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tenth  作者: 大友 鎬
異章
829/873

戻れない過去

 ランク7の冒険者がなぜ突然姿を消すのか。

 その正体が露草色の宝石“一時の栄光”を手に入れたときに聞いた聞きなれない言葉、

 ――終極迷宮(エンドコンテンツ)にあった。

 世界の牙に、世界の鼻、世界の目に世界の口――そう見えるからそう呼ばれる、と思っていたそれぞれの地名が、その終極迷宮(エンドコンテンツ)だった。

 そこに入れるのはランク7以上の冒険者だけで、入った瞬間その冒険者は出てくるまで姿を消す。

 多くの行方不明になったランク7冒険者たちは終極迷宮(エンドコンテンツ)に入って戻ってこないのだろう。

 

 ***


 アリーと相談したうえで僕とアリーはすぐに終極迷宮(エンドコンテンツ)へと向かった。世界は久々のランク7冒険者に沸き立っていたけれど、僕たちはその喧騒を鎮める意味でも突入を決めた。

 終極迷宮(エンドコンテンツ)に入るとすぐに初回突入特典という超常の力を授けられた。

 いくつかの選択肢の中から僕が覚えた特典は〔最後に残ったものは(パンドーラー)〕と呼ばれる技能の成功率を向上させるものだった。

 未だ使用していない【蘇生球】の成功率は低い。

 アリーに何かがあったときのために成功率はできるだけ上げておきたい、そんな理由からだった。

「アリーはどんな特典にしたの?」

 終極迷宮(エンドコンテンツ)の中で合流したアリーに尋ねてみると

「んっ? 秘密」

 可愛げにはぐらかされた。同時にアリーも僕にどんな特典かを聞いてこなかった。お互いに秘密ということなのだろう。僕も自分の特典を選んだ理由を、アリー本人に面と向かっては言えない。だから、結果的には都合がよかったのかもしれない。

 アリーのことを知りたいと思う反面、すべてを知らなくてもいい、と思う。

 すべてを知ってしまったらアリーとの冒険の日々が逆に窮屈で退屈になってしまう、そう思ったから。

「何、じっと見てるの」

 アリーを見つめすぎて視線が合う。急に照れくさくなる。

「ごめん、なんでもない。進もう」

 視線をそらして、終極迷宮(エンドコンテンツ)の奥へと進んでいく。

 終極迷宮(エンドコンテンツ)の一階層は極端に狭くはないが、特別広くもない部屋だけだったり、かと思えば迷路のような通路だけだったりと無作為に作られていた。基本的にはその階層の魔物を倒すと下層への階段が出現する。

