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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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蜂巣

***


「聞いて轟け、見てハニカめ」

 ナッツは周囲の純正義履行者(エクセシブファンズ)にそう告げる。

「この先に悪女がいる。そして目の前には悪女に加担する冒険者がいるんだねぃ」

 ナッツは感情のままにそう告げる。

 アリーが悪女である、そう伝え聞いた情報を鵜吞みにしたままナッツは突き進んでいる。

 もう誰も止められない。

 ナッツの感情の波が伝播して、誰もそれを疑っていない。

 改造(チート)の副作用も相まって、もはや何が真実かを判断するよりも早くナッツの感情的な訴えが強い影響力を発揮していていた。

 ナッツの言うことが全面的に正しい、もうそれ以外の思考はない。

 ナッツ・フィッツは人一倍アリーに憧れていた。

 アリー――アリテイシア・マーティンは才覚を持たない。

 〈操作無効〉は試練において付与されるもので生まれ持ったものではなく、固有技能もまた死線を潜り抜けた際に得られるものだとナッツは定義していた。

 それこそレシュリーは〈双腕〉でコジロウは〈中性〉など才覚に恵まれ、当たり前のように強くなっていくなかで、アリーだけは持ち前の実力でランク8までたどり着いた。

 才覚がないいわば凡人がそこまでたどり着けたのには多大な努力があったに違いない。

 だからこそナッツは憧れた。

 そんな折に獄災四季(カラミティカラーズ)が起こった。

 その災害でなくなった冒険者のなかにはナッツの知り合いもいた。けれどそういう突然現れる魔物を倒すのが冒険者の役目で、倒して得られる名誉は莫大なものだ。冒険者はそういうものと、いつものようにナッツは言い聞かせた。

 だのに、突然 けれどランク9になったアリーは、いやなるためにアリーは人災を起こしたという情報が流れ込んでくる。

 嘘だと思った。だがその情報の爆発力はすさまじく、すぐに悪女という情報は世界を駆け巡った。 

 だとしたら自分の憧れたアリーは、ランク8に至るまでも何かしら不正を働いたのではないのか、そんな疑念が生まれてきた。

 さらに、その人災を救済スカボンズが隠蔽しようとしていたという情報までも広がりを見せている。

 ならもうアリーはランク8に至る過程までに不正をしているに違いない。その不正は救済スカボンズが隠蔽していたのだ。

 そんな疑念をオーマジーに告げたところ救済スカボンズならやりかねないと強く主張があった。オーマジーもまた救済スカボンズに痛い目にあわされたことがある。そんな集配社ならやりかねないとオーマジーは言った。

 ああ、もうこれは確信だ。

 ナッツのなかでの疑念、憶測が、オーマジーの意見で固まっていく。

 そうやってナッツの世論は完成した。ジョレスのようにアリーの言葉を聞くことなく、自身の感情だけで突き進んでいく。

「おれの知り合いは、悪女が起こした人災で亡くなった。黒騎士にあっけなく殺された。彼の人生はまだこれからだった。なのに悪女は自分の利益のみのために人災を起こし、自分だけは高みを目指そうと悠々と生きている。彼は死んだのに、だ」

 ナッツの言う”彼”は名前を知っているぐらいの知り合いで、一緒に冒険をしたことも一緒に酒を飲み交わしたこともない。ただ名前を知っていた冒険者が、黒騎士討伐の依頼を受けて実力がなくて死んだ。だから実はそれほどまで深い悲しみはない。死を経験し続けている冒険者たちにとって知り合い程度の冒険者が死ぬことは日常茶飯事だ。

 ナッツはそんな知り合いの冒険者(実は名前すらうろ覚え)を利用して、純正義履行者(エクセシブファンズ)に発破をかける。

「そしてそれを良しとせず立ち上がったおれたちを邪魔しようとするやつらがいるんだねぃ」

 ナッツは立ちふさがるジョレスを強く睨みつける。

「そう目の前にいるやつらだねぃ。やつらもまた重罪人。悪女に味方するものもまた、悪だねぃ!」

 ナッツの言葉を強く受けて「応っ!」と大声が上がる。

 ジェニファー(JEN1-4A)が吹き飛ばした冒険者もゆっくりとだが、その言葉を受けて立ち上がりつつある。

「皆の者、聞いて轟け、見てハニカめ。ぼくたちの生きざまを悪女に刻み込むために道を作るのだ!」

 ナッツの激励に、誰も迷いもなく突撃を開始する。

 誰しもがその身に爆弾を巻きつけていた。

 悪女に制裁を。その訴えを優先させるがあまり、それがおかしいこととは思ってもいない。その特攻こそが自分の感情の爆発であり、自分の訴えであると揺るがない。

「トオリヌケタテキハオネガイシマス」

 そう告げたジェニファー(JEN1-4A)が先陣を切る。

 取外式巨大槍(ンギンドザ)の巨体を振り回すだけで爆弾冒険者は近寄れない。

 その大きいな槍をどうやって回避するか、と距離を置き純正義履行者(エクセシブファンズ)は少し躊躇。

 がすぐに走り出す。躊躇している意味はない。爆弾の導火線は点火され、徐々に爆発までの時間は迫っている。

 大きく振り回す取外式巨大槍(ンギンドザ)の軌道は単調。

 これなら潜り抜けれると歴戦の冒険者たちは油断。しゃがみ、あるいは跳び、その軌道を避けジェニファー(JEN1-4A)へと駆け出す。

 瞬間、目の前に砲術技能【大砲(カンノーネ)】を使用したかのような砲弾が直撃。

 ジェニファー(JEN1-4A)の両足が割れ、内部に設置されていた大砲から発射された砲弾だった。

 砲弾がその大きな質量で取外式巨大槍(ンギンドザ)を避けた純正義履行者(エクセシブファンズ)を地面へと叩きつける。

 取外式巨大槍(ンギンドザ)の単調な軌道は油断させるための罠だった。

 すり潰された冒険者はその重さを跳ねのけるのに苦戦。その間に巻き付けた爆弾が爆発。

 自分という存在を刻み込む前にその存在を消失させていく。

「捕まえたっ!」

 それでも器用な純正義履行者(エクセシブファンズ)ジェニファー(JEN1-4A)の体躯へと爆発寸前で飛びかかる。

「ジェニファーさんっ!」

 デビの心配げな声。爆風が晴れ、ほぼ無傷のジェニファー(JEN1-4A)が姿を現す。

「ソンショウリツ0.001%。ホボムキズデス」

 以前はほぼランク7の実力を持っていたジェニファー(JEN1-4A)は更なるジョバンニの強化によって、その能力値の底上げに成功している。低ランクの冒険者の技能、魔法に該当しない爆弾などの攻撃はほぼ通用しないまでになっていた。

 むしろその強さにデビが呆気にとられるほど。

「デビ、横っ!」

 クレインの言葉でデビは爆風の陰を利用して、自分の横を通り抜けようとする冒険者に気づく。

「マエハコノママオサエマス」

 数は多い。今爆弾の導火線を点火した純正義履行者(エクセシブファンズ)は使い捨てなのかもしれない。ナッツを含め、後ろに控えていた純正義履行者(エクセシブファンズ)はこの機を逃さずに爆弾を点火せずに南の島へ続く橋へと向かおうとしていた。

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