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tenth  作者: 大友 鎬
異章
825/880

失意のままに

 ディオレスが死んで引きこもりの日々が続いていた。僕だけが外に出て生活必需品を買ってはアジトへと補充を繰り返す日々。

 そんな折にリンゼットという人から手紙が届いた。

 僕の腕を買って、原点回帰の島で新人育成をしてほしいらしい。

 しっかりと断りを入れたけど、しばらくはレスティアに留まるらしく気が変わったら、と滞在する宿屋を教えてくれた。

 アリーとコジロウは立ち直りつつあるけれど、それでもディオレスを失った傷は大きい。

 意外としっかりと師匠をしていたのだ。出会ってからの濃さが違う。

 アリーをしっかり支えなければ、と日々を過ごすなか、遠い地ユグドラ・シィルで大事件が起こっていることを僕たちは知りもしなかった。


 ***


 その大事件を知ったのは、ネイレスとメレイナのふたりがディオレスのアジトを訪ねてきたのが始まりだった。

「久しぶりね、ネイレス」

 顔なじみなのか、アリーがネイレスを招き入れる。

「あなたは随分と疲れた顔をしてるね……ディオレスさんのことは聞いたけど……でも助けてほしいの」

「私に?」

「あなたというか、そっちの投球士の子に」

 ネイレスの視線が僕へと向く。

「まあいいわ、入って」

「助けてほしい、っていうのは?」

「少し長くなるけど説明させて」

 そう言ってネイレスは話を始めた。


 ***


 二日前からユグドラ・シィルにアジ・ダハーカという竜が現れ、竜愛好家が死闘の末、ひとりを除いて全滅。次いで現れたのは[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]のひとりソレイル・ソレイルという冒険者で、彼がアジ・ダハーカを倒したが町の被害は甚大。

 しかもその討伐後になぜか毒素という通称で呼ばれている魔物がユグドラ・シィルに現れた。

 その毒素はネイレスの師匠ブラッジーニが持っていた魔物で、ブラッジーニの死ともに解放されたらしい。

 ブラッジーニがなぜそこにいたのかネイエス自身も分からないがとにかくその毒素を封印しないといけない、とのこと。


 ***

 

