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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
839/873

主題

 ***


 結局、イロスエーサがすべてのレベルの原点草原に天幕を設営、癒術院の天幕だけは人員がいないので予定通りに設営することを仮面の男冒険者と相談のうえ決めた傍らで、

「塗り塗り四郎で候~」

 ソハヤが意気揚々とジネーゼとクルシェーダの傷口に自らが調合した迅疾亭(じんしつてい)騒速(そはや)印の(なお)りのお(くすり)を塗り始める。

「ところで、お二方の親指にあるバッテンは何太郎で候? 何かお二方だけの秘密の親交花子?」

「いや知らないじゃん」

「いよいよ同じく」

「傷だとしたら治らない太郎、汚れだとしたら落ちない次郎、悔しいバッテン兄弟」

 その謎のばつ印については少し悔しそうながら擦っても取れなかったのでソハヤは諦め、姉御と慕う仮面の女冒険者に治療完了の報告を終える。

 仮面の女冒険者は自分がソハヤの護衛役になりそうだと思いながら報告を受け取ると、準備を整え、全員が原点草原レベル0からレベル1へと進む。

 がさらに想定外の事態が起きる。

「なんでか進めないじゃん」

「いよいよ同じく」

 先ほど結界内にて戦ったクルシェーダとジネーゼが原点草原レベル0から原点草原レベル1へと至る境界を進もうとしたところで、見えぬ壁――まさに結界に阻まれて進めないという事態に陥った。

「まさか、強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールド再々構築(リブート)】をこんなに早く突破されるとは思わなかったけど……予防線を張っててよかった」

 そんな声とともに背後から現れたのは魔王レシュリー・ライヴだった。

「いよいよどういうことだ?」

 放たれた殺気に怯むことなく、金剛手甲〔唸れギョイホウ〕をレシュリーの腹に叩き込んでクルシェーダが問う。

 魔王レシュリーの腹は弾けるが、魔王レシュリー自体はびくともしていない。

 クルシェーダも本体が来るわけないと思っていたが案の定幻影だった。

「あ、もしかして親指のバッテン太郎で候?」

「うん。誰だか知らないけど勘がいいね。そのばつ印――いや罰印は結界を突破したものがそれ以降の戦いに参加できなくなる罰則だよ」

 魔王レシュリーの幻影のはじけ飛んだ体が修復されるとその顔は笑っていた。

「最初から言う……わけないか」

「うん。それはそう」

「でもキミもすごいと思うよ、僕が出現する前から準備を整えて、すぐにここを発見した。僕の予想だと残り一日ぐらいでここにたどり着いて、かなりの強硬突破で、たくさんの冒険者が死んで、死んで、死んで、それで僕が転生するはずだったのに……」

「そんなことさせるわけがない」

「ああ、うざったい。いい加減、その仮面取りなよ。つけてた意味なんてないだろ。この世界の僕」

「そもそもこの仮面をつけていたのは同一存在だと世界が認知したときに悪影響を与えないための配慮だ。お前が来たならもう意味なんてない」

 魔王レシュリー・ライヴの注文に、仮面の男冒険者が応じる。

 そして仮面の男冒険者は自らの仮面――新型保護封〔マスク・ザ・ヒーロー〕をはぎ取った。

 同時に仮面の女冒険者も新型保護封〔マスカレード・ヒロイン〕を取った。

 そこにいたのは魔王になったとされているレシュリー・ライヴと死んだとされているアリテイシア・マーティンだった。

 他の冒険者は驚かない。正体はすでにとっくに周知されている。

「やっぱり、そっくりだ。それにアリー。キミも変わらず美しい」

「あんたに言われたくないわ」

「でもキミもやがて僕のアリーに転生する」

「しないわよ」「させないよ」

 アリーとレシュリーの声が自然と重なる。

「それ、気に食わないな」

 魔王レシュリーの顔が歪む。

「でもいいや。それも今だけ。僕はこの世界。僕がいた世界とは同じようで違う、異なる世界に転生する。そうこれは僕の、僕が異世界転生する物語だ」

 魔王レシュリーが力強く宣言する。

「ううん。そんなことはさせない。僕たちが生きる世界に勝手に土足で上がり込むな」

 負けじとレシュリーも叫んでいた。


「これは僕の物語だ。僕が、お前を異世界転生させない物語だっ!」


 

