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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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履行

 ジョレスは癒術院の寝台の上で目を覚ます。

「ようやく目覚めたようだねぃ」

 そんなジョレスを迎えたのは三人の男女。見るからに冒険者だったが初対面だった。

「お前たちは?」

「聞いて轟け、見てハニカめ。おれたちは救いの使者――純正義履行者(エクセシブファンズ)

「救い? なんの救いだよ?」

「ナッツ。メッ、です。絶対。話が早急すぎます」

 救いの使者を豪語した冒険者――リスのような前歯が特徴のナッツが、後ろにいた女冒険者に指で×印を作って指摘される。

「すまなかったねぃ。確かに説明が先だ。俺たち――純正義履行者(エクセシブファンズ)は」

 ナッツの説明を割り込んで、女冒険者が続ける。

「わたしたちは悪女アリーの暴挙に立ち上がった冒険者なのです」

「悪女? 師匠が?」

「ナースティン、キミも説明不足なので星1だ。最大の被害者であるジョレスくんにまずは説明しなければ評価は覆らない」

 女冒険者ナースティンに片眼鏡の冒険者が告げる。

「わたしとしたことがメッでしたね、絶対」

 ナースティンも自らの過ちを認めて、ジョレスに話を始める。 

 アリーが悪女であったこと。悪女の人災――獄災四季(カラミティカラーズ)によってジョレスは弟子でありながら、大怪我を負い、さらにミセスを失ったこと。

 もしアリーが人災を起こさなければ、ジョレスはこんなに大怪我することなく、ミセスだって生きていただろう、と。

 それを三人は熱弁した。

「美しくない」

「ほぅ。キミもアリーをそう感じたか」

「勘違いするな。美しくないのはお前のほうだ」

 美しくない、という言葉もふさわしくない。本当はもっと汚い言葉で罵ってやりたかった。

 けれど黒騎士アーネックが指摘したように、ジョレスには長年そういう癖がしみ込んでいた。

「その返事は星0だよ。ジョレスくん。この私、オーマジーの話を聞いていたのかい? 聞いていたのなら訂正すべきだ。じゃなきゃ評価は覆らない」

「師匠がそんなことをするはずない」

「したのだよ」

「見たのか?」

「ああ、全員がねぃ」

 嘘だ、とジョレスは直感した。同時にナッツは澱みなくそういう嘘をつける人間なのだと直感していた。

 そういう直感が大事だというのもアリーの教えだった。

「自分で確かめてからだ」

「メッ、ですよ。絶対」

 ナースティンが首元へと短刀を突きつける。

「お前たちの目的はなんだ?」

「勧誘ですよ。ですがジョレスくんの返事は星0。論外。評価を覆すならいい返事してくれないと」

 オーマジーが呆れていた。アリーが悪女であると説明すればジョレスは絶対に仲間になってくれると信じて疑わなかったのに、ジョレスの返事は芳しくない。

「美しくない。仮に勧誘するならこの態度はない」

 短刀をつきつけられてもジョレスは屈しない。黒騎士アーネックの戦闘で心は折れていたのに、アリーを悪く言われて感情が昂っているのがわかる。

「星0なら殺してもいい、と言われている。媚びていい返事をくれなきゃ星5にはならない」

「はぁ……」

「なんです。そのため息は。メッですよ。絶対」

 短刀と左一指し指で×印を作って、ナースティンは怒りを露わにしていた。

 どうやっても引き下がりそうにない、と呆れてしまったジョレスのため息がナースティンの癇癪に触ったらしい。

「そもそも師匠に勝てるはずがない」

 それでもジョレスは言う。そのまま首をかき切られていいと思った。そもそも黒騎士アーネックの冒険者を辞めようとまで思っていたのだ。そういう幕引きでも仕方がない、とさえも思えた。

