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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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案内

***


「そうイや、おマえら名は?」

「僕はレシュリー・ライヴ」

「アリテイシア・マーティン。アリーでもいいわ」

「おオっと、オれは名前は略さナい主義ナのでナ。レシュリーにアリテイシアか。改めてオれはジジガバッド・クンデンリーデだ」

 一度、止めた握手を再び再開。今度はアリーともジジガバッドは握手。一瞬驚いたような顔をアリーがしたのは少しぬめっとしたからだろう。

「で、どこに行クツもリだ?」

「お母さんを助けたいの。どこか冒険者が囚われている場所を知らない?」

「……」

 ジジガバッドはその言葉にしばし絶句。

「知っていルが、オススメしナい」

 少しして、そう告げる。

「どうして?」

「説明しズらい。一度、見てもラうのが一番早イが、そレも憚らレる」

「知ってるなら案内してっ!」

 ジジガバッドに掴みかかってアリーは怒鳴る。

「分かっタ。分かっタ。案内を引き受けタ以上、案内はすル。でモ、後悔してモ知らないゾ。オれは忠告しタからナ」

「大丈夫よ」

「なラ案内すル」

「あとその後にもう一か所」

 僕は古い異端の島の地図の???を指す場所を新しい異端の島の地図で指さす。

「そこは……案内はできるが……」

「何も見えなかった?」

「あア。何かがあるのは間違いなイ。だがランク7のオれでは見えなイ」

「ランク9の僕らなら見えるかもしれない」

「ラ、ランク9?」

 その言葉にジジガバッドがたじろぐ。

「驚いた?」

「いヤ、納得が行っタ。ダかラおマえたちはこコに来ようとしタのだナ」

「うん。その場所に試練がある可能性が高いんだ」

「まア、あるンだろうナ。その場所の君の悪サには近寄りがたいものがあル」

 近寄った時の威圧感を思い出してジジガバッドは身震いした。

「まあいい。でモそこハ後回シなんだろウ? 最初にアリテイシアのほうを案内すルゾ。だガ、本当にイいんダナ?」

「しつこい」

 アリーは再三の忠告にそう告げる。視線はジジガバッドではなく、周囲の霧を見つめる。この島のどこかにアリーのお母さんはいるはずなのだ。

「なら、行くゾ。こっちダ」

 ジジガバッドが歩き出す。「霧はいズれ晴れル。視界ガ晴れれバ、おとなしクしてイる魔物も動き出ス」

「そうしたらどうすればいい?」

「何モしなくていイ。言ったろ、その保護封がある限りおマえたちは何者でモなイ。堂々と歩けバ、魔物たチは興味を持たナイ。殺意も飛ばスな」

 霧の中に入っていくジジガバッドを僕は追いかける。アリーもジジガバッドの後についていくが周囲を見渡すのはやめない。母親が、この島で冒険者が囚われている場所以外にいる可能性も捨てきれないのだ。

「ちなみにここはどのあたりなの?」

 ジジガバッドにもらった新しい地図を見ながら問いかける。

「こコだ」

 殺戮紫原ワンダリング・ランドと書かれた紫色の大地を指指す。その中央に僕たちはいるらしい。

「この丸い印は?」

 古い地図にはない丸印が無数に書かれている。

裂け目(ゲート)の発生地点ダ。そこから魔物たちは転移を始める。おマえたちが出てきたのはコこだナ」

 ジジガバッドが指さしたのはまさに中央。地図にはその位置の北に深い亀裂、南に赤い川が書かれている。

「足元に気をつけろ、すグ横は異端の島のごミ処理場。落ちたもノはドこカへと消えてゆく無情機構リーディング・トゥ・オブリビオンだ。霧が晴れれば見える赤い川――鮮血激流パーペチュアル・ストライフの終着点でもあル。見てみロ」

 ジジガバッドが地図を指していた指を動かし、血の滝を指す。

 確かに底が見えない亀裂へと血の川の水が流れ落ちていっていた。

「少し遠回りになルが、東はパーペチュアル・ストライフが邪魔で通れナい。近づけばわカるが激流のセいで泳いデ渡るのも難シい」

地図を見ながらジジガバッドを続ける。

「この島は地図を見てわかルとおリ、西に行ケば、北に広ガるリーディング・トゥ・オブリビオンも切れ目があル。そこヲ越えテ北を目指ス」

「じゃあ今はひらすらに西だね」

 ジジガバッドが頷き歩みを再開。アリーは僕たちの会話には参加せず相変わらず周囲を見渡していた。それでも僕たちが歩き出せばきちんとついてくる。案内をジジガバッドに任せて、見落としがないようにしているのだろう。

