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tenth  作者: 大友 鎬
異章
826/873

失せし日々

「次は四人組らしいわ」

 情報収集をしてきたアリーがそう告げる。冒険者がたむろする酒場でのことだった。

「誰か勧誘する?」

「そうするしかないでござろう」

「あの子は? イロスエーサだっけ?」

的狩の塔(ハンティングタワー)は僕たちが一位だったのが原因で落ちてなかった?」

「あの後、合格したであるぞ。一日に三回行われているのを知らないようであるな」

 唐突に現れたイロスエーサに若干驚きながらもそんな声が届く。

「いつの間に?」

「話し声が聞こえたので挨拶を、と思っていたのですぞ。しからば勧誘の声が聞こえたので。もし某を、ということであれば答えは”良い”ですぞ」

「でも合格したなら一緒にいた仲間は?」

的狩の塔(ハンティングタワー)の仲間は某が情報収集したいがために雇ったいわば傭兵ですぞ。もっとも彼らも的狩の塔(ハンティングタワー)に合格して今は仲間探しに奔走しているであろうな」

「なるほど」

「それに三人組のままでいると都合が悪いというきな臭い噂もあるですぞ、もし三人組のままでお主たちが戦闘の技場(バトルコロシアム)の仲間探しをしていたら変な陰謀に巻き込まれる可能性もあったのですぞ」

「それは面倒臭いわね」

「だとしたらなおさらイロスエーサにお願いしたいよ」

「こっちとて断る理由はないですぞ」


 ***


 三日後、戦闘の技場(バトルコロシアム)が始まった。参加者ごとのトーナメント形式の戦いで、優勝者のみが合格できる仕組みだった。

「まずは初戦勝ち抜いていこう」

 気合は十分で挑んだ初戦の相手はシャアナ・ジジ・ヲンヴェに、ヒルデ、シメウォン、ラインバルトの四人組。ヒルデたちとは新人の宴ザニュービーズデビューと共闘しているが、シャアナとは初顔合わせ。〈炎質〉の才覚を持つ冒険者だったけれど、難なく突破する。

 目立った試合は、僕たちの試合ではなく他の試合にあった。

 戦っている最中、「誰でもいいから、助けっ――」という悲鳴があがった。

 アイタームにセリージュ、シクリーヌ、フィオナスという四人組と、ギンヂにファグゾ、シジマツ、グレグレスという四人組との戦いだった。

 戦闘の技場(バトルコロシアム)は観戦者がおり、さらに冒険者同士の戦いともあって生死は問わずを売りにしている。いわば見世物している試練だった。

 だから、平然と虐殺は行われる。悲鳴を上げたのはアイターム組で、ギンヂ組が一方的に相手をいたぶっていた。

 もうすでにアイターム側は三人も殺されており、残るひとりとなっていた。

 それでも僕たちも試練の真っ最中で、戦いの舞台から降りれば降参扱いになってしまう。

 観客は誰も助けてはくれないし、僕たちも僕たちで見捨てるしかない。

 僕は確かに【蘇生球】を使えるから生き返らせることができるかもしれない。それでも見知らぬ誰かを助けるために、仲間に迷惑をかけていいわけがない。

 ジネーゼを見捨てたように、リアンを見捨てたように、助けられる可能性と仲間への迷惑を秤にかけて、見捨てる選択をせざるを得ない。

 それが冒険で、それが試練だった。

 結局、全員が死亡という結末でアイターム組が全滅し、ギンヂ組が勝利していた。


 ***


 一回戦を突破してしばらくして二回戦が始まる。

 シュキア・ナイトアト、フィスレ・ウインドミルという初めて見る顔に、リーネとシッタという珍しい組み合わせのチームとの対戦だった。

 フィスレに関してはシッタが助けたかった冒険者だったという覚えがある。シュキアに関しては完全に初めて見る冒険者だった。

 シュキア組と戦っている最中、またしても「助けてくれ!」という声が上がる。

 横目で見ると、今度は一回戦で虐殺したギンヂ組が残りひとりとなっており、三人が死亡していた。

 相手していたのはアエイウ組だった。アエイウは言う。

「オレ様の女を殺した罪は重いぞっ!」

 アイターム組とアエイウにどんな関係があるかは分からない。それでもアイターム組が虐殺されたことに怒りを覚えたアエイウが同じような方法で逆襲したのだ。そういえばリアンが死んだときもアエイウは怒りのままに行動していたことを思い出す。

 結果的にギンヂ組もアエイウ組によって全員死亡という結末を辿った。

 僕たちはと言えば辛くも勝利した。

「話が違うっ!」

 控室に買える通路の一角で負けたシュキアが誰かに何かを訴えていたけど、僕にはどうでもよかった。


 ***

 

 準決勝の相手はルクスとマイカに、グラウス・ルシアンドール、マリアン・レイクドールの四人組だった。

 ルクスとマイカは人形の狂乱(ドールズカーニバル)で共闘した冒険者だけど、詳しい戦い方を見たのは戦闘の技場(バトルコロシアム)で初めてだった。

 初めてみるグラウスとマリアンのふたりの戦い方はたどたどしく相手にならないほどだったけれど、ルクスとマイカのふたりは手強かった。

 悪魔士のルクスは【悪魔召喚(デビルサモン)】によって悪魔を召喚し、グラウス、マリアンが欠けた人数差を埋め、さらに召喚された悪魔はそのふたりよりも格上で質さえも高めてくる。一方のマイカは堕士で堕言によって能力低下に加えてやる気を下げるなどの能力ではないマイナス面を強制的に植えつけてくる。それが厄介だったけれど、アリーが人形の狂乱(ドールズカーニバル)で得た〈操作無効〉によってマイカの堕言を無効化。盤面が動き、勝利に結びついた。

