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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
808/874

横暴

***


 ひとまず僕は先ほどの地図を見ていた部屋へと弟子四人をつれていく。

 目的がないのに行きましょうと告げたジョレスは少し赤面しているが、アリーに背中を押されて、ピンと伸ばしたまま僕たちの後へとついていく。

「何をしていたんですか?」

 入るなりクレインが尋ねる。開きっぱなしだった地図と、印が気になっているのだろう。

「いまだ不明のランク10の試練の場所を探していたんだ」

「ランク10……」

 思わずデデビビが呟く。ランク6から見たら、それだけで未知の領域なのかもしれない。

「僕たちとしては何も試練がない地域が怪しい、って思うんだけど……」

「だくざんあるだ」

 ユテロが印のない地域を見て慄く。各地域の境界線は点線で区切られ、どこからどこまでが何の地域か、と地図上ではわかるようになっている。

 それを見ても印のない場所、空白の地域が多いのが見てわかる。

「あの……」

 何かに気づいたのかクレインの言葉が届くよりも先に

「アノ」

 結果的に遮るかたちになったジェニファー(JEN1-4A)の声が届く。

「シュウハイシャカラレンラクガキテイマス……!」

「イロスエーサたちが? 何の用よ? あっちは落ち着いたの?」

 気になったのかいち早くアリーが小型端末を手に取る。こっちからの通信のみかと思っていたけど設定された【電波】が分かれば連絡も取れるのかもしれなかった。

「もしもし……」


***


 レシュリーとアリーが出発して数分後までに時は遡る。


「ひとりじゃない。もうひとりいるぞ!」

 純正義履行者(エクセシブファンズ)のひとりが叫ぶ。

 爆弾を体に巻きつけた同志の一部は爆発もせぬまま、その場で息絶えている。

 集配社・救済スカボンズの一階をスムーズに占拠したのもの束の間、優勢に見えた状況はやってきた、たったひとり。いや先ほどの言葉を借りれば、ふたりによって劣勢に切り替わっていた。

 そもそもコーエンハイムが一階を放棄し、二階以降に籠城を決めたのは、ふたりながらやってきた援軍の力が大きい。

 見えないひとりに変わって見えているひとりが言う。

「いよいよ引き返すなら今のうちだ。危ないぞ、そんなもの」

 集配社に襲撃してきた冒険者を憂いて言葉を投げかけたのは[十本指]の一本指に選定されたクルシェーダだった。

 一本指の援軍に多くの純正義履行者(エクセシブファンズ)が足踏みしていた。

 中には混乱している冒険者もいる。

 集配社・救済スカボンズは悪女の人災を隠蔽しようとした――正しい情報を封じ込め間違った情報を流布しようとしている極悪な集配社だ。

 今までの情報ももしかしたら正しくなかったかもしれない。デマだったかもしれない。そんな情報を握らされた覚えはないか、と唆された。

 今ここに集う冒険者は全員がそういう情報に踊らされ騙された経験がある。それを正そうと言われ奮起した。

 けれど、そこにクルシェーダが現れた。

 情報に踊り踊らされてきた冒険者たちだからこそ、[十本指]の一本指という称号が強さの証明であると知っている。そういう情報を得ているからこそ、恐れおののく。

 だから揺らぐ。

 その強さの情報は本物だと知っているからこそ揺らぐ。

 救済スカボンズの情報が偽物なら、[十本指]の情報さえも嘘。

だが[十本指]の強さを知っているからこそ、転じてそれは本物になる。

 何せ、[十本指]を選定したのは救済スカボンズだ。そしてその情報を救済スカボンズに襲撃している純正義履行者(エクセシブファンズ)の一部の冒険者たちは知っている。

 そうやって足踏みする純正義履行者(エクセシブファンズ)の冒険者に

「星0ですよ。再評価してほしいなら私の声に耳を傾けなさい」

 オーマジーはこう告げる。

「その[十本指]すらも嘘交じりなのですよ。適当に名のある冒険者を指定して、それなりに強いと思い込ませる。それなりに活躍しているから、それなりに強いのは当たり前。当たり前を利用して本物だと見せかけているのです」

 オーマジーは大真面目だった。

「だから大したことない。私の評価からして彼は星2です。そんな人に星3評価のあなた方が負けるとでも?」

 情報に踊り踊らされて怒りを込める冒険者は寄せ集めに過ぎない。それでも純正義履行者(エクセシブファンズ)の大義である刻みつける行為に必要不可欠な人材だ。

 オーマジーの高評価が自分ならやれるのでは?と彼らに期待を植えつける。それが過大でも関係ない。高い評価はやる気を漲らせ、低い評価は否応がなしにやる気を奪う。

 評価によって感情を操作してオーマジーは純正義履行者(エクセシブファンズ)に突撃を開始させる。

 顔には出さないがオーマジーにも焦りがあった。正体不明の、見えない冒険者はいったい誰なのか?

