表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
80/873

炎質

 15


「見てよ。この熱すぎる歓声! まさにボクを煮え滾るように待っていたって感じじゃない?」

 おそらく戦闘の技場(バトルコロシアム)で一番注目されているであろう試合が始まろうとするなか、炎の紋様(ファイヤーパターン)をこよなく愛するシャアナは目だけを覆う赤仮面(クリムゾンマスク)ごしに見える、自らが従える三人に呟いた。

 三人はとりあえず肯定するものの、おそらくこの歓声が自分たちに対するものじゃないと理解していた。

 対戦相手、的狩の塔(ハンティングタワー)を一位で通過した三人に、この島では知らぬものがいないシュキアを加えた四人に向けた歓声だろう。

 それほどまで期待値は高い。島の外から来た観光客と島の中にいる現地民に冒険者、両方から違う意味で期待されていた。

「それじゃあまあ、頑張ってみますか」

「姐さん、ヒルデ準備はできてるよな?」

「当ったり前だよ」

 ヒルデが呟き、走り出す。

「ボクのハートは既にエンジン全開燃え尽き寸前だ!」

 シャアナは朱石の紅樹杖〔彗星落しのガーダント〕を振り回し、さっさと行けと合図する。それを確認したシメウォンとラインバルトがヒルデに続く。

「行くぞっ! 落第者!」

 ラインバルトがレシュリーを挑発する。あまり罵詈雑言を吐かないラインバルトだが、レシュリーを少しでも挑発できればいいという判断だった。

「ハハッ!」

 それが聞こえたらしいレシュリーが少し笑った。

 ヒルデの隠技剣〔隠された力オテルガム〕をアリーの狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕が止める。ヒルデを蹴り飛ばし、アリーは剣を【収納(ポケト)】する。

「どういうつもりだ?」

 ラインバルトが疑問を吐き出し、シメウォンも動きを止める。

 シャアナの詠唱がわずかに聞こえ、それだけがまだ試合が続いていると僕に理解させる。

 なのにアリーはステージから降りた。

「……アリー?」

 僕にも意味が分からなかった。

「落第者は卒業したってとこ、見せてあげなさい」

 アリーはそれだけ呟くとステージ外にある長いすに腰を降ろした。

「それをやるなら、ステージの隅にいるだけで良かったでござるよ」

「……確かにそうね」

 アリーにそう投げかけるコジロウは対戦相手が動かないことを良いことに、ステージの隅に移動する。

「もしかして……コジロウも?」

「シュキア殿の実力も見たいでござるからな」

 正直、戸惑っていた。

 でもそんな戸惑いも対戦相手によって吹き飛ばされる。

 敵は悠長に話す僕たちを待ってなどくれはしない。しかもだ、ふたりで倒せると言わんばかりの言種に、ラインバルトたちが怒らないはずがない。

「なめた態度取ってくれるね」

 ヒルデの隠技剣〔隠された力オテルガム〕から【蒸噴(ジェット)】が発動。

 視界が覆われシュキアの戸惑う顔が見えた。

 僕はヒルデの位置を把握するとすでに跳躍していた。身を屈め突撃していたヒルデの肩へと着地。それを土台にして蒸気から空中へと移動。

 そこには頭上から僕たちを切り裂こうとしていたラインバルトの姿があった。驚き慌てふためくラインバルトの服を掴むと僕はそのまま地面へと叩きつける。

「あたしを踏み台にして」

「俺を叩き落しただとっ!」

 驚愕の声が聞こえ、「重いって」というシメウォンの声が聞こえる。僕がたたきつけた先にはシメウォンがいたのだ。おそらく詠唱しようとしていた【春嵐(ストーム)】は思わぬ攻撃で不発に終わった。

 空中落下しながらも僕はシャアナに向かう。

 話している最中にも詠唱を続けていたその魔法を発動させてはならない。発動されて回避できなければ致命的になる。そんな予感があった。

 そう思った矢先、シャアナの持つ朱石の紅樹杖〔彗星落しのガーダント〕が僕の方へと向けられた。

 そして、【超火炎弾(アグヤネストラ)】が僕へと襲いかかるっ!

 しかしその【超火炎弾(アグヤネストラ)】は何かがおかしかった。なんというか大きすぎる。

「〈炎質(ファイアポテンシャル)〉を持った姐さんの炎、とくと味わえっ!」

 ラインバルトが自慢げに、さらには相手を戦慄させる声を発した。〈炎質(ファイアポテンシャル)〉というのはおそらく僕と同じような才能だろう。そしてステージの半分を覆いつくすようなその大きさから僕はおそらく炎系魔法の効果を上昇させるものだと判断。

 判断したところで、すでにその巨大で強大な【超火炎弾(アグヤネストラ)】は僕へと発射されていた。

 それでも僕は怯まない。

「おおおおおおおおおっ!」

 叫びとともに左右の腕から休むことなく連発で球を放つ。

 初弾となった球が【超火炎弾(アグヤネストラ)】の炎を僅かに遮った。次の球と次々の球、さらに次々々の球が同じく炎を僅かに遮る。

 次の球も合わさり炎は少し遮られる。それをひたすら繰り返す。

 ひとつの球が【超火炎弾(アグヤネストラ)】の炎を遮った途端、効果を発動。そのタイミングを見計らって【造型(メイキング)】を繰り返すという単純ながらも、高度な技術。

 僕が先ほどからひたすら投げているのは【断熱球(ウォーマー)】。内側の熱を逃さず、外側の空気を侵入させないそれは、高ランクの炎属性魔法を完全に防げる力を持ってはいない。

 しかし、ごくわずかな時間なら、遮ることはできた。

 だからこそ連投。同じ場所へと延々と投げつける一点突破。

 その炎は【断熱球(ウォーマー)】に遮られ、左右に分裂。僕の横をすり抜けていく。

 シャアナは黒焦げになっていない、しかも生きた僕の姿を見て驚いていた。挙句、自分の発動した炎で見えず、僕がどう切り抜けたのか分かっていない。

 僕はどうにかうまいぐあいに地面に着地すると、シャアナは少し後退った。熱気による火傷程度しか負っていない僕がそこにいたからだ。

 僕は大した痛手にもなってない火傷を治すこともせずシャアナに詰め寄った。

「ひっ――」

 パニックを起こしたシャアナに詰め寄る僕の歩みを止めたのは

「誰でもいいから、助けっ――」

 何かによって遮られた悲痛な叫びだった。

 遠い、ステージ。B組の試合が行なわれているステージのどこかからその声は聞こえてきた。

 全てのステージを確認し、その惨状を知った僕は自らステージを降りた。

「あんの、バカ」

 アリーがそれに気づいて追いかけてくる。

「やれやれ、拙者が降りてなくて良かったでござるな」

 ステージの隅からコジロウが駆け出し、唖然とするラインバルトの頬を蹴り飛ばす。

 シュキアもヒルデと対峙しながら、僕の行いに目を見開いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