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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語
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回帰

 魔王レシュリー・ライヴのある意味宣戦布告にも見える言葉で世界は混乱に陥った――わけではなかった。

 もちろん今後どうなるだろうという不安などに駆られた冒険者、商人たちは数多に見られたが、事前に行われた説明によって混乱は最小限に抑えられた。

 そう魔王レシュリー・ライヴの出現は予定されていたものだった。


 三日前、その情報を仮面をつけた男女が持ち帰り、集配社を通して情報は瞬く間に世界へと伝わった。

 ある意味で終末の予言のように見えるその情報だったが、それでもその情報を受けて集まった名立たる冒険者たちの姿は、魔王が現れてもなお打ち勝てるものだと勇気づけるものでもあった。


***


「こっチに戻っテおいて正解だったナ」

 ジジガバッドが不慣れな人語で言葉を紡ぐ。

「いよいよ来るべきが来た、というやつか」

 その横でクルシェーダが、仮面の男女がもたらした情報が本物だったと実感を告げる。

 ジジガバッドは異端の島でレシュリーとアリーと別れた後、よからぬ不安に駆られて異端の島を離れていた。

 裂け目(ゲート)を通った瞬間、狩場で戦っていたクルシェーダに殺されそうになったがそれは別の話。

 特典〔自動変身(オートリプライ)〕は解除しているため、冒険者の姿をしているが、永い間スキュラ(犬頭魚人)になっていたため、人語としてぎこちない喋りをしていた。

 数年ぶりに自分の冒険者の姿を姿見で確認したジジガバッドはまるで他人を見ているような不思議な気分になった。

 それでもクルシェーダと酒を飲みかわし、久しぶりに思い出に浸ることもできたのだから、ジジガバッドにとってもクルシェーダにとっても、魔王の襲来はいい機会になったのかもしれない。

 それがなければきっと二人の道はまだ交わっていなかった。

「で、どうするじゃん? まさかどこかに消えるとは思っても見なかったじゃん?」

 ジネーゼは仮面の男女に問いかける。

 ふたりからもたらされた情報は、魔王レシュリー・ライヴがこの世界に出現することを予見していたが、まさかどこかに消えるとは思ってもみなかった。

 いきなり戦闘開始! だと思い込んでいた冒険者側からしてみれば拍子抜け。

 魔王レシュリー・ライヴが隠れたところを見つけ出す、まさかのかくれんぼから。

「魔王が異物とするならば、その異物が混入したことで異変が発生するはずである」

 イロスエーサがそう推測する。そういうこともあるかも、と集配員総動員で世界各地に連絡網を張り巡らしてある。

「まずは異変が見つかるまで待機、であるな」

 何人かが安堵の息をこぼす。

 かつてディオレスの基地だった場所――今はコジロウ名義の隠れ家になっているその場所に総動員された冒険者たちの緊張の糸が解けていく。

 確かに探し出すところから、となると拍子抜けかもしれないが、魔王レシュリー・ライヴが放った強烈な重圧(プレッシャー)で何もしてないのに体力疲労し、精神摩耗したのは事実だ。

 挑むのであれば万全になって挑みたい。そう思う気持ちもあったから安堵するのも当然といえば当然だった。


***


「ああ……そうであるか……わかったである……未来ある冒険者に見舞金をたっぷりと……」

 小一時間して連絡を受けたイロスエーサはどことなく悲しげに連絡の内容を聞いていた。

「異変のある場所が分かったの?」

 仮面をつけた女冒険者がイロスエーサに問いかける。

「見つかったは見つかったである」

「けれど悲しそうな顔でござるな」

「ランク0の冒険者一名が犠牲になったである」

「!?」

 聞いていた全員が息を呑む。

「どういうこと?」

「まさか、あの場所なの……」

「そうか。いたときは疑問には感じなかった。一念発起の島とか一発逆転の島とかそういう島の名称なんだと思っていた。けどそう今この状況になって腑に落ちたよ」

 仮面の男冒険者が、魔王がどこに消えたのか察して納得する。

「原点回帰の島ね」

 同意するように仮面の女冒険者が続ける。

 冒険者たちはランク0冒険者として原点回帰の島で過ごし、新人の宴ザニュービーズデビューでランク1となって冒険者として大陸へと旅立つ。

 まさにその島は冒険者たちの原点。

 そして魔王レシュリー・ライヴを倒しに冒険者たちは島へと戻る――つまり回帰。

 だから原点回帰の島。

「ランク0の冒険者は原点草原レベル0にて経験を積んでいる最中、ふと見知らぬ場所ができていることに気づき、そこに入ったところ、一瞬で亡くなったとのこと。集配員が調べてみたところそこは原点草原レベル0からレベル1へと進む道だったようである」

「原点草原ってあれじゃんね。ランクごとに進めるレベルが違う場所じゃん?」

「でも進めたってことは……どういうこと?」

「仲間というか兄弟の冒険者がランク1だったようであるな」

「ああそうか。上のランクと組んでいれば原点草原レベル1に進めるもんな」

「そうである。そして、普段のように異変がないなら、原点草原レベル1に進めるであるが……」

「異変があったと」

「その通路に結界のようなものが張られ、中に何か――おそらく魔物が守護者のように待ち構えているとのことである」

「じゃあその魔物に……。さぞ怖かっただろう」

「あー、だから見舞金?」

「じゃあ僕が払うよ。僕に責任がある」

 仮面の男冒険者がイロスエーサに告げる。仮面の男は三日前から魔王が出現した際の犠牲を最小限にしようと奮闘していた。

 その結果、最初の犠牲者がランク0の、これから冒険を始めようとする冒険者だったというのは辛い結果だった。

 イロスエーサが見舞金を払うというのなら、仮面の男冒険者が引き受けるべきだ。

 決意は固いと感じ取ったのかイロスエーサは静かに頷いた。

「では祈りを」

 誰かが言った。誰に捧げる祈りかは誰もが理解していた。

 誰からともなく目を瞑り、黙祷。

 犠牲になったランク0冒険者に祈りを捧げる。

「さて戻りましょ、私たちの原点に」

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