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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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嘆願

 18


「こっちは勝手にやらせてもらうぜ」

 シッタが舌なめずりをしながらコジロウのほうへと向かう。

「あんたとは一度やりあってみたかったんだよ」

 シッタが再度舌なめずり。人形の狂乱(ドールズカーニバル)でコジロウの戦いを見て少なからずそう思っていたらしい。

「ならばお相手致そう」

 それを無下にすることなくコジロウがシッタへと向き合う。

「シッタ。キミは少しチームワークを考えるべきです」

 呆れたように追従するのはフィスレ。刀剣〔超合金の魔人ガゼット〕を抜刀し、シッタに続く。

「コジロウ、私が援護するわ。そこの女には少なからず縁があるし」

 フィスレのことを知っているらしいアリーがコジロウと並走する。

「よそ見ばっかしてんじゃないじゃん」

 ジネーゼが振るう短剣〔見えざる敵パッシーモ〕の刃が僕の目の前で空を切る。

 ジネーゼが声で報せてくれなければ確実に傷を負っていた。

 ジネーゼはこんな不意打ちでの決着を望んでいないと言いたげだった。

 自ら勝機を逃したジネーゼだが、おそらくは正々堂々力で僕をねじ伏せたいのだろう。

 僕は【煙球(スモーカー)】を【造型(メイキング)】するとシッタへと投げつけてやる。

 四対四の戦いだから味方を援護するのは当たり前。敵の思惑通りにする必要はない。大勢でぶつかったのに一対一になるだなんて、娯楽雑誌的展開に用はないのだ。

「姑息だけど有効な手段です!」

 感心しながらフィスレは僕へと向かってくる。迫りくる刃を止めたのは煙幕の中から出てきたコジロウの痛烈な飛び蹴り。その蹴りがフィスレの態勢を崩し、刃が逸れた。

「でも自分がいるじゃんよ」

 間髪入れずにジネーゼが短剣(ダガー)を振るう。がアリーの狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕によって止められる。

「引っかかったじゃんよ」

 ジネーゼが少し笑った。アリーがまるで膝を後ろからかっくんと叩かれたように態勢を崩す。【力盗(パワーダウン)】によって膝の力を奪われたアリーはまともに立てなくなったのだ。

「吹き荒べ、レヴェンティ」

 しかしアリーもただではやられない。態勢が崩れながらもレヴェンティに宿っていた【風膨(バルーン)】を後ろに発動。

 普段なら踏ん張りが効き、発動しても反動で後ろに吹き飛ばされることはないが、力を奪われた今のアリーに踏ん張る力はない。

 ゆえにアリーは後ろに展開。膨れ上がる風によって起こる反動を推進力にしてジネーゼに突撃。

 それを防いだのはリーネだ。アリーの突進に合わせて金剛杖〔供養するアーゲンベルド〕でアリーの身体を一回転させて転ばす。

 受身を取ったアリーだったがリーネがさらに金剛杖(マーブルロッド)を振るう。ようやく膝の力が戻ったアリーは、リーネの拳に合わせて蹴りを放つ。放たれた蹴りがリーネの腹を直撃。

 同時に、アリーの肩をリーネの金剛杖(マーブルロッド)が強打した。


 ***


 一方、試合開始から五分、今まで防戦一方だったとある組が動き出す。アロンド組だ。

 もちろん防戦一方と言いながらも、アロンド組のほうが有利。

 アロンドの盾を用いた防御にルルルカとモッコスは手も足も出ず、遠慮しがちなモココルとアルルカは実力が出せずうまく立ち回れずにいた。

 そんななか、アロンド組から繰り出される三重(トリプル)風膨(バルーン)】。膨れ上がるその風が、ルルルカたちを押し出す。

 ここで意外にも役に立ったのはモッコスの2(メーチェル)50cm(セルチメーチェル)もの巨躯だった。さすがに荷物運びをしているだけあって筋肉もあり、傷つきながらもその風に耐えた。

 風が静まるとモッコスは痛みに耐え切れずそのまま地面に屈服。ルルルカのみが場外に落ちてしまう。攻撃を遠慮していたモココルとアルルカは幸運にもモッコスの巨躯によって被害をまったく受けずにいた。

