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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
843/874

湖面

***


「もうやめてくれ」

 キナギは結界外に映る結界内の映像を見て思わずそうつぶやいていた。

 もう結界内の戦闘はあれから数時間が経過している。

 ある意味でこの結界は強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】よりもきつい。

 もうすでにアルルカは数十回、一眼のガーゴイルと双翼のサイクロプスを倒している。

 汗だくで休むことも許してくれない。物陰もないため隠れることもできず、常に敵視されている。

 一方で、手を緩めれば一眼のガーゴイルと双翼のサイクロプスは【一眼光線(アイビーム)】や【一瞬の衝撃(ウィングモーメント)】が飛んでくる。

 軌道は単調だが範囲は広く無傷で避けるにはカジバの馬鹿力を使わざるを得なくなる。

 その発動にかかる負荷が、何時間も戦闘を続けているアルルカには辛く苦しくなっていく。

 それでも攻撃をやめないアルルカにキナギはそう言葉を投げかけていた。 

 当然アルルカには届かない。いや届かなくていい。

 キナギの嘆きはある意味でアルルカには死の宣告だ。一眼のガーゴイルと双翼のサイクロプスを倒せないアルルカがこの結界を唯一脱出できる手段は死ぬのみだ。

 キナギの言葉は自分が見ているのが辛いからこその自分本位の発言だった。アルルカに死んでほしいという願いでは決してない。

 自分で言った言葉の、自分本位さに気づいて、キナギは反省するように結界へと体当たりを始めた。

 自分の力で結界をどうこうできるはずがない。分かってはいる。分かってはいるけれど、いてもたってもいられないのだ。

 そんなキナギの姿に触発されて居ても立っても居られない数人がキナギの後を追うように体当たりを始める。

「イロスエーサ、解析はどうでござる?」

 コジロウがイロスエーサに問いかける。イロスエーサの周囲には数人の集配員が見慣れぬ装置を持って分析をしていた。

 その分析はアルルカの戦闘直後から始まり今に至る。

「まだ先の全然であるが……結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】の情報しかないであるからな」

「さすがに情報が少ないと時間がかかるでござるか」

「であるな」

 コジロウが再び結界内の映像に視線を移す。


***


(時間がかかりました。けど――たぶんこれしかありません)

 結界外の動きは露知らずアルルカは解決の糸口を見つけたことに安堵する。

 数十回も一眼のガーゴイルと双翼のサイクロプスを倒してようやくたどり着いた結論。

 確証ではないが、アルルカの中で思いつくあらゆるパターンを検証しつくした結果、十中八九どころか十中九九間違いない。

(一眼のガーゴイルと双翼のサイクロプスを同時に倒す)

 胸中で自分の出した答えを出すとともに、それこそがアルルカの感じていた嫌な予感だと悟った。

 そう悟ると、ふっと胸にあったもやもやがなくなったような気がした。

 その嫌な予感が自分の中から消えると、確証ではなかった一眼のガーゴイルと双翼のサイクロプスの同時討伐が確証へと変わった。

 もう間違いない。

(姉さん。姉さんのアドバイスが役に立ちました)

 浮かぶのは亡きルルルカの顔ではなく、<3rd>のルルルカの顔だった。もちろん亡きルルルカを忘れたことはないけれど、<3rd>のルルルカがいることがアルルカの今の支えには違いないのだ。そんなもうひとりの姉はここにはいない。

 終極迷宮(エンドコンテンツ)のように<1st>から<10th>の冒険者が入り混じる迷宮なら露知らず

 ここは<10th>の次元のため、<3rd>のルルルカはここにやってくることはできない。

 それでも「もう少し我を通してもいい」「自分の"かん"を信じる」というルルルカのアドバイスは実践していた。

 だから嫌な予感がしていることを気のせいとせず、キナギたちの意見を突っぱねてまで、自分ひとりで行くという我を通した。

(今思えば――らしくはなかったかもしれませんが……でも戦闘の技場(バトルコロシアム)のときだって……)

 戦闘の技場(バトルコロシアム)のときアルルカは自分が戦うと姉に主張して我を通した。

 あの行為が結果的にアルルカもルルルカも自分の殻を破るきっかけになったように思う。

 だから間違ってない。

 随分と時間をかけてしまったのは申し訳なく思うし、結界外のキナギたちもきっと心配をかけてしまっただろう。

 外を意識したわけではないが安心させる意味でも、笑ってみせた。

 偶然なのかその瞬間が結界外に映し出される。


***


「天使だ……」

 誰かが思わずつぶやいた。キナギたちも結界へ体当たりを思わず止めるほどの可憐さだった。

「大丈夫そうだね。何か思いついたのかも」

 レシュリーもその笑顔を見て安心する。

「ひと安心だけど、見守るしかないわね」

 外からではどうやって攻略するのか今のところ皆目見当がつかない。こうではないかという憶測が飛び交っていたのも最初のうちで今はキナギのようになんとかしようと動く冒険者のほうが多い。

 それでもルルルカの笑顔を見た冒険者たちは手を止めて次の動向を見守り始めた。

 結界内の映像の中でルルルカが見知らぬ道具を取り出す。

「あの道具は何太郎? あっちきは知らない花子。見たことない次郎で候」

 まるで画面に食いつくようにソハヤがルルルカが取り出した道具に死ぬほど食いついた。


***


 またもそんな結界外の動きは露知らずアルルカは【|収納】から幻映の湖面鏡(エテリアル・ミラー)を取り出した。

 この幻映の湖面鏡(エテリアル・ミラー)終極迷宮(エンドコンテンツ)の階層の一部が湖のときに、魔物が落とす希少道具だった。

 幻映の湖面鏡(エテリアル・ミラー)はルルルカと同じ高さほどあった。鏡面は触らなくても水面に水滴が落ちたかのように波打っている。

 その波の激しさが増していき、鏡からまず左足が出てくる。そうして右手、右足、左足、そして全身が飛び出してきた。

「姉さん」

 その姿にアルルカが抱きつく。そこにはルルルカの姿があった。双子だからか、顔だけでは見分けがつかないが、レシュリーたちにはそこにいるのがルルルカ<3rd>だと分かった。出会ったときと同じ服装をしていた。

「なんか変な気分なの」

 抱き着いたルルルカの姿は少しだけ透けている。

 幻映の湖面鏡(エテリアル・ミラー)は他の次元の冒険者を幻身(エテリアル)として呼び出す道具だ。

 つまりアルルカの目の前にいるルルルカは幻身(エテリアル)だった。

「行きましょう、姉さん」


****


 ちなみにランク7以下は終極迷宮(エンドコンテンツ)の存在を認知できない。

 そこで手に入れた幻映の湖面鏡(エテリアル・ミラー)によって出現した幻身(エテリアル)も当然、ルルルカ<3rd>と認知できない。銀色の人形のように見える。

 その人形になぜアルルカが「姉さん」と呼んだのか、気にはなった。それでもランク7以上の冒険者の誰もが指摘していないので空気を読んで質問しなかった。

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