 ある程度、階層が進むと魔物が強化されていくが終わりが見えない。何階が最下層なのか、そもそも終極迷宮(エンドコンテンツ)の目的はなんなのか。

 時折、降りた先で冒険者の遺体が見つかった。装備していた防具はボロボロだった。【収納】されていた道具はともかく、持っているはずの武器が見当たらない。

 道具と同じように闇市に転送されたのだとしたら、ここでの死も、いつもの変わらない死でしかない。

 ただ、きちんと埋葬されない死体はゾンビやスケルトンといった類の魔物へと変貌するが、ここではそうならないらしい。

 せめて埋葬を、というアリーの提案で僕は硬い地面を掘り、知らない誰かの骨を埋める。

 墓石はないけれど、共同墓地の作法に則って聖水を振りかけて手を合わせた。

 冒険を再開して、何階層降りただろうか、突然目の前に上へと続く階段も現れた。

 下へと続く階段もあることから分水嶺なのだろう。終極迷宮(エンドコンテンツ)の攻略を続けるか、やめるか。

 アリーが何も言わずに上の階段へと向かう。

「ここに目的はないわ。そうでしょ?」

 振り向いて告げた言葉に、その通りだと頷く。

 興味本位でやってきただけだ。初回突入特典というありがたい恩恵はあったが、正直目的もわからない洞窟をひたすら下るのは今の僕たちには苦行でもあった。

 上に続く階段をのぼれば本当に外に出れるのかはわからなかった。

 それでも一日近く下り続けた僕たちは、ここを区切りとして外に出てもいいと判断した。


 ***


 たった一日。僕たちの体感ではそうだった。

 けれど世界では半年が経過して、さらに言えば世界が激変していた。

 まずは疫病。

 クイーンと呼ばれる冒険者が九尾之狐を復活させるために、その分身ともいえる犬神、オサキ、牛蒡種を解き放ち、それが原因で全世界へと一気に広がった。

 その三匹の魔物は討伐されたが結果、九尾之狐が復活。

 空中庭園を壊滅させたのが原因で、毎年、贄を要求していたヤマタノオロチ(八岐大蛇)が復活。さらに転倒童子と呼ばれる鬼も従えたクイーンはなぜか刑務所へ侵攻。

 囚われていた囚人たちを逃亡、あるいは殺害させながら刑務所の地下深くへと下っていた。

 そこではキングと呼ばれる冒険者がジョーカーと呼ばれる冒険者が従えたジャックによって殺害。

 ジャックはキングに操られていたらしくジョーカーの手引きでキングを殺害、記憶を取り戻したらしいがクイーンの目的は、キングを裏切ったジャックとジョーカーの殺害だったらしい。

 そもそもキングはβ事態に王制を崩壊させた大罪人で、何らかの目的をもって脱獄を図っていたが、ある時期を境にそのやる気がなくなってしまったらしい。その時期はリアンの死と重なるらしいが、それがどうキングとつながるのか、僕にはわからなかった。

 そしてジョーカーの改造者(チーター)と呼ばれる違法な強化を使用した私設傭兵にジャックがクイーンの使役する九尾之狐、ヤマタノオロチ、転倒童子とぶつかり、ザンデ平野をほぼ焼野原にして、両者全滅という結末を迎えた。

 その詳細をちょうど刑期を迎えた日にその事件が起こったヴィヴィから聞いて言葉を失った。

 さらにはイロスエーサも大変だったらしく、消息不明だった僕たちが基地へと戻ってきてくれたこともあり、ちょうど報告に来ていた。

 イロスエーサが所属する集配社救済同盟と、別の集配社スカル&ボーンズが合併して新しい集配社が誕生したらしい。

 その背景には集配社ウィッカの壊滅があった。僕たちが封印の肉林(シールフォレスト)で共闘したプティラ、トゥーリ、ティレー、ステゴ、ウルは集配社ウィッカに所属でその長たるブラギオ・ザウザスは、エリマさんと何かしらの因縁があったらしい。

 その因縁のためにエリマさんを誘拐したブラギオを許せないと立ち上がったアエイウが冒険者を募り、集配社ウィッカを襲撃。その渦中でアリーンとエリマさんは亡くなってしまったらしいが、その結果で集配社ウィッカが壊滅。集配社ウィッカ並みの情報の質を提供するために、集配社救済同盟と、別の集配社スカル&ボーンズは

集配社救済スカボンズに合併したとのことだった。

 激変していく世界に言葉が出ない。

 さらに言えば、僕たちがランク7になってからの半年の間で、ランク7の冒険者が何人か誕生していた。

 中でも共闘した名前に憶えのある冒険者はふたり。

 フィスレ・ウインドミル、リーネ・アクア・ク・アク。

 フィスレはシッタと夫婦になったらしいけれど、疫病禍のなか、冒険者として食料配達をしていたシッタは疫病にかかりそのまま亡くなったそうだ。

 世界が激動の半年を過ごしている間を僕とアリーは終極迷宮(エンドコンテンツ)のたった一日過ごしだけだった。

「そう」

 アリーは何か悔やむような顔をしていて、思い悩んでいるようでもなった。

 そんなアリーを見たからかイロスエーサが提案する。

「では悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリに挑んでみては?」

「そこって、場所がわからなかったんじゃ?」

「ええ。最近までは。けどガーデット旧火山の近くの村の冒険者ディレイソルくんが湖の底に変な違和感を見つけたのである」

「それで?」

「そこをランク5~7の冒険者で訪れてみたところ、ランク7の冒険者が悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリの入り口を見つけたのである」

「そうだったのか」

「それで数日後、悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリの攻略が開始されるであるよ。それに参加するのである。そこでランク8の冒険者が誕生すれば、β時代以来の快挙。暗い世界を明るい話題で照らし出すのである」

 イロスエーサが告げる。話題作りを常に探す集配員らしい提案ではあった。

「どうする、アリー?」

「行きましょう」


 ***


 数日後、僕たちは悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリの攻略班に加わった。

 僕とアリーが攻略に加わることを何人かの冒険者が嫌がっていたが、イロスエーサの頼みとあっては断れないのか渋々了承していた。

  そこには当然、フィスレとリーネもいたが僕たちと顔見知りと思われるのは良くないかもしれないと思い、軽く挨拶しておくだけに留めた。

 悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリには湖に潜る必要があるらしい。【呼吸補助(ブレスコーチ)】の魔巻物(スクロール)を全員が展開して突入。

