けれどそのマネキンの姿は幽霊系魔物の特徴を示唆するように、全体が半透明で浮いている。

 もう少し様子を外から窺おうと結界に近づいた途端――


 バヂンっ! と。


 異変に気づいてネイレスは周囲を見渡す。

「――ッ! 取り込まれたっ!」

 外にいたはずなのに、いつの間にか結界の中にいた。

 ネイレスだけではなく、セリージュ、メレイナ、ムジカも。

「強制転移する仕組みがあったってこと?」

「これ強制戦闘ってことですよね。キナギさんたちに怒られませんか?」

「さすがにそれは怒らないわよ」

 予想外の戦闘になったことを心配するよりも先にキナギたちが次の戦闘に参加したいと言っていたのにそうならなかったことを心配するメレイナに少し苦笑しながらネイレスは答える。

 けれどその場違いな指摘はメレイナにも余裕がある証拠だ。

 変な気負いや緊張はこういう場所では命取りにもなりかねない。

「怒ってきたら、みんなで説明なのね」

 セリージュも続くようにそう言い、ムジカも頷いた。

 四人が入ったことで、ドールマスターが気づき、ゆらゆらと身体を揺らしながら四人へと近づいてくる。

「まずはアタシが。三人はいつも通りに」

 ネイレスがいつも通り先行する。セリージュが護衛となり、メイレナが援護、ムジカが魔法詠唱するというのが最近の基本戦術だった。

 とはいえ、相手は見るからに幽体。武器などの攻撃では傷を与えにくい。ネイレスができるのはかく乱やけん制程度だ。

 遠距離ならムジカ、接近してきたらセリージュが主戦力になるとネイレスは考えていた。

 とはいえ、まずは一撃。どのくらい武器では傷がつかないかの確認をしようと上下刀〔どちらの道へアトス兄妹〕で切り込む。

 するりっ、と幽体がネイレスごとすり抜ける。

「――っ!」

 慌てて振り返り反撃に備えるが幽体のドールマスターは特に何もしてこない。

 けれど、ネイレスが通り抜けた一画がズドンと消失した。空間が切り抜かれた、と言ってもいい。

 結界内を縦16×横16×高さ16で分割した際に1×1×1の区域が消失したのだ。

 試しに消失区域に【収納】から取り出した回復錠剤(タブレット)を投げ入れる。本当は小石などで試したかったがめぼしいものは見当たらず、【収納】に小石などを入れている冒険者はごく稀だった。


 ジュッ


 と投げ入れた回復錠剤(タブレット)は音を立てて消失。

 はっ、としてネイレスは幽体のドールマスターの進行方向を確認。

 メレイナたちに向かっているようにも見える。

 この消失区域が幽体のドールマスターの進行方向にできるのか、無作為生成なのかはまだ分からない。

 それでも幽体のドールマスターの危険性を感じてネイレスは、メレイナたちのもとへと向かう。

 メレイナの速さを持っても数十秒かかるその距離でそれは起きた。

 ムジカが詠唱し、セリージュが護衛するいつもの行動になった際、相手が何者であれ、魔物であればメレイナが行う最初の行動は決まっている。

 【封獣球】を投げる。

 この一手で魔物が封獣さえれば、それで戦闘は終了。魔物による脅威は封印が解かれるまで一時的に去る。

 封獣されない場合でも一時的な足止めが可能となり、その間、ムジカの詠唱が進み、セリージュの負担が軽くなる。それどこか魔物が魔法に強く遠距離攻撃が得意な場合でも、一度でも一時的な足止めできれば、ネイレスもセリージュも接近がしやすくなる。

