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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
841/873

是非

***


「レシュ。大丈夫?」

 原点草原レベル1の強敵区域(ボスセクション)にたどり着いたにも関わずまだ回想に耽っていた僕をボーッとしていると心配してくれたのか、アリーが声をかけてくれた。意識をゆっくりと戻していく。

「ごめん。少し異端の島にいたときのことを思い出してた」

「色々あったからね」

「体が消える感覚とかね……」

「思い出しただけでも身震いするわ」

 そう告げるアリーは体を震わすような身振りもしてくれたので思わず笑ってしまう。アリーなりに僕の緊張を解してくれたのだろう。

「それよりも見えるわよね」

「うん」

 アリーの指す方向には強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドが存在していた。

 原点草原レベル0の強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドにいた角折のボスゴブリンはその存在すら見えなかったけれど、今回の結界伸展エクスパンションフィールドは違った。その中にいるボスの姿が見えるようになっている。

「罠だと思うでござるか」

 傍にいたコジロウが近づいて話しかけてくる。

「どうだろう。もしかしたらもう僕たちが推測できるだろうから、わざわざ隠してないのかもね」

 角折のボスゴブリンの正体は新人の宴ザニュービーズデビューのボスゴブリンが強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】によって強化された姿だろう、というのが僕たちの推測だった。

 だとすれば、次のボスは共闘の園(タッグパーティ)のボス、サイクロプスだろうと想像できる。

 その推測は半分当たった。

 強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドから見えているボスはガーゴイルとサイクロプス。

 タッグを組んで倒した中ボスとボスが今度はタッグを組んで境界を阻んでいた。

 もちろん、共闘の園(タッグパーティ)に出てきたただのガーゴイルとサイクロプスではない。その姿は本来の姿からしてみれば異形だった。

「さすがに姿が違えば戦い方は変えねばならぬでござろうが……」

「他に何かしてきそうよね。結界伸展エクスパンションフィールドだっけ? それにもどうせ何か効果があるに違いないわ。性格悪そうだものね、〈1st〉のあんたは」

「まあ、魔王だからね」

 そう言うとアリーもコジロウも苦笑した。

 魔王になったから性格がねじ曲がったのか、元々あんなのだったのかはあえて言及しない。一応、僕ではあるのだ。

「で、結局誰が行くってことになったの?」

 結界の外から見える異形の二匹を見つめながら僕は問いかける。

 ガーゴイルはサイクロプスが持っていた一眼を、サイクロプスはガーゴイルが持っていた双翼を手に入れていた。

 名づけるとするなら一眼のガーゴイルに双翼のサイクロプス。

 背丈は圧倒的にサイクロプスのほうが大きいが胴体は図太く、それに比べればガーゴイルは細く小さい。とはいえ比較して小さいだけで一般冒険者の身長の1.5倍ぐらいあった。

 こうして並んでいるのを見るとまるで兄弟のようでもあった。

「ちょっと揉めてるわ」

「揉めてるっていうのは?」

 僕はその一団を見やる。

「キナギやモモッカは知っているでしょ?」

「うん。なんかつい最近まで空中庭園も一時閉園したりするほど塔京も荒れて大変だったみたいだね」

「でござる。なんとか今はそのごたごたも一時解消して、顔なじみの冒険者たちだけはこっちに来れたという感じでござる」

「でそのキナギたちが何を揉めてるって?」

「次の相手が見えるから、今回の戦いは自分たちで挑んでいいかっていう提案があったのよ」

「いいんじゃないの?」

「それには異論がないでござる。が……」

「アルルカが反対するのよ。何か違和感があるって」

「違和感。それはどっちに?」

 一眼のガーゴイルに双翼のサイクロプスなのか、空中庭園組になのか。

「それはボスのほうに、よ」

「まあ確かにあからさますぎるけど……」

 一眼のガーゴイルに双翼のサイクロプスが見えていて、かつ何らかの結界伸展エクスパンションフィールドがあるのならば、相当警戒はするべきだろうけど。

「だからひとりで戦うって聞かないのよ」

 僕は話し合いをすべくアルルカと空中庭園組を呼びよせた。

「一緒に戦うじゃダメなの?」

「はい。キナギさん達は温存すべきです。違和感を覚えているのが私だけなら、私だけで戦うべきです。巻き込めません」

 そう訴えるアルルカの目には強い意志が宿っていた。終極迷宮(エンドコンテンツ)の冒険を切り上げて僕たちに協力してくれている手前、僕たちはその提案を受け入れるべきなのだろうか。