 しばらく歩くと霧が晴れてきた。と同時に視界が鮮明になり、はっきりとリーディング・トゥ・オブリビオンの全貌が見えていく。底が見えないことをはっきりと視認したせいで足が震える。覗くことすら憚れるほどの恐怖をその底から感じた。もしかしたら何もかもを飲み込む魔物が棲んでいて、落ちてくる全てを食らいつくしているのかもしれない。そんな想像をしてしまうほどの根源的恐怖で僕は身を竦ませた。

「落ち着ケ。あまり見るナ。おマえはどうモ、ランク9らしくなイ。アリテイシアのほうがよっぽどそれっポイ」

「だろうね。自分でもそう思うよ」

 アリーは異端の島に来ても堂々としていた。いや目的に突き進んでいるから堂々とせざるを得ないのかもしれない。それはそれで息が詰まりそうだった。

「とりアえズ深呼吸だ。空気は悪イがな」

 ジジガバッドが大きく笑う。ジジガバッドなりの冗談で場を和らげようとしていた。

 言われた通りに深呼吸。本来は冒険者に害なのだろうが保護封がそれを新鮮な空気へと変えているのだろう。吸い込んだ空気はいつもと変わらないような気がした。

「霧が晴れタおかゲでリーディング・トゥ・オブリビオンの先端が見えてきタ。あそコからは北ヘ」

「次の目印は?」

「ここかラでも見えている」

 ジジガバッドが北を指す。霧が晴れたからだろう、その異常な、そして偉大な壁が見えていた。

「あレが、無益防壁オプスキュア・オブスタクル――魔物しカいないこノ島で何を守っテいるカ分からなイ天然の防壁ダ」

 島の周囲を囲う口伝山脈ン・グラネク(地図明記)の山肌とは違うどす黒い防壁が北にはそそり立っていた。

「左右の防壁の間に道があル。次の目的地はそこダ」

 霧が晴れたのも影響するのか、大陸に出現するありとあらゆる魔物たちがワンダリング・ランドに姿を見せていた。

 どの魔物も堂々と歩いていたら何もしてこない。アリーが周囲を窺っていてもまるで興味がないと言わんばかりだ。

「言い忘れたガ魔物同士の喧嘩が始まったラ、巻き込まレるナ。何者でモなくなり、認識されル」

 アリーも僕も頷く。途端に緊張感が増してきた。

 とはいえその忠告は忠告だけで終わった。魔物同士の喧嘩が起こることもなく僕たちは左右のオプスキュア・オブスタクルの間、島のほぼ中央からさらに北に延びる道へとたどり着く。

 ジジガバッドの地図には黙認街道アヴァーテッドと書かれていた。

 その道だけは人工物なのか、紫の大地ではなく、まるで海岸の砂浜のようなさらさらとした砂道が北へ北へと伸びていく。

「もう地図を見れバ分かると思うが、こノ道を行けバ無人城下ザ・ヴォイドにたドり着く。そコにおマえのいう『???』があル。ザ・ヴォイドはオプスキュア・オブスタクルよりは小さナ石造りの城壁に囲マれた無人の城下町みたいナ所だ」

 ジジガバッドが地図を見せながら説明している最中、無視した場所がある。それだけでアリーも僕も察しがついた。

「この地図の地名は、ジジガバッドが自分で歩いて見て名付けたの?」

「そうダ。おマえたちが見せてレれた古い地図を参考ニした部分はあルが。それよりもオれらしさを出したつモりダ」

「だとしたら、ここにはジジガバッドも行ったんだね」

 僕が地図で指したのはジジガバッドが無視した場所、冒険者が囚われている場所、アリーの目的地。

 ジジガバッドが名付けた地名は凄惨台地テラ・オブ・ビギニングス。

「その名ハ警告ダ。その場所を黙認してアヴァーテッドを歩いて行けバ、ザ・ヴォイドへはたどり着ク」

「それでも行くわ」

「おマえもか、レシュリー」 

 僕は首肯。アリーが行くなら行くに決まっていた。

「はぁあああ。諦めテくれナいか……」

 ジジガバッドは深いため息。心変わりをどこか期待していたのかもしれない。

「……分かっタ。案内すルと言った以上、そコまでは案内すル。だが、そコで何を見てモ、魔物に殺意を向けるナ。如何なルものにも攻撃を加えるナ」

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