「それになんで僕が?」

「封印するには【封獣球】が必要で、それを作れるのは封獣士だけ」

「だから私が祖父に代わって、封印しようとしたのですが……」

 ネイレスに付き添ってきていたメレイナという女の子がそう説明する。

「【封獣球】の封印率は正直実力がものを言うの」

「じゃあ実力不足だったんだ」

 正直に感想を言うとメレイナは少し落ち込んでしまう。

「まあ、実力があるときに物事が進むわけじゃないしね。仕方ないよ。で僕は転職でもすればいいの?」

「違うわ。【封獣球】を作れるのは封獣士だけだけど、投球技能があれば誰だって投げれるのよ」

「なるほど。でもキミを実力不足と言っておいてなんだけど……僕で封印できるのかな?」

「やってもらうしかないわ」

「まあ、いいけど……」

 そんな返事で僕はユグドラ・シィルに来ていた。

 アリーもコジロウもアジトに留守番で僕だけがネイレスとメレイナのともにやってきていた。

 ユグドラ・シィルはほとんど崩壊していた。初めて来たので元がどんな街並みだったか想像できない。

 それでも瓦礫の街並みの中央に死者の名前を刻むセフィロトの樹だけが傷もつかずに仁王たちしていた。

 その近くに黒く巨大な霧のようなものが見えた。

「あれが毒素よ。もともと六体いたんだけど吸収して一番強い毒素だけ残った」

「魔物もいるね」

「ええ、普段は領土侵犯なんてしないけど街は壊滅中。今は集まってきた冒険者が足止め中よ」

 言いながらネイレスは廃墟と化した街並みを歩いていく。

「どこへ?」

「いいから。ついてきて。会ってほしい人がいるのよ」

 言われるがまま僕はネイレスについていく。申し訳なさげにメレイナがその後を進む。封獣できなかったから街の人々に対して申し訳ないとでも思っているのだろうか。

 ネイレスがやってきたのは臨時で作られた癒術院だった。たくさん立っている天幕の一角へとネイレスは入る。

「覚悟は決めた?」

 寝台に膝を抱えて座る女の子へとネイレスは問いかける。

「この子は?」

「ムジカ・メレル。竜愛好家のたったひとりの生き残り。〈幸運〉の持ち主。彼女の力があれば毒素まで安全に進める」

「私には、無理です」

 震える声でムジカはそう告げた。声どころか体も震えている。ネイレスが少しだけ苛立ちの表情を見せる。

「あなたたちにも責任がある」

「それ、どういうこと?」

「アジ・ダハーカがここに来ることを竜愛好家たちは知っていた節があるのよ。彼らだけ準備万端だった」

 愛好家なのに討伐しようとしていたのか、と疑問が生まれたけど言わないでおいた。

 竜を素材にした道具などを好んでいる、からこそ愛好家なのかもしれない。

「私は何も知らない。知らされてなかった。だから責任も何も……」

 と大声をあげて、周囲から突き刺さる視線に言葉を止めた。

 何があったか詳細は知らないが、竜愛好家以外の負傷した冒険者、あるいは住人の注目をムジカは集めていた。

 視線が気になったのかムジカは外へと走って逃げだしていく。

「どうするの?」

「あの子の力は絶対に必要だわ。なんとかして毒素を回避しないといけないから」

「その辺を詳しく知りたいんだけど、なんで回避する必要があるの?」

「毒素は必ず中心に核があるの。そこに【封獣球】をぶつける必要があるのよ」

「遠くからでは核に届く前に毒素に球が消滅してしまうの」

「私の時は偶然当てることができたんですけど、力不足で……」

 メレイナが申し訳なさそうに補足する。つまり、毒素を封印するには、毒素が纏う毒素を突破する手段が必要になるということだろう。

「じゃあ、その突破する手段が〈幸運〉ってことね」

「今思えば、私が偶然当てれたのも彼女の力だったのかも……」

「探してくるから少し待機しててもらっていい?」

 メレイナの偶然がムジカの〈幸運〉の力だったかもしれない、という憶測でムジカの重要性が増したのかネイレスがそんなことを言って天幕を飛び出した。

 僕とメレイナは置いてけぼりになってしまう。

「【封獣球】はある?」

「はい。ここに。どうするんです?」

 【造型】された【封獣球】を受け取って、僕も外に出た。

「どこに行くんです?」

「試したいことがあってね」

「【封獣球】は他人が使う場合、三分しか持ちません」

「なかなかシビアだね」

 僕が試し撃ちでもしたいと思ったのだろう、メレイナは止めなかった。制限時間があるので急いで駆け出して毒素へと近づいていく。

 ユグドラ・シィルの中心部に我ここにありと言わんばかりに存在していた。

 毒の霧が球体を維持しながら漂う。その毒の霧のような球体が毒素なのだろう。その中央に紫色の核が見えた。

 その核は脈動しているわけではなく、ただただ丸い。活動しているのか、寝ているのか、分からない。

 漂う毒霧はまるで生きているかのように左へ右へと動いていた。

 少しだけ触れてみたい衝動に駆られるが結果は目に見えていた。近くの小石を蹴とばすとジュッと一瞬にして溶けて消えた。

「これなら?」

 ディオレスの形見となった四分の一のユニコーンの角を使って作った【滅毒球】。それを毒素めがけて投げる。

 ユニコーンの角にはかなりの浄化作用があるらしく、ユニコーンの角を煎じて作った薬が道具屋にかなり高値で売られていた。

 それほど高値がつくぐらいの効力があるのだ。

 試し撃ちのように投げた【滅毒球】はそれだけで、毒素を切り裂き、核までの道をわずかに作った。