「はは、はははははははッ!」

 意趣返しのような言葉に笑いこそあれど、

「やってみろよ、レシュリー・ライヴ〈10th〉! この先、強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドはまだまだ存在する。全てを突破して、たどり着いてみせろ!」

 挑発に乗った魔王レシュリーの告げる言葉には怒気が含まれていた。

 告げるだけ告げて幻影が消えていく。

「まあ、そういうことで」

「いやそういうことで、じゃないでござる。ようやく顔を見せてくれたでござるな。二人とも」

 事情は知っていたが、レシュリーもアリーもコジロウの前ですら仮面を取ることはしなかった。

 アリーの死亡説が流れてから、ようやくふたりの素顔が見れたことでコジロウも安堵し、似合いもせず涙をこぼしていた。

「ごめん。悪かったわ」

「ごめん。みんなもいろいろまだまだ言いたいことはあると思うけど、力を貸してほしい」

 改めてレシュリーは頭を下げる。

「それはもちろんです」

 代表するようにアルが告げる。レシュリーだからこそ、ここまで力を貸しているのだ。商人ソハヤが協力するのも、鍛冶屋バルバトスやザイセイアが付き合うのも、レシュリーが冒険者として行ってきた結果からだった。

「じゃあ行こう」

 魔王レシュリーが言うにはまだ強敵区域(ボスセクション)結界伸展エクスパンションフィールドは存在している。おそらく原点草原のレベルとレベルの境界に存在しているのだろう。そう考えるとまだ先は長い。

「ジネーゼ、クルシェーダ。ごめん。せっかく手伝ってくれたのに」

「いやまあそれは知らなかったから別にいいじゃん」

「いよいよそうだ。こういうときは謝罪ではなく謝礼だろう。ありがとうでいい。いよいよあの子の仇も討てたから役目としては十分だろう」

「その割には死にかけて糸口だけ見つけて諦めようとしたじゃん」

「くどい」

「お前ラ。仲ガいいな。嫉妬しちゃうゼ」

 なんだかんだでふたりの傍にいたジジガバッドが笑う。

「ジジガバッド。後は頼んだぞ」

「分かってル」

 クルシェーダは結界の先に進めないが、ジジガバッドは先に進める。そういう意味でも後を託したのだろう。

「ありがとう。ふたりとも」

 レシュリーが改めてお礼を言うと

「ああ、それでいい」

 クルシェーダは静かに笑う。

「そうだ。道中、腹が減ったなら、集配員の誰かをこっちに寄越せ」

 クルシェーダはあることを思いついてそう提言する。

「美味い飯を作ってやる。ここには食材がたんまりあるからな」

 そう言って隠れ潜む原点草原レベル0の魔物たちへと視線を動かすと何匹かが逃げ出していく。

 米や調味料ならクルシェーダは持ち合わせているし、アビルアの酒場に戻ったっていい。

「いよいよまだまだ活躍できるようだ」

 レシュリーを安心させるようにクルシェーダは告げて原点草原レベル0の野営に戻っていく。

 ジネーゼはジネーゼで【収納】から遡行毒が入った薬瓶を渡す。

「道具の受け渡しはできるみたいじゃん。説明書も入ってるじゃん」

 遡行毒で罰印が消えるかどうかはこっそり試していて、消えなかったことは確認済みだった。それでも何かの役に立てばと自分の最高傑作を手渡す。

「ありがとう。助かるよ」

 受け取ったレシュリーは説明書に目を通して【収納】。

 そのまま、原点草原レベル0の境界を越えた冒険者たちへと合流していく。

 ジネーゼはレシュリーの姿をずっと見ていた。

 姿見えなくなるまでずっと見送っていた。

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