 知っている人からすれば彼女が暴れまわっていると、見えなくても一目瞭然。

 けれど知らない人からすれば、何かがいるが、何か分からないという恐怖に変わる。

 爆弾に火をつけようとした冒険者から次々と、着火前に切りつけられ、それでおしまい。

 かすり傷でもそこから侵入した毒が純正義履行者(エクセシブファンズ)の冒険者を一瞬で昏倒させていく。

 だからオーマジーは対策しないことに決める。

「動作を乱したやつは星0。今から一斉に火をつけるっ! それができてこそ星5評価だっ!」

 オーマジーが吼える。見えない冒険者は素早い動きで純正義履行者(エクセシブファンズ)を切りつけるが結局は一対一。一体多には対応できない。

「いっせーの!」

 オーマジーの声で全員が火をつける。何人かが火をつける前に倒れたが、それが見えない冒険者が一気に対応できた最大数だろう。

「突撃―っ!」

 そう告げたオーマジーも突撃を開始するが、オーマジー自身はまだ爆弾に火をつけてなかった。

 自分自身を刻みつける相手は決まっていた。

「行ったじゃんよ」

 消えていたジネーゼが一瞬姿を見せてクルシェーダに告げる。

 ジネーゼはメシを奢るというクルシェーダの誘いに乗ったまま同行していたが、アリーの悪女騒動で流れるままに救済スカボンズの救援に来ていた。

 結局、救援要請に応えたのは、難敵討伐と村の護衛が主で街に出ることが少ないクルシェーダに醜聞や悪口を気にも留めない、むしろ毒の糧とするジネーゼだけだった。

 それでもこのふたりは純正義履行者(エクセシブファンズ)を相手取るのに相性の良いふたりだった。

 ジネーゼは固有技能【不在証明(アリバイ)】によって姿を消すことが可能で、純正義履行者(エクセシブファンズ)は自爆対象が分からないうえにそれを見定めるまで爆弾の点火を躊躇う冒険者に対しては姿を消したまま斬り込んでいける。

 一方のクルシェーダには【不在証明(アリバイ)】のような技能はない。けれど彼は難敵退治の専門家だった。

「があああああああああああああ!!」

 近づいてくる冒険者に狩猟技能【威嚇(スレートゥン)】を発動。本来、自分よりも弱い魔物を遠ざける技能だが、その迫力は時として冒険者もひるませる。

 それだけで爆弾をまいた冒険者は腰を抜かし、クルシェーダにたどり着くことなく爆発。

 さらには狩猟技能【燃料携行缶(ジェリーカン)】によって、燃料携行缶(ジェリーカン)を足元に出現させる。

 それを次々と蹴り倒して転がし、向かってくる冒険者へとぶつける。その燃料携行缶(ジェリーカン)は火薬がたっぷり詰まっているため、避け切れなかった冒険者の爆発によって誘爆。近くにいた冒険者をも巻き込んで、クルシェーダに近づくことなく死亡していく。

 自分の近くで燃料携行缶(ジェリーカン)に引火すると危ないが、そんなヘマをするクルシェーダではない。しかもその一度の誘爆で恐れをなした冒険者ははっきりと死を自覚して恐怖を抱き逃げ出していく。

 それでも自分の爆弾が取れないことに気づき爆発していく。「助けてくれー」という冒険者の声も聞こえるがクルシェーダにはどうすることもできない。

 どうやってその選択に至ったかどうかクルシェーダは知りもしないがその選択をしたのはその冒険者だった。


 ***


 そんな戦闘の合間を縫って、オーマジーは二階の階段へと到着する。二階への入口は固く閉ざされていたが、その手前でひとりの人物が待っていた。

純正義履行者(エクセシブファンズ)の名簿に名前を見つけたときから、来るであろうと思っていたである」

「来ると思っていた? 星0なほどの驕り昂り。だから私は嫌いなのです。星0です」

 待っていたイロスエーサに対して、嫌悪感たっぷりにオーマジーは低評価をつきつける。

 悪女の件で純正義履行者(エクセシブファンズ)が奮起したのは間違いないが、それは所詮きっかけ。

 もちろんアリーに刻みつけるという大義はあるが、ナースティンが惚れたジョレスを刻みつける相手に指定したように、オーマジーも刻みつける相手を、救済スカボンズに――強いてはイロスエーサに定めた。イロスエーサには個人的にも恨みがある。悪女アリーの情報を救済スカボンズが隠蔽しようとしていたのならなおのこと、刻みつける相手としてはちょうどいい。それにイロスエーサはアリーと懇意にしている。イロスエーサの死は、ジョレスの死同様にアリーを傷つつけ、刻みつけることができるだろう。