「待ってくださいよ。俺だって強くなった」

 そう主張するのはキナギだった。

「違和感の正体がなんなんのか、わからなくてもその違和感があると今共有された。ならアルルカさんのような冒険者はもっと後にとっておくべきです」

 キナギはアルルカに恩義を感じているし、僕たちともオサキ戦で協力した。この戦いでも空中庭園のごたごたが落ち着いたのを見て協力してくれている。

 だとすればその恩義に報いるべきだとも考える。

 結局、僕が仲裁しようにも板挟みになるのは決まっていた。

「それが無理なら共闘でもいいでしょう」

「それだとこの先、キナギさん達が戦えなくなります。ここは私ひとりのほうが良いです」

「それでもいい。人数は多いに越したことはないです。何かの役に立つ」

「だからこそここまで成長できたキナギさんたちはこの先の戦いまで温存しておくべきです」

「やばい、これ。堂々巡りのやつだ」

 どうにか話し合いで、と思ったけれど良い着地点が見つからない。

 どうしよう、とアリーに視線を送るけれどアリーも思いつかないようで肩を竦めて困り果てていた。

 三日という制限時間があるからこそなるべく揉めずにスムーズに進みたい思いはある。

 こういうときに僕がびしっと決めるべきなのだろうけど、かけるべき言葉が見つからない。

「ここは任せるである」

 見かねてか、はたまた妙案があるのか、天幕を設営し終えたイロスエーサが小さく肩を叩く。

「あー、うんうん」

 小さく咳をしてアルルカたちの注目を集めると

「現在、結界伸展エクスパンションフィールドの解析中なのであるが、現時点で分かっていることがひとつ」

 そう言い始めた。

 アルルカたちが続きを早く、と視線を送るとイロスエーサはあっけらんかんとした表情でこう告げる。

「どうやら次の戦いに挑めるのはひとり限定。つまり【単独戦闘(ソロプレイ)】に酷似した結界が張られているようである」

「――っ」

 言われて少しばかり怯んだのはキナギだった。いくら成長したとはいえ、一人で戦うことはさすがに想定していない。

「それを考えると、ここはアルルカに行ってもらうしかないよ」

「いいですか、キナギさん」

 少し圧にも似た口調でアルルカは問いかける。

「是非もない」

 人数制限に阻まれたキナギは譲るしかない。もとよりそういう人数制限があるなら、絶対的な実力者を僕たちは送り込むしかなくなる。

 そうなるとコジロウやディエゴ、アルルカと選択肢が絞られてくるなかでアルルカが立候補しているなら、必然的にそうなる。

「キナギだけじゃなく、イチジツ、モモッカ、アズミも絶対にどこかで戦ってもらうときがくる。そのときお願いするよ」

 キナギは渋々だが、他の三人は「是」「はい」「うん」と頷いてくれた。

 意外な結末で決着し、アルルカが原点草原レベル1の強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドへと入っていく。

「助かったよ。イロスエーサ」

「信頼のなせる業である」

 イロスエーサがキナギたちには聞こえないようにこっそりと教えてくれる。

「どういうこと?」

「実は結界伸展エクスパンションフィールドの解析はしてないのである」

「呆れた……」

「嘘でござるな」

 アリーとコジロウがなんとなく真相がわかって苦笑する。

「方便と言ってほしいである」

 イロスエーサが開き直る。集配社スカル&ボーンズは信用できる情報を今まで提供してきた。

 だからその情報は信頼できる、と僕たちは勝手に刷り込まれている。

 イロスエーサはそれを逆手にとって話し合いでは決着がつかない議論に、嘘をついて着地点を用意したのだ。

「人数が多いほうがいいという理由は思いつかなかったであるから、こういう着地をしたのは許してほしいであるが……」

「いいよ。僕もアルルカさんの覚えた違和感が気になってた」

 それはキナギたちでは太刀打ちできない、というわけではなくキナギの役立ちたいという実直さや、空中庭園出身者ならでは戦闘感覚はどこか別の結界伸展エクスパンションフィールドでの戦いに役に立つと信じたうえでだった。

「始まるみたいね」

 一眼のガーゴイルと双翼のサイクロプスが入ってきた冒険者アルルカに向けて咆哮。

 それが戦闘の合図だった。

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