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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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合流

アリーが転送されたのはコウデル原野の一角だった。戦闘痕として爆発の跡がいくつも残っているが、これらは自然に存在している魔力と植物そのものが持っている回復細胞が連動し修復される。

 空に突然現れ、滞空した飛空艇に何事かと思ったデデビビたちだったが、近づくにつれそれが誰の持ち物か理解した。

 ヤマタノオロチを倒しに行く際もこの飛空艇に乗っており、その記憶が色濃く残ってたのもある。

 転送されたアリーを見て、

「師匠!」

 ジョレスが嬉し気に駆け寄っていく。

 全速力ではなく、痛みを押してというのがわかる走り方だった。

 対照的にアリーはどことなく陰りのある表情を見せる。

 ジョレスの完治してない姿に対する申し訳なさがあった。

「ジョレス……」

 ただそれでも安堵が勝った。

 まるで我が子の生存を喜ぶように抱きしめて、

「ごめん」

 無事でよかった、という言葉よりも先に謝罪が出た。

 どういうことか尋ねる前に、にやにやしているデデビビやクレインの顔が映り、自分がよほどうれしい顔をしていたことを自覚したジョレスは抱きしめてもらっていた腕を振りほどく。

 ちょうどそこでレシュリーとジェニファー(JEN1-4A)が転送されてくる。

 そういう意味でもタイミングが良かったかもしれない。デデビビたちに喜んでいる姿を見られるよりもレシュリーに喜んでいる姿を見られるほうが気まずかった。不貞を働いているわけでもないのに。

「オレも再会できたのは嬉しいです。こんな姿ですけど……」

 治りきってない体を自重しながら再会の喜びを告げたジョレスはそこで本題に入る。

「それより」

 一度唾を飲みこんで、「あの噂は本当なんですか?」

 悪女、という言葉は使わなかった。いや使えなかった。

「……」

 しばらくの沈黙の後、アリーは口を開いた。失望させるかもしれない、という懸念がどこかにあった。

「本当よ」

 レシュリーがアリーの後ろで何かを言おうとしていたがすぐに口を閉じる。アリーの言葉に任せようという信頼の表れかもしれない。

 ジュレスはその様子も見ていた。

 アリーの言葉だけではその言葉だけを信じて失望してしまったかもしれない。けれど、まだ何かあるとレシュリーの挙動が訴えているようだった。

 だからこそジョレスはふたりを信じて、最後まで話を聞こうと決心できた。

 アテシアと違い、ジョレスたちはまだランク6で終極迷宮(エンドコンテンツ)のことは理解できない。それに連動することも。それでもリアンの結界は誰でも見れていたし、黒騎士の存在も認識できている。

 多少は言葉を選ぶ必要はあるかもしれないが、アリーにも余裕はなかった。それでも伝えたいことは伝える。 

 試練を受けるために、世界を危機に陥れるスイッチを押したこと。

 押したのは他の冒険者を信頼していたからこそ。

 ありのままアリーは伝える。

 押さなかった場合、冒険者の資格を永久にはく奪されること、も素直に伝えた。その選択があったからこそアリーには押さないという選択肢がなかったことも付け加える。

 もちろんその理由も当然要因のひとつ。それでもアリーは

「それがなくても押したわ」

 強調するように告げる。冒険者を辞めなければいけないということを言ってしまうとだから押しても仕方ない、というふうにも捉えられ、同情される可能性もあった。

 その可能性を潰す意味でもアリーは強調した。

「世界を危機に陥れた、だから悪女。言い得て妙でしょ」

 全てを説明し終えてアリーはそう自虐した。

「美しくない」

 思わず出たジョレスの口癖はアリーの自虐に対してなのか、その事実に対してなのかアリーには判断できなかった。

 それでもジョレスは納得できないように言葉を紡ぐ。

「俺にはそれだけでなぜそう判断できるのか分からない。世界へ広がるのも早すぎる」

 ジョレスが目覚めたときにはすでにアリーは悪女として認知されていた。獄災四季(カラミティカラーズ)と戦ったのは数日前だったはずだ。

 アリーの帰還からの情報拡散が早すぎて混乱しているのも事実だ。

 それについてもアリーは集配員に子孫がいたこと。その先祖が同じ試練でスイッチを押さなかったことを告げる。

「美しくない」

 なんとなくそれでジョレスは察した。アリーは確かにスイッチを押したが、その子孫が明らかに悪意を込めて情報を拡散していた。

 今世界の認識は、スイッチを押さなかった集配員の先祖が正義、スイッチを押したアリーが悪女という構図なのだろう。

 しかもアリーがスイッチを押したことで獄災四季(カラミティカラーズ)が解き放たれ、ジョレス自身は大怪我を負い、ミセスは亡くなった。他の戦闘でも死傷者がたくさん出た。それを見れば確かにアリーは悪だろう。

 けれど一方でそういう理不尽さに遭うのが冒険者でもある。その分、冒険者になれば遅老になり、他の職種よりも頑丈な肉体が手に入る。

 それに冒険者のランクが全体的に向上することで、世界全体が潤っていくような、そんな感覚が全人類の認識だった。

 それを鑑みれば悪女と断じてすべての責任をアリーに負わせてもいいのか。

 ジョレスには分からなかった。

「俺には師匠がそうだとは言い切れません」

 それでも伝えたい言葉をジョレスは伝える。

 アリーはまるで肩の荷が降りたように優しい笑みを見せる。

 思わずジョレスが直視できないほどに。

「よかったね。アリー」

 結果としてジョレスは生きていて、ひとまずの理解を得たとみていいだろう。レシュリーも安堵して笑顔を見せていた。ジェニファー(JEN1-4A)も嬉しそうな表情だ。

「ただ、ゆっくりしすぎたね」

 戦闘痕が誰のものか分かれば遠ざかるものもいれば近寄ってくるものは当然いる。

 近寄ってくるのは純正義履行者(エクセシブファンズ)だった。

「逃げよう」

 レシュリーは即時判断。転送紋はすぐそこにあるうえに承認がなければ転送されない。

 判断が一瞬であれば、行動も一瞬。あっという間に転送紋で飛空艇へと移動する。

「なんだかんだで逃避行に巻き込むことになったね」

「望むところです」

 怪我を負ったジョレスは黒騎士の言葉もあり弱気になっていたが、仲間に助けられ、アリーと再会したことでどこかにあった弱気が吹き飛んでいた。。

 それに純正義履行者(エクセシブファンズ)をなんとかしなければ、とアリーの話を聞いて思ったのだ。だとしたら弱気になってもいられない。

「行きましょう」

 意気揚々と告げるが

「まだ、行先は決まってないよ」

 レシュリーが苦笑。それに釣られて皆が笑っていた。

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