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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
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城砦

***


 ジネーゼに見送られながら原点草原レベル1とレベル2の境界に向かって走り出す。

 その境界は魔王レシュリーもといレシュリー・ライヴ〈1st〉曰く強敵区域(ボスセクション)

 先に向かった冒険者たちは僕のために道標を残してくれているので迷うこともない。

 ここに出る魔物たちも恐れをなして襲い掛かってくることはなかった。

 ソハヤはアリーが護衛しているらしい。バルバトスとジョバンニもいるからかアルとリアンもその役を担っていた。

 早く追いつかないととは思いながらも、強敵区域(ボスセクション)にたどり着くまでにまだ時間もある。

 僕は無人城下ザ・ヴォイドに向かったときのことを思い出していた。


***


「アリー、行こう」


 僕は手を引き、無人城下ザ・ヴォイドへと駆け出していく。

 魔物たちは怒りの矛先を向けるように僕たちへと向かっていた。

 当たり前だ。魔物たちにとって凄惨大地テラ・オブ・ビギニングスは生まれ故郷のようなものだ。そこを土足で踏み荒らされたうえに、破壊されつくされたのだ。

 僕たちも依頼で訪れた名もなき村が数か月後に廃村となり滅ぼされた惨状は目にしたことがある。あの時僕たちが抱いた怒りを魔物たちも覚えているのだろう。

「【転移球】で一気に行くよ」

 そう告げるとアリーは手を強く握り返す。【転移球】の連続投球で、一気に黙認街道アヴァーデッドを駆け抜ける。

 転移先はばれているが、魔物の多くは南の殺戮紫原ワンダリング・ランドから来ているようで、僕の【転移球】の速さに追いつけていない。

 そして魔物たちも無人城下ヴォイドに向かうにつれ、その数が自然と減っていった。

「何かを恐れているのかしら」

 追ってくる魔物が減ってきたのを見てアリーも何かんんん感じ取っていた。

 ジジガバッドが無人城下と名付けたのは城下町の廃墟のような街並みからかと思っていたけれど、その門を潜った途端、その意味が分かった。

 本当に異端の島、とは思えないほど魔物がいなかった。

「きれいね」

 そうなのだ、アリーの言葉通り、先ほどまでいた異端の島とは思えないほど美しい光景だった。

 滅んでいるはずなのに、誰もいないはずなのに、廃墟ひとつひとつが落ちている瓦礫、敷かれた道の欠けた床さえも、まるで計算されたような風情があり、そしてその隙間に咲く花さえも、自らを主張しながらも周囲すらも際立たせるような――目を引くのに、それが却って周囲の美しさをも引き出しているような、そんな光景があった。

 その光景の先にひと際目立つ城がある。

 ジジガバッドが地図に???と記したのがその場所だった。

 自然と僕の脳内にその場所の名前が浮かぶ。

魔王の城砦(サタンパレス)……」

 僕が思い浮かべた言葉と全く同じ言葉を呟いたのはアリーだった。

「アリー……なんでその名を?」

「分からないわ。もしかしてレシュも?」

「うん。なんでかは分からないけどもしかしたらこの場所にたどり着いたら自然とわかるようになっていたのかも」

 【単独戦闘(ソロプレイ)】の結界のように誰が張ったかわからない結界などもこの世界には存在する。度重なる世界改変(ヴァージョンアップ)で、勝手に世界の法則が変わる現象は何度だって自然と受け入れてきた。

 だからそういう仕組みがあっても理解はできるし、すんなりと受け入れられる。

 僕の推測と同じ推測をしていたのかアリーはなぜ名前が理解できたのかとやかく言うことはなかった。

 魔王の城砦(サタンパレス)に近づくにつれ感じる威圧感は強くなっていく。けれど中からは殺気も感じられない。

 無人城下ザ・ヴォイドの美しさに似つかわしくない、まるでその美しさを魔王の城砦(サタンパレス)という異物が歪めているかのような黒一色の城壁だった。

 僕の身長をゆうに超える門扉をゆっくりと押して城内を覗く。

 「誰もいないわね」

 門扉を大きく開いて、アリーが僕を越えて城内に入る。殺気も気配も感じない城内に危険はないのだろうけど、慎重に越したことはない。アリーの声は抑えられていた。

 入り口から赤い絨毯がまっすぐ敷かれ、その奥にある数段の段差の先に、また扉。

 アリーはその扉を慎重に開く。

 まだ何があるか分からない。覗き込むとそこは王の間だろうか、玉座があった。

 けれど誰も座っていない、伽藍の玉座が。

「宝石があるわ」

 アリーの驚きの声に僕も反応する。一緒に覗き込むと確かに玉座の横に見覚えのある台座がある。

 それは今までの試練で宝石が置いてあった台座と同じだった。

「罠かしら」

「ありえるね」

 新人の宴ザニュービーズデビューのボスゴブリン然り、試練にはボスが付き物だった。

 しかも今回は最後の試練、ランク9からランク10に至るための試練――何より、伝承にある10個の宝石。その最後のひとつを手に入れるための試練なのだ。こんなに簡単であっていいはずがない。

 しばらく様子を見ても、何も起こらない。

 痺れを切らしたアリーがゆっくりと玉座へと近づいていく。

「危ないよ」

「罠なのは百も承知よ。けど取らなきゃ始まらないなら取るしかない」

「待って。一緒に行く」

 僕もアリーに追いついてあくまで忍び足で玉座に近づく。玉座に近づいた瞬間、ボスが飛び出してくるというのもあり得るのだ。

 時折天井を、そして絨毯を交互に見ながら警戒して玉座にたどり着く。

「何も起きなかったわ」

 もう手の届く範囲に宝石があった。濃桃色に染まる宝石。 

「一緒に取りましょ」

 提案するアリーの体は震えている。ここまで何もなさ過ぎる。だからこそ恐怖を抱いていた。

 アリーの手を再び握ると握り返してくれる。無人城下ザ・ヴォイドの道中と一緒だ。

 それだけで十分だった。

 繋いでないアリーの右手と僕の左手が宝石へと延びる。

 顔を合わせて目で合図。同時に濃桃色の宝石〔それでも君が〕を掴み取る。

 途端に僕とアリーの体が光に包み込まれて、消えた。

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