「まだ戦いたいの」

 悔しさ交じりに退場したルルルカは思わず呟く。

 そんな言葉にアルルカにひとつの感情が芽生えた。

 それは今まで押し潰されていた感情ともいえた。

 姉思いのアルルカは悔やみ続けるルルルカにこう伝える。

「お姉ちゃん、ワタシ全力出すから」

 ルルルカはそんなことを言われても返す言葉が見つからなかった。

「お姉ちゃんのために、お姉ちゃんがこれからも光を浴びるために、ワタシ……全力出すから」

 その言葉で、ルルルカはアルルカが自分のために目立つことを遠慮してくれていたのだとやっとそこで気づいた。

「やっちゃえ、なの!」

 アルルカは姉ににっこりと笑顔を零すと、目の前の敵――アロンドへ向かって凶悪な笑みを見せる。

 反撃の始まりだった。


 ***


「なんなのよ、こいつ」

 払いのけたアリーが肩を抑えながら立ち上がる。リーネも立ち上がると構えを取る。前に突き出した金剛杖(マーブルロッド)を上下にくいっくいっと動かし、アリーを挑発。

「オレを忘れてんじゃねぇー」

 アリーがリーネへと向かっていくとシッタが舌なめずりをしながら煙幕から登場。リーネへと向かうアリーに【苦無(スピアエッジ)】や【手裏剣(リトルブーメラン)】を放る。

 それに集中しすぎたせいか【潜土竜(グランドドラゴン)】によって身を潜めていたコジロウがシッタの足元から出てくるのに気づかなかった。

「ぐえっ!」

 顎を蹴られ、舌なめずりのために出していた長い舌を歯で強烈にかんでしまい、シッタの目に涙が浮かぶ。

 それだけでは終わらない、シュキアの持つ長二叉捕縛棒〔支配者ドロップウィップ〕が悶絶するシッタの首を捕まえる。

 長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)は名の通り、先端が二叉に分かれた長い棒だった。その二叉によって囚人や家畜を捕まえ、押さえつけることでおとなしくさせることが主な役割だが、シュキアの使い方は違う。狂戦士シュキアはその捕縛棒で敵の首を捕まえたあと【筋力増強(ドーピング)】により腕力を上昇。そのまま持ち上げ、反対側にたたきつけるっ!

 頭からステージに直撃したシッタはそのまま倒れる。打ち所が良かったのか、シュキアが無益な殺生を拒んだのかはわからないが、シッタは気絶に留まる。それでも戦闘不能だろう。

「やれやれ、シッタはまだまだ修行不足みたいです」

 嘆息したフィスレが刀剣〔超合金の魔人ガゼット〕を振るう。

 アリーにはとうに見抜かれているが、フィスレの身体能力はずば抜けてはいないが、劣ってはない。ゆえに短所はないが、長所もない。つまりそれは誰の戦い方とでも合わせやすくもあった。

 リーネの攻撃にあわせるように平均的な速度の太刀がシュキアを追撃する。

 シュキアは強化技能で主に上半身を強化させ長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)と技能定義されていない拳術を使ってリーネに対抗。しかし速さを犠牲にしたその戦い方は素早く棒を操るリーネはもとより平均的な速度のフィスレにすら翻弄される。

「ちょこまかとうざったいよっ!」

 シュキアは長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)を振り回して、フィスレ、リーネの接近を阻む。

そのせいで、リーネたちは決定的な一撃を与えられずにいる。リーネたちがシュキアの突きに合わせて近寄ってもシュキアは横薙ぎで一振りするだけで対応できる。

 殺傷力のない突きを繰り出す長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)を止めようにも、二叉に分かれた先端を防御すればいいというわけではない。下手に武器で防御すれば二叉が武器を捕らえてしまう。

 そうすれば無手になるか、下手をすればシッタのように身体ごと捕らえられる。

 さらにアリーとコジロウがシュキアに合わせて攻撃を仕掛けていた。

「爆ぜろ、レヴェンティ!」

 アリーの怒号と同時にレヴェンティから【炎轟車(パーガトリミル)】が迸る。そちらに気を取られたフィスレに長二叉捕縛棒(キャッチ・ポール)の横薙ぎの一撃が直撃。

 なんとか防御するも、体勢を崩してしまい、その矢先コジロウの蹴りが強襲。抜群のコンビネーションだった。

 体勢をふらつかせながらもフィスレは立ち上がる。負けるわけにはいかなかった。

「助けてくれ!」

 突如、痛烈な悲鳴が闘技場へと鳴り響く。

 その声の主はグレグレスだった。

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