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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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応報

 19


 時間は少し遡る。

「なんて強さだ。おれは聞いてないぞっ!」

 ステージ上にいるのはふたりの男。ひとりは十本指(テンスリトル)アエイウ、ひとりは試練内での殺人を楽しむPK(プレイヤーキラー)グレグレスだった。

 アエイウの仲間は場外でアエイウを見つめている。アエイウは犠牲を減らすために自分以外のすぐさま退場させていた。

 つまりこの試合はアエイウとグレグレスたちの戦いだった。

 しかしそれももうすぐ終わる。グレグレスの近くにはみっつの死体があった。全てグレグレスの仲間だ。

「黙れ、外道が。俺さまは試合が始まる前から無性にむしゃくしゃに怒っている! なぜだか分かるか?」

「知るかよ」

「俺さまの未来の女を貴様は殺したからだ」

「くそったれ! くだらねぇーな。試練での対人戦闘(PvP)では人殺しが認められている。さてさてどうしてだろうな?」

「どうでもいい。俺さまは気に食わない男を殺せる場面では殺し、殺せないなら痛めつける」

「なんだそれ。……なら気に食わない女は? さてさてどうする?」

 状況が状況のくせにグレグレスは気を紛らわせるように疑問を投げかける。

「矯正する!!」

 対するアエイウはらしい答えだった。

「意味分かんねぇーがどっちにしろ、てめぇーは最低だ。おれよりも、てめぇーが殺したおれの仲間よりも!」

「少なくとも殺しを楽しむ貴様らよりはましだ。貴様が与えられるものは恐怖しかない」

「おれにとっちゃそれが恍惚に変えがたいんだがな。さてさててめぇーには分かるかな?」

「ガハハハハッ! それは自己満足でしかないだろう。相手も楽しめてこそだ」

「減らず口を叩くなよ、人殺し!」

「ガハハハハッ! 人殺しは貴様だ。貴様たちは俺さまの女を殺した罪人だ。死刑にして何が悪い?」

「適当すぎるっ! ケッ、だがまあいい。ここでおれが助けを叫べばおれを助けてくれる人間は必ずひとりいるからな。さてさてそれが誰か分かるか?」

「ならばやってみろ」

 グレグレスはかなりの自信をもって、助けてくれるであろう冒険者に向かって叫んだ。

「助けてくれ」

 しかし、しかしだ、グレグレスの予想に反して、誰も助けになど来なかった。

 グレグレスが助けてくれると思った救世主とは目線は合ったはずなのに。

 だから助けてくれるはずなのに……。助けになどきてくれない。

 ルール上は認められているとはいえ、無益に冒険者を殺したグレグレスに救いの手を差し伸べるはずがない。

 それはグレグレス以外の目から見ても明らかなことだ。

 納得ができないグレグレスに込み上げてきたのは理不尽な怒りだった。

「偽善者めっ!」

 レシュリーに聞こえるように言い放つ。

「貴様はバカか。何を八つ当たりしている。当然だろうが」

 それに反論したのはアエイウだった。そのうえで問う。

「貴様は前の試合で自分が何をしでかしたのか分かっているのか?」

「試合に勝利した。さてさてそれの何が悪い?」

 グレグレスは吐き捨てた。

 グレグレスは勝利の過程で、全力を尽くしただけだ。狩りに全力を尽くすのは当然のことだ。

「いいや違う。貴様がしでかしたのは試練を利用した虐殺に過ぎない。そんな殺人鬼を誰もが許すとでも思っていたのか? 全力でぶつかった結果、死者が出たということであれば、誰もが受け入れる。しかし貴様がやったのは一方的な虐殺だ。観客のなかにいるそういうパフォーマンスを好むクソにサービスしただけだ。それを見て、誰が受け入れられる?」

「じゃあてめぇーはなんだ。てめぇーこそ、おれたちを虐殺している。さてさてそれはいいんですかぁ?」

「俺さまは冒険者だ。貴様のようなこういう試練だけでしか殺せない小悪党とは違う。必要なときに必要なやつを殺す。俺さまが貴様らを虐殺しているのは俺さまがそう判断したからだ。パフォーマンスじゃない」

「なんだとっ!?」

 噛みつくようにグレグレスは言い放ち、

「ふざけんなよ!」

 怒り、アエイウへと走り出す。

「貴様らは思慮が浅い。こうなると考えなかったのか。怒りを買った誰かが、復讐するとは考えなかったのか。その考えが少しでもあれば試練で無益に人を殺そうなんて考えない。貴様ら全員は枷が外れていた。それが外れてしまった時点で貴様らはダメなのだ」

 グレグレスの二本の鎌剣(サイスソード)長大剣(ロングロンガーソード)で容易く防がれる。

 大きさが段違いすぎた。

「さてさてここで問題だ! 貴様が殺されて悲しむ人間はいるのか? 答えはいない。そうだろう? 悲しむ人間がいるのならば試練で自己満足な行為なんてしない。そんな自分勝手な野郎に手を差し伸べるやつなんていない」

「ふ、ざ、け、る、なっ!」

「だからレシュリー・ライヴは貴様を助けたりしない。レシュリー・ライヴが俺さまの未来の女をひとりでも救ったのは、別の俺さまの女が悲しみ助けてと叫んだからだ。貴様のように保身で叫んだからじゃない」

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!」

 怒り狂ったようにグレグレスが叫ぶ。

「そんな貴様だから救われない。報われない。助けてもらえない」

「やってやる、やってやるよぉおおおおおおおおお!」

 意味も分からず叫んだ途端、

「だが安心しろ、俺さまが特別に救ってやる」

 グレグレスの胴体が二分された。

「淘汰も悪人に限り救いだろ。ガハハハハハ!」

 もちろんグレグレスには聞こえない。

 試合終了宣言のあと、

「俺さまの満足はまだまだこれからだぜ!」

 金鬼防水着ゴールデンブーメランパンツを履く上半身裸の男は自らの筋肉を見せびらかして周囲に猛烈にアピールしていた。

 それがドン引きされているとも知らずに。

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