 そのいつもの行動に沿って、メレイナは【封獣球】を投げる。

 もちろん魔物も回避行動をとるため一度で当たることは少ない。

 だが幽体のドールマスターは避けることもしなかった。

 球体というよりも四角柱に近い【封獣球】が幽体のドールマスターにぶつかると、【封獣球】はそのまま幽体のドールマスターを吸い込んでいく。

 存在全てをその四角柱に吸い込み終わると、地面へと落ちる。

 そこから数秒、幽体のドールマスターが【封獣球】から出てこなければ封獣完了。もし失敗ならば煙のようなものが前兆して現れる。

 ムジカもセリージュもその動向に注視。出てくるのであれば、ムジカの魔法をそのまま発動する予定だった。

 白い煙がわずかながら【封獣球】から出てくる。その時点で封獣は失敗だが、幽体のドールマスター出現までにはまだ時間がある。その煙が【封獣球】を覆い、肥大し幽体のドールマスターと同じ大きさになるまでは猶予だ。

 


 ジュッ


 呆気にとられるというのはこういうことを言うのだろう。

 【封獣球】があった場所が消失区域に選ばれた。

 つまり、そこにあった【封獣球】が消失した。まるでネイレスが投げ入れた回復錠剤(タブレット)のように。

 しかも【封獣球】に封獣されたままの幽体のドールマスターごと。


 結界が消失していく。


 それは唐突な終わりだった。 

 幽体のドールマスターは不運にも強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドの効果によって自滅した。

 結局、幽体のドールマスターがどういう魔物なのかはっきりせず戦闘は終了した。

「終わった、終わったのよね?」

 流石のネイレスもその呆気なさに戸惑いを隠せなかった。


 ***


「ということがあったのよ」

「〈幸運〉の成せる業だよね。絶対」

「そうね。強制的に冒険者を取り込む仕組みが今回だけかこれから続くのかわからないけれど、それでもその仕組みに最初に取り込まれたのがネイレスたち、という時点でもう運がいいとしか言えない」

「【封獣球】が落ちた所が消失するもムジカがいたからこそよね?」

「アタシもそう思うわ。おそらく幽体のドールマスターは幽体だからあの消失にも耐えきれたはず。けど、【封獣球】に一時的にでも入った時点で、その効力がなくなったのも運がよかった」

「ムジカもだけどメレイナがいなかったら、突破できなかったかもね」

 その可能性も十分にあり得た、とレシュリーはアリーと顔を見合わせた。

「ま、キナギくんには悪いけど、ここはアタシたちが突破しちゃった。ということであとは頼んだわよ」

 メレイナが懸念していた点をネイレスは謝って野営設置を手伝っていたメレイナたちのもとへと向かっていく。

「じゃ頑張ってね」

 ネイレスにしては軽い挨拶だ。別れでもなんでもなく、この先に進んですんなりと帰ってくると分かっているのだろう。

「アリー、進もう。僕たちは仲間に恵まれている」

「ええ。それと先行してるイロスエーサたちにも伝えておくわ、結界を見つけても容易に近づくなって。次も吸い込まれないとは限らないし」

「そうだね」


***


 バン、バン、バン、バン、バン


 玉座の肘掛けを何度も叩く音が誰もいない空間に響く。

 そこには映し出された映像を見て苛立つレシュリー<1st>の姿があった。

強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールド同役二人(ダブルキャスト)】が一人で突破されて、強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールド空間代替(フィラー)】も一瞬だなんてどうなってるんだ! まだ、まだ僕を苦しめるのか! 僕は早くアリーに会いたいだけなのにっ」

 【同役二人(ダブルキャスト)】を突破したルルルカも、【空間代替(フィラー)】を突破したムジカもセリージュも、そしてメレイナ、ネイレスも<1st>ではとっくに死んでいる冒険者だった。

 思えば、

 強敵区域(ボスセクション) 結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】で勝利の鍵になったジネーゼも、レシュリー<1st>が見捨てた冒険者ではなかったか。

「くそ、くそがっ!」

 強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドだけで世界が融合するまでの時間切れを狙えると思っていたが、次の策が必要かもしれない。

 苛立ちを抑えて、レシュリー<1st>は対策を練り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