 もう一方ではアエイウ組が勝利し、決勝の相手となった。


 ***


「待ってたわ」

 控室に戻ると、ひとりの冒険者が待っていた。エリマ・キリザードという名前でディオレスが死んだ鮮血の三角陣(レッドトライアングル)で唯一合格し、ランク6になった冒険者だった。アエイウの師匠でもあるらしい。

「あなたたち命狙われているわよ」

 自己紹介を終えたあと、エリマがそう忠告する。

「どうして?」

「この戦闘の技場(バトルコロシアム)で賭けが行われていることはご存じ?」

「それは知ってるけど?」

「そこに八百長があるのは?」

 それは知らなかった。首を振ると

「その首謀者はこの戦闘の技場(バトルコロシアム)の運営者のオジャマーロなのだけど、実行者はシュキア・ナイトアト、になるはずだった?」

「なるはずだった?」

 エリマの言葉を反芻するとコジロウが気づく。

「二回戦の相手でござったな」

「そうあなたたちが倒してしまった」

「でも別にイカサマされた様子はなかったよ」

「そうだからあなたたちは何も悪くない。シュキアは決勝で、オジャマーロの指示を実行するはずだった。それまでは実力で勝ち上がる必要があったの」

「じゃあ、ただの八つ当たりってこと?」

「そうね。決勝でシュキアはわざと負けるつもりだった。それを知っている人は相手側に賭ければ確実にボロ儲けできる。けどわざと負ける側がいないなら、どっちが勝つかは半々。100%勝てるはずのギャンブルが50%負けるというリスクがあるギャンブルになってしまった」

「ただの腰抜けだわ」

「けど、その腰抜けが命を狙ってる」

「僕たちに賭けてみる、って発想にはならなかったわけだ」

「そういうものよ」 

 そう告げてエリマは去っていった。

「仕掛けてくるなら、いつだと思う?」

「この休憩後、すぐに決勝でござる。そこで拙者たちを不戦敗にできれば、と考えるのでは?」

「そうね。そう思うわ。賭けの対象が決勝に来なければ、やろうとしていたイカサマと同じ状況になるもの」

「ふたりの憶測はあっているである」

 エリマの話の途中で退席したイロスエーサが戻ってきて、とある情報紙を見せる。

 見せたのは賭けの倍率で、アエイウ組のほうが賭け金が多い。

「どうする? 決勝までに余計な戦いは避けたいけど……」

 簡単である、とイロスエーサはこう提案してきた。

「こちらに賭けている冒険者に匿名で情報を流すである」


 ***


 匿名で情報を流した結果、エリマの言うような事態にはならなかった。

 通路で待ち伏せした冒険者は、僕たちの勝利に賭けた冒険者によって排斥された。

 もちろん、アエイウ側に同じことをすれば、と考えた冒険者もいたけれど、そちらはそちらでエリマに排斥された。

 そうして決勝が正々堂々と行われて、僕たちの勝利へと至る。

 不言色の宝石“失せし日々”が壇上の中央に現れ、それを手に取ると観客の拍手が響く。

 その拍手に送られながら、僕たちは控室へと戻る。

「賭けに負けた連中が待ち伏せしているようである」

 イロスエーサが情報収集していたのか、そう教えてくれる。

「結構な数なの?」

「であるな。しかし、数を減らせれば突破は可能そうである」

「その策はあるの?」

「首謀者がオジャマーロであること、今回実行しようとしていたのがシュキア・ナイトアトだったことを告げるですぞ」

「なるほど。そうすると何人かはそっちに向かうかもね」

「時間もないから、その策で」

 僕が提案するとイロスエーサはそそくさと準備を始める。


 ***


 イロスエーサの策もあり、僕たちは戦闘の技場(バトルコロシアム)を抜け出す。

「某はこれで」

 入口でイロスエーサと別れて、僕たちは長い橋までたどり着く。

「じゃ、ここでお別れね」

「……」

 言葉の意味が分からなかった。

「聞こえなかった? ここでお別れって言ったの」

「嘘だ」

 嘘だと思いたい。理由が分からない。

「これは拙者たちが戦闘の技場(バトルコロシアム)を受ける前に決めていたことでござるよ。黙っていたのは悪かったでござるが……」

「ずっと会えないわけじゃないわ。でも分かるでしょ? ここからが厳しいの」

 ランク6になるためには相当な経験を積む必要がある。半端な努力じゃ辿り着けない。

「それは分かるよ。分かるけど、でも一緒にだってやれるはずだ」

「それはそうよ。でもあんたがいると私はきっと甘える。それじゃ駄目なのよ」

「それでも僕は、一緒に居たい」

 言葉が唇から零れる。本心だった。

「だって僕はアリーが好きだから。だから一緒に居たい」

 そう告げて、僕はアリーに口づけをした。突然のことでアリーは戸惑っていたけれど、長い永い口づけにやがて抗えなくなる。

「拙者は行くでござるよ。会うのは一年後、原点回帰の島で」

 アリーが僕とともに旅をすると決めたと理解して、コジロウはひとり歩き出した。

「行こう。一緒に」

「うん」

 アリーが蕩けた表情で頷いた。


 ***


 余談だけれど、シュキア・ナイトアトがこの騒動で死亡したとは後から知った。

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