 入ってすぐの空洞で誰かの遺体が見つかる。骨がわずかに残っただけで、防具の痕跡があることで遺体とわかる程度だ。

「β時代の挑戦者ね、おそらく」

 アリーが耳打ちしてくれた。僕もそう思っていた。僕たち以外のランク7の冒険者は近年にはいない。かつてはいた冒険者が試練に敗れここで死んだのだろう。

 ほかの冒険者たちも何人かは気づき、何人かは気づきもしなかった。

 空洞の先には大きな扉があった。その扉を少し開けると奥からキィ、キィと大音量。まるで祭りの会場だった。

 広がるのは大空洞。埋めつくすのはグレムリン(機壊魔)だった。

 その中央にひときわ大きい個体グレムリンマザーズ(機壊魔母)がいる。

「あれがボスか……」

 その大きさに誰かが思わずつぶやく。

「攻略を始めましょう」

 フィスレの一言で攻略が始まる。


 ***


 グレムリンは庭名(空中庭園での呼び名)では機壊魔といい、精密な魔法筒なのを簡単に壊してしまう。けれどこの場にその武器を使う冒険者はいない。ひとつ負担が減るが、ほぼ影響がない。

 問題なのはグレムリンマザーズから生み出されるグレムリンの数だった。

 数えきれない、というのが正しいほど莫大な数が生み出され、一撃で倒せるとしてもその数に圧倒される。

 全司師が魔法を詠唱し、一気にグレムリンを消滅させるが、数は減ってない。というのも詠唱している間にグレムリンは増え、全司師はその数を減らしているだけ。つまり数が増えないだけで減らないのだ。

 とはいえ、全司師がそうやって数を増やさないようにしてくれている間に前衛組がグレムリンマザーズに接近。 アリーもそのなかにいた。僕は後衛組だがアリーからは目を離さないように視線が通るようにグレムリンを器用に倒していた。

 前衛組が徐々にグレムリンマザーズを圧倒していく。グレムリンマザーズに傷が増え絶叫。

 最後の断末魔が鳴り響き、倒れる。

 途端、グレムリンたちが消滅。

 これほどまで広かったのか、と感想を抱いてしまうほどの大空洞のみとなる。

「うおおおおおおおおおおおおおっ!」

 倒したことで歓喜の声が広がっていく。

 僕もアリーに近づくと、アリーは何か考え事をしていた。

「どうしたの?」

「なんでグレムリンマザーズ、なんだろうって思って」

 疑問と同時だった。地面が割れる。

 グレムリンマザーズがその割れて出現した穴へと落下。冒険者たちも落ちていく。

 僕は瞬時にアリーだけを抱きかかえて転移。壁の空いていた横穴へと滑り込む。

 横穴から空いた穴を見つめる。

 その穴の底には大きなグレムリンマザーズが口を開いて待ち構えていた。

 それこそ先ほど倒したグレムリンマザーズをひと飲みできるほどの大きな口。

 何人かが鉤爪で壁に張りつく。それすらできない冒険者は、グレムリンマザーズとともにグレムリンマザーズ(大)の口の中に落ちていく。

 いやな咀嚼音が聞こえるとともに、グレムリンマザーズ(大)の腹が膨らんでいく。

「自爆するぞ」

 壁にはりついていた冒険者の顔が歪む。避け切ることもできない冒険者が死を悟った瞬間だった。そのなかにはリーネもフィスレもいる。

 僕もアリーも横穴から出ずお互いに抱き合って衝撃に備える。たぶん僕が偶然入ったこの横穴は最後の自爆を耐えるためのものだったのだろう。

 それを証明するかのように横穴には障壁が自動的に張られていた。

 グレムリンマザーズ(大)が爆発する。

 僕とアリー以外を巻き込んで。

 爆発が収まり、外に出ると何もなかった。誰もいなかった。

 グレムリンマザーズを倒したときにはなかった大きな穴と先に進む道以外は。

 爆発がすさまじかったのか、遺品すら残っていない。

 新しくできた通路を進むとそこには、他の試練と同様に宝石が置いてある。

 漆黒色の宝石“戻れない過去”。

 イロスエーサへの報告が心苦しい。重い足取りのまま、僕たちは歩いていく。

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