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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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混沌

***


「いよいよ混沌じみて来たな」

 騒ぎを聞きつけたクルシェーダが馬車から飛び降りて南の島――一発逆転の島へと続く橋へと着地。

 何の因縁もないはずの冒険者と純正義履行者(エクセシブファンズ)が、互いが互いを攻撃したという因果のせいで戦闘が始まり、周囲は戦場になっていた。

 さすがのクルシェーダもそれは想定していない。

「点火してないやつは任せるじゃんよ」

 姿は見えていないが、ジネーゼがとっくに駆け出していた。

 クルシェーダは馬車の賃金を二人分払っていて馬主は怪訝な顔をしていたが姿が見えないジネーゼが乗っていたからこそだった。

 無線乗車でも見えてないから問題ないと主張したジネーゼだったがクルシェーダとしてはそういうわけにはいかなかった。

 そんなやりとりはともかく、一本指の登場は純正義履行者(エクセシブファンズ)にとって予想外だった。

 集配社・救済スカボンズの防衛に現れたと噂程度には知っていた。だとしても、だとしてもだ、純正義履行者(エクセシブファンズ)の本隊とも呼べるナッツ側に現れるとは思ってもみなかった。

 そんなナッツの思惑とは裏腹にクルシェーダとしてはやってくるのは当たり前のことだった。

 なにせ難敵退治を得意とするクルシェーダが重きを置いているのは難敵の根絶だ。もちろん難敵には定期的に復活するもの、根絶しきれないものは存在するが、それでもそういう敵でさえも周期を計算して復活するたびに倒しているのが現状だ。

 爆弾を抱え、自爆を目論む冒険者――難敵退治のクルシェーダとしてはそんな冒険者たちを放置しておけない。

 その集団が一発逆転の島へ集結していると聞けば、駆けつけないわけがないのだ。


***


「ジョレス!」

 デビが嬉しい増援と、なぎ倒されていく敵を見て声をかける。

 視線の先にはナッツがいた。

 倒せ、という意味だろう。今なら一騎討ちするぐらいの余裕はある。

「ナッツ!」

 ジョレスがその期待を背負うようにナッツを見据えてその名を呼ぶ。

 ナッツもそれに気づいてジョレスへと向かっていく。

 ナッツ自身、爆弾を体中に巻き付けているがまだ点火していない、他の純正義履行者(エクセシブファンズ)を利用してアリーへと自分自身を刻みつけるのを目的としているため、道中で点火する意味はないのだ。

 改造の副作用の影響かナッツがなぜまだ点火しないのか、純正義履行者(エクセシブファンズ)の冒険者たちは別段違和感を覚えていない。

「いいでしょう。おれの腕に見て驚け」

 ナッツが意図を察してジョレスへと聖剣〔振り出しに戻ったカッテロロール〕を振りかざし、ジョレスは三日月剣〔不可思議グランブル〕で受けて立つ。

 ナッツは聖剣士だった。打ちつけた聖剣から聖剣技【刻下聖晶(エンシェントソング)】が発動。ナッツの周囲に癒術【守鎧(ソリッド)】と同程度の物理障壁が展開。続けざまに聖剣を打ちつけて今度は聖剣技【聖々導々(ホーリーロード)】が発動。ナッツの周囲に今度は癒術【魔壁守鎧(マジカルソリッド)】と同程度の魔法障壁が展開される。

 己の周囲を防壁で囲い、万全の状態でナッツはジョレスを追いつめようとしていた。

「知ってますよ、ジョレスさん。四刀流を目指しているようじゃないですか?」

「それがどうした?」

「なのに、いまだに剣一本。そんな志が低いままでいいんですか?」

「美しくない、とでも?」

「ええ。ジョレスさん的にいえばそうなりますね。無様とも言います」

「それは確かに美しくない」

 ジョレスは自嘲する。

「もちろん一時期、二刀流になったこともある。そのために剣も買った。けどしっくりこなくて、結局使わなくなった。まだ早いと思った」

「それは諦めでは?」

「違う。アリーさんの弟子になったのは三刀流が美しいと思ったからだ。だから四刀流に近づくためには弟子になるのが手っ取り早いと思った。その一方で弟子になって痛感した」

 ナッツとジョレスは互いに剣で打ち合いながら会話をしていた。防壁に守られたナッツがやや有利で押し込むことも可能だったが、ジョレスの会話が気になるのか、打ち合いよりも会話に重きを置いてた。そのおかげかジョレスも押し込まれずにいる。

「憧れだけじゃ追いつけない」

 ジョレスがナッツに追い打ちするようにそう告げた。ナッツがアリーに憧れていることはなんとなく察していた。だから憧れているだけのナッツに、ジョレスはまるで本音を突きつけた。まるで死の宣告。

 だからナッツではジョレスに勝てない、とでも言わんばかり。

「だったら見て驚け。知って泣きわめけ。おれの実力を」

 自分に周囲に展開される防壁の分だけ、強引に詰め寄りナッツはジョレスの首元近くまで剣先を近づける。ジョレスもなんとか三日月剣で耐えている。

 ナッツが首狙いなのはアリーへの憧れなのだろう。アリーの固有技能【三剣刎慄(トリアングラム)】は三本の剣で首を掻っ切るものだ。それに倣ってナッツもまた狙いをそこに定めていた。

「首だけになった姿を見せてやるっ!」

 弟子のさらし首を悪女に見せつけて、絶望しているところに自らを刻みつけようとでもいうのか、今思いついたような言葉を投げつけて、さらに力強く聖剣を振りかぶって、三日月剣にぶつける。武器ごと破壊しようとでも言うのか、何度も何度も繰り返して叩きつける。

 ナッツは意地でも狙いは変えない。三日月剣が軋む。そのまま叩きつければやがて破壊されるのは誰の目にも見て明らか。

「聞いて轟け、その軋みはそのまま絶望だっ!」

 ナッツが調子に乗る。アリーの弟子という、憧れている人間にとっては羨ましい位置にいるジョレスを追いつめ、そして殺せる機会に、あり得ないほど興奮していた。

 再度、聖剣〔振り出しに戻ったカッテロロール〕を大きく振りかぶり、首元を狙って振り下ろす。

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