機縁
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『そんなことがあってこっちは片がついたのであるぞ』
イロスエーサが【電波】先からそう告げる。
「ジネーゼとクルシェーダさんが助っ人に来たのか」
ジネーゼはともかく一本指クルシェーダはあまり認識がない。むしろ別次元のほうが知っているぐらいまであるのだけど
「なら安心ね。でもそれだけじゃないんでしょ?」
聞こえてきた声に、アリーが応答。安全確保したことだけをわざわざ連絡しただけではないと見抜いていた。
『試練探しの参考になる情報が欲しいかと思って』
「それならもう入力しているわよ」
目の前にある地図を見ながら、アリーは告げる。
『やや。ひとつ聞くであるが、それは冒険者の試練の情報だけであるのでは?』
イロスエーサの指摘に、僕もアリーも驚いていた。
確かにそれは盲点だった。
電話越しにイロスエーサはきっと愉悦な表情を浮かべているかもしれない。
パチンと電話越しに指を鳴らす。
するとなぜか連動して、目の前の地図の点々が増える。
「どういう仕組み?」
『ジョバンニどのと共同開発であるな。その地図は』
「聞いてない……」
飛空艇の改造を任せたのは僕ではあるけれど、それでも外部操作できるのは微妙に複雑だった。
『地図だけであるぞ。目的地を共有したいときに便利であるからな』
僕の心境を見抜いたイロスエーサがそう付け足す。
「やっぱり一念発起の島の試練が抜けてたんだよ」
表示された地図を見てクレインが呟く。
この【電波】前にクレインが何かを言いかけていたのだけど、クレインも地図に示された冒険者用の試練の位置を見て、それに気づいたのだろう。
地図上にはかなりの試練の情報が表示されていた。
「ないのは空中庭園――」
異端の島自体の地図はないから一応付け加えておく。
『いや、空中庭園にも試練はあるじゃんよ。ザッキーがそう言ってたよ』
【電波】にジネーゼが割り込んでそう告げる。
「そうか。もしかして闘球専士の試練?」
『そうじゃんよ。本当は口外しちゃダメらしいけど、酔った勢いで教えてもらったじゃんよ』
その言葉を受けてかイロスエーサが空中庭園にも点が出る。試練がある、というだけで明確な位置ではないのかもしれない。
「ってなるともう……異端の島、だけか」
『そこは情報がないであるな』
「見に行く……としてもその方法がないし、可能性がそこだけだとしても何か情報がほしい」
『知っている人に心当たりはないであるな……』
「いるよ」
僕は思い出したように告げる。
「ゴーザックさん」
「ゴーザック……えっと?」
「ほらナイトゴーントの魔方陣が描ける的狩の塔の……」
「そっか。あの人ね……」
アリーも思い出す。
僕が昔、「あなたは何者なんですか?」と尋ねて、地縛霊と答えた人物だった。
あの試練に出てきたグールもゴーザックさんと知り合いの人間で、受付の女性も呪いを受けていた。
『何か分かったことが?』
「うん。とりあえず目的地は決まった。一発逆転の島だ」
「彼らを救う」と僕は決めていた。遅くなりすぎたけれど、もしかしたら異端の島に行くことで何か手がかりも見つかるかもしれない。
『目的地が決まったなら何よりである。さらに耳寄りな情報をもうひとつ、飛空艇を追う一団がいるであるぞ』
「ありがとう。間違いなく純正義履行者だろうね」
「戦いになりますよね?」
ジョレスが言う。
「うん。一発逆転の島には飛空艇で降りれない」
うろ覚えだけど着陸には申請も必要だった。「あの長い橋で絶対に戦闘になる」
「では師匠たちは先行してください。その手前で止めてみます」
「ジェニファーはどうする?」
「タタカイマス」
「じゃあみんなに任せる」
ジョレスにデビ、クレインにユテロが力強く頷く。
久しぶりの共闘だからかみんなが嬉しげにしている。
飛空艇を滞空させて下を眺めると確かに冒険者の一団が見て取れた。
「センセイコウゲキイタシマス!」
取外式巨大槍〔悲運のリゾネット〕を取り出して、そのまま上空から飛び出していく。
超急降下だが、ジェニファーの耐久力なら大丈夫だろう。
そのまま橋の手前の地面を抉るように純正義履行者を巻き込んで着地。そのまま横なぎに一閃。
名前の通り巨大な取外式巨大槍を振り回し、まだ準備をしてなかった純正義履行者が倒れていく。
そのまま僕たちも転送紋で外へと移動。
「そういえば、ジェニファーいなくても飛空艇は浮かんだままだよね?」
「ハイ。タイクウジョウタイハイジサレタママデス」
「あとは任せた」
純正義履行者は混乱しているかもしれない。僕もアリーも仮面を装着していた。
それにジェニファーが現れることも想定外だったに違いない。
それでもまだ純正義履行者は相当数存在しているが、僕もアリーも見向きもせずに橋へと駆け出していく。
突然やってきた一団とジェニファーたちへと、南の橋を渡ろうとしていた冒険者たちの視線が向く。
そこに紛れるように僕たちは入り込む。
「ここは通さない」
任されたデビたちが嬉しげに宣言する。