 だとすればアリーに刻みつけるという大義からも反しない。

 私ながらいい思いつきで星5です、と自画自賛したのは言うまでもない。

「やや。それは正当な評価とは言えないであるな。某の評価はそれなりに高いはずですぞ」

 整った髭を少しばかり触ってイロスエーサは指摘。

「はっ。そうやって私の評価を足蹴にして、私の順位付けを否定してた。だから星0なんです」

「先ほどの某の評価と同様、お主がした順位付けは主観まみれであった。精査した結果、それが正当ではないと判断した次第である」

「ああ。そうやってお前の主観と違っていたから私の評価をすべて却下にした!」

「こちらは客観的に調査した、と言っても無駄であろうな」

 イロスエーサは嘆息する。最初から話が通じる相手じゃないことは分かっていた。

 それでもこの場に出てきたのは、2階に無理やり突入された場合、もっと被害が広がると予測できたからだった。

「口だけなら何とでもいえます」

「調査した結果も渡したはずですぞ」

「捏造です!」

 断言するオーマジーにイロスエーサは深くため息。

 結局のところ、オーマジーは自分がつけた評価がすべてで、その通りに掲示されないと許せないのだ。イロスエーサはその評価を元に再評価して、全く正当性がないと判断して掲載を見送った。

 わざわざ調査結果と理由も説明したがオーマジーはまったく納得せず、他の集配社に持ち込んで掲載へとこぎつけたがすぐに酷評の嵐で、オーマジーの誇りは傷つけられ、その怒りは自分の評価を掲載しなかったイロスエーサへと向けられた。

 弱小集配社に持ち込んでしまったからその評価は正当性がないと酷評されてしまったのだ。大手集配社が発表した評価なら[十本指]のように、正当性のあるものになったはずだ。

 自分の評価こそ正当であるはずなのに――信頼の高い救済スカボンズが発表さえしてくれれば、それは信用性の高い正当な評価になるはずだったのに。

 あてが外れた――どころか、イロスエーサはその評価に正当性がないと一蹴した。

 オーマジーが評価した、それだけで正当性がある評価なのに。

 イロスエーサはまるで人間性を否定するかのようにその正当性を否定した。

 だからオーマジーはイロスエーサが許せないのだ。

「お前なんて、お前なんて星0っ――!」

 叫びながら駆け出して、イロスエーサを捕まえる。

 下手に良ければ二階への扉ごと吹き飛ばされるという意識があったイロスエーサは反応が遅れる。

 話せる相手ではないとは思いつつも、もう少し会話できる余裕があると考えていたがその算段も外れた。

 逃げれない。それでも二階への侵入を阻止しようとイロスエーサは覚悟を決める。

 イロスエーサを押さえつけたまま、不格好に自身へと巻きついた爆弾へと点火――

 よりも早く、ぐふっ、とオーマジーの意識が飛ぶ。

「依頼人が何してるじゃんよ」

 倒れたオーマジーの後ろから姿を現してジネーゼが呆れる。

「やや。助かったのである」

 オーマジーを挟んで、イロスエーサには安堵の表情。オーマジーはジネーゼの毒によってぎりぎりで昏倒していた。

「他の純正義履行者(エクセシブファンズ)は?」

「見ての通りじゃん」

 すでに純正義履行者(エクセシブファンズ)は敗走していた。オーマジーがいなくなったから統率が取れなくなったわけではなく、クルシェーダに誰一人も近づくことができなかったという理由が大きい。

 あまり冒険者相手には使わない【威嚇(スレートゥン)】や【燃料携行缶(ジェリーカン)】を巧みに使う様子は[十本指]の一本指の強さを痛感させるものだった。

 それに気づいた冒険者はオーマジーの評価がまやかしだったことに気づく。自分たちが星3かどうかはともかく、クルシェーダの評価は星2のはずがない。体験してその評価が正しくないことに気づかされ、ある意味で我に返ったのだ。

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