 次は本番。今度は全力で【滅毒球】を投球。かなりの速度を持って飛ぶ【滅毒球】はまるで海を割ったかのように、毒素を切り裂き、大きな道を作っていく。

 そのまま、【封獣球】を投球。

 切り裂かれた毒素が閉じられる前に核へと到達。

 そのまま【封獣球】が毒素を吸い込み、ころんと地面に落ちた。

 毒素のせいで少し陰りが出ていた空から光が差す。明るさが増す。

「何をしたの?」

 毒素の消滅に驚いたネイレスが駆けつけてきて問う。住人だろうか廃墟の隙間から僕を窺う視線が刺さる。

「封印、できたみたい」

 毒素を封じた【封獣球】を下手投げでネイレスに渡す。

「あとは任せても?」

「任せて。信頼できる召喚士に守ってもらうから」

 受け取ったネイレスが告げる。魔物を封じた【封獣球】はほったらかしにすると封印が解けてしまうので召喚士に託すのだという。

 封印が解けないのだったらなんだっていい。

「そういえばムジカは?」

「追いかけたけど、どこにもいなかった。竜愛好家の仲間だったから、ひとりでうろつくのは危ないのだけどうしようもないわ」

「そっか」

 素っ気ない返事を返す。興味はすでに薄れていた。恨みを買って殺されても、それがムジカの人生だろう。

 毒素が封印されたことで大騒ぎする街を背に帰路につく。大騒ぎする趣味はなかった。

 僕にとっては単に依頼をこなしただけだった。

 僕の意識からムジカ・メレルという名前が消えた頃、セフィロトの樹にその名前が刻まれた。

 だから後日ネイレスからその名前を聞いてもすぐに思い出せなかった。


 ***


 毒素封印の依頼から数日経って、ようやくアリーとコジロウが立ち直った。随分と時間がかかったけれど、時が治してくれる程度の悲しみでよかったと僕は勝手に思っている。

「次は的狩の塔(ハンティングタワー)だったね」

 一発逆転の島に向かう長い長い橋をゆっくり渡っていく。

 同じ方向に向かう冒険者の目的は同じなのだろう。

 的狩の塔(ハンティングタワー)を突破しても、同じ島で戦闘の技場(バトルコロシアム)も存在している。

 特に戦闘の技場(バトルコロシアム)的狩の塔(ハンティングタワー)の得点が出場権に繋がるので、的狩の塔(ハンティングタワー)で低得点で合格してしまうとかなりの確率で順番が回ってこないという悲惨な状況になってしまう。

 出場権が付与されても一発逆転の島に滞在してないと出場権はなくなるため、小さな島にかなりの冒険者が滞在している。

 一発逆転の島と大陸を往復する冒険者もいると聞いたことがあるけれど、この長い橋を何往復もしているうちに心が折れるのだとか。

 アリーとコジロウと打ち合わせしながら長い橋を渡り切り、一発逆転の島へ到達する。

 入ってすぐ見えるのは巨大な闘技場。月の闘技場(マーニコロッセオ)太陽の闘技場(ソールコロッセオ)と名がついた闘技場は、それっぽくそれぞれの入口に月と太陽が象られた印がついていた。

 月の闘技場(マーニコロッセオ)的狩の塔(ハンティングタワー)太陽の闘技場(ソールコロッセオ)戦闘の技場(バトルコロシアム)がそれぞれ開催されていた。

 宿屋の部屋を四日間ほど予約して、外に出るとアリーもコジロウもすでに準備万端で待っていた。

「さっき調べたら今日はこれからあるらしいわ」

 的狩の塔(ハンティングタワー)がある月の闘技場(マーニコロッセオ)に視線が向いていた。僕も異論はない。

「行こう」

 アリーやコジロウにとってはようやく前を向いて進むための一歩だった。


***


「久しぶりであるな」

 月の闘技場(マーニコロッセオ)に行くとそこにはイロスエーサがいた。

 お世話になったので無視するのも失礼だろう、軽く会釈する。

「知り合い?」

「アリーを探す依頼をした集配員の人だよ」

「そうなのね」

「これから試練であるか?」

 簡単にイロスエーサのことを説明していると、説明していた本人が近づいてくる。

「うん。イロスエーサは?」

「終わったである。なかなか難しいものであるな」


一位 アエイウ組   19876点

二位 エンバイト組  15765点

三位 イロスエーサ組  8030点


 月の闘技場(マーニコロッセオ)の近くにある掲示板に三位までの順位と点数が張り出されている。

「申請はしてきたでござるよ」

 申し込みしてくれていたコジロウが戻ってくる。「あと数分もすれば始まるでござる」

「分かった。すぐ行くよ」

 それじゃあ、とイロスエーサに挨拶して、僕は月の闘技場(マーニコロッセオ)へと挑む。


***


一位 レシュリー組  31022点

二位 アエイウ組   19876点

三位 エンバイト組  15765点


 見ていた冒険者が呆気にとられるほど、圧倒的な点数を取って、僕たちは的狩の塔(ハンティングタワー)を終えた。上位三組が的狩の塔(ハンティングタワー)の合格者となるので、僕たちが三位以内に入った時点でイロスエーサが脱落になるが「ハッハッハ、圧倒的でしたぞ」と笑って出迎えてくれた。

 集配員にとっては順位よりも話題のほうが大事なのかもしれない。

 出迎えてくれたあと、すぐにどこかへと去っていった。

「とりあえず、おなか空いたわね」

 合格の証である壺菫色の宝石“失意のままに”を【収納】して僕たちは失ったものを取り戻すかのように再び歩き始めた。

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