 そう思えば、怖くなどなかった。だから言ってやった。

「お前たちのランクでは師匠に敵わない」

「ふはっ」

 脅迫の言葉に、ナッツは思わず笑う。

「勝ち負けなど関係ないんだねぃ。おれたちは救いの使者だ。おれたちはおれたちの心が救われればいい」

「そうそう。わたしたちがメッしてあげるんだ。絶対。だから刻み付けてあげるの。悪女アリーに」

「彼女の評価は星0。いや0すらおこがましい。なおかつ、この評価は覆らない。それほどまでに私たちを傷つけた」

「憧れていたのに」

「尊敬していたのに」

「目標にしていたのに」

 ナッツ、ナースティン、オーマジーが口々に言う。

「だから悪女アリーに植え付けるのだねぃ。お前のせいで不幸になったって」

「おれのように」「わたしのように」「私のように」

 ジョレスは理解した。自分を囲う三人はジョレスのように弟子と師匠という濃い関係性はない。

 おそらくアリー自身、この三人を認知してない可能性すらある。

 それでもこの三人はアリーを推していた。アリー推しだった。

 そんなアリーのとある行動が推しにとっては裏切りだった。

 だからその裏切りに報いを、と三人は言っているのだ。

「美しくない」

 徹頭徹尾、ジョレスには理解できなかった。

 ジョレスにとっては三人の話は事実なのか真実なのか分からない。かなり自分色に脚色されているように見えた。色眼鏡で見るように見えてならない。

 であればジョレスは自分の知るアリーを信じたかった。もちろん幾許かの事実や真実は混じっているのだろう。だとしても師匠の口から聞きたいとジョレスは強く思った。

「じゃあ死んでよ。ここまで話して仲間にならないのはメッですよ、絶対」

 首元に短刀が突き刺さる瞬間、本能でジョレスは動き出していた。死にたいとさえ思っていたのにまるで本心は違うと本能がジョレスを突き動かした。真実を確かめるまでは死ねないのだと。

 ナースティンを突き飛ばし、寝台を転げ落ちる。

 枕もとの棚に置かれていた小物が音を立てて散らばる。

 救護院なら守衛の冒険者もいる。騒がしくすれば駆け付けることすら計算のうちだった。

「なるほど。腐っても悪女の弟子でしたねぃ」

「守衛が来るのはメッですよ、絶対。ここは退きましょう」

「お前たちの計画が筒抜けになった今、うまくいくとでも?」

「その考察の評価は星2ぐらいですかねえ。筒抜けになろうが計画は実行されるのです」

 守衛の足音が徐々に大きくなる前に三人は窓から抜け出していく。

「ちなみに友達だって言ったら簡単にあなたの病室に入れてくれたは守衛さんなんですよ。メッですよ、絶対。身分確認はしないと」

「ジョレス。敵対した今、あなたも標的ですねぃ。あなたの死は悪女の制裁にもなるので。聞いて轟け、見てハニカめ――おれたちは純正義履行者(エクセシブファンズ)


***


 ザンデ平野の一角に冒険者の集団があった。

 そこにイリュリアノー・マクファーレンと集配社ウィッカの集配員たちが合流する。

「彼らは純正義履行者(エクセシブファンズ)

 不安げな表情のイリュリアノーを尻目にウィッカの集配員が説明する。

 その集団の中には改造者(チーター)の顔ぶれもある。

 そもそも純正義履行者(エクセシブファンズ)は元から存在していたが表立って活動はしていなかった。

 ある意味で残党。

 ユーゴック・ジャスティネスの正義を半端に受け継いだ冒険者にドゥドドゥ・ジョーカーの改造(チート)技術を中途半端に受け継いだ冒険者たちの集団でしかなかった。

 けれど何かをしようにも大義名分がなかった。

 そこに悪女アリーの人災があった。イリュリアノーの告白があった。

 それに付け込んだ集配社ウィッカが、引き継いでしまった悪意が、純正義履行者(エクセシブファンズ)を突き動かした。

 罪を犯したら死刑と言わんばかりに、極端に、けれど半端に受け継いだ正義が、それを事実だと確定づけ、元からあった正義衝動を増幅させる。

 その衝動が、少し不満を抱いていただけの冒険者を扇動して、数が増していく。

 悪女アリーに自分たちを刻み付けるために改造(チート)に手を染めた。だがそれも中途半端。そんな改造(チート)の副作用で、より自分たちの抱く正義こそが正しい、と一辺倒になってしまっていた。

「刻みつけろ、おれたちの存在を。裏切りを許すな」

 偶像は偶像であれ、それ以外の目的を持つな。そう言わんばかりの怒号に、全員が感化されていた。勝手に決めつけた理想が裏切られたがために。

 イリュリアノーはそれを見て、純粋に恐怖を感じた。逃げ出したくなった。

 けれど逃げれば自分さえも殺されそうな気配がある。

 イリュリアノーは怒りに任せて行動した。その結果を後悔し始めてももう止まらない。

 これはイリュリアノーが始めた物語なのだ。

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