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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
796/874

覚醒

***


 アリーが僕を助けようと足元の砂を放つ。

 目くらましになったのか、どうか僕には判断がつかないが黒騎士カンベエは追撃をしてこない。

 そのまま背負ってアリーは壁際へと逃げ出す。

 黒騎士カンベエは追撃すれば絶対に勝利できるであろう状況なのに追ってこない。

 視界には待ちの構えのまま待ち続ける黒騎士カンベエの姿があった。ここまで来るとむしろ不気味すぎる。

「ごめん。ミスった」

「バカ。本当にバカ。でも致命傷じゃない」

「うん。でも援護は難しいかも」

 突き刺されたところもそうだが、跳ね返された【超速球】の一撃が重い。信じられないぐらい黒い痣が残っている。

 回復錠剤と【回復球】で治療を繰り返すが連続展開される技能や道具では回復細胞の活性化も鈍い。大好物でも連続で何日も食べると飽きるのと同じ理屈だ。

【滅毒球】で魔刀の刃の毒をしっかりと浄化。毒に蝕まれていては傷も癒えない。

 なんとか立ち上がろうと試みて、ふらついて尻もち。

「ごめん、やっぱり無理そうだ」

「【転移球】で飛び込んできたのは――私を転移させなかったのは万が一を考えたから?」

 アリーが問いかける。怒っているような、泣いているような、よくわからない表情だった。

「えっ?」

 問われた意味が分からず間抜けな声を出してしまう。

「違うよ。無我夢中だった」

「呆れた。でもだからどっちも生きてる」

 【転移球】で飛びこんで身を挺してアリーを助けた。それで僕はこのざまだ。

 最初から最善手で――【転移球】で救出していたら、と改めて考えてぞっとする。

 僕が思っていた最善手は最善手じゃなかった。むしろ必死になっていたからこそ【転移球】で飛びこむなんて無謀ながらに最良の手を取れたのかもしれない。

 【転移球】で救出した場合、きっとアリーのどこかに触れて、一緒に黒騎士カンベエがついてきていただろう。

 いくら反撃しかしてこないとはいえそうなれば僕も巻き込まれていた可能性さえもあった。

だからアリーはどっちも生きてると表現したのだ。

 アリーはそこまで僕が読んでいた、と一瞬勘違いしたようだけれど、僕はランク8になってなお、まだ戦闘においては必死さが拭えないほどに、余裕というものを持っていなかった。

 だから最良な手を取っておきながら最悪の一手を最善手と勘違いしていたり、それでへこんでいたりする。

 アリーは僕を壁際まで引っ張って、粗雑に寝ころばせる。それでもだいぶ楽な姿勢が取れるようになって、アリー越しに黒騎士カンベエを見据えた。

 アリーは僕が黒騎士カンベエを見ているのに気づいて静かに立ち上がる。

 そして振り返って黒騎士カンベエの元へと向かっていく。

「援護できたら援護して。でも絶対に無理はしないこと」

 寝そべっている姿勢から動こうとすると痛みが走る。

「分かってるよ」

 そう答えるだけで精いっぱいだった。

 アリーの後ろ姿を見ながら僕は悔しさで歯を食いしばった。


 ***


「ひとりでよいのか」

 黒騎士カンベエがアリーへと尋ねる。

「ひとりじゃないわ」

 後ろに僕がいるとアリーは少しだけ僕のほうを振り向いて答えた。

「でも戦うのは私だけ。ひっかけかもしれないけど」

 黒騎士カンベエはどう受け取ったのだろうか、僕のほうへと視線が注がれたがそれだけだった。

 僕のことを無視してアリーに全集中するのか、それとも意識を少しだけ分散させて、僕を認識しておくのか。

 視線が向いたのは一秒もない。アリーの踏み込みに反応して意識も視線もアリーへと戻る。

 視線が逸れた刹那を狙った不意打ちだったが、ぎぃぢぢいんと狩猟用刀剣が魔刀の刃を滑り逸らされた。

 そのまま態勢も崩されそうになるが、それだけは堪えた。

 同時に魔刀の刃が襲来。態勢が崩れようが崩れまいが、堪えようとしたことさえ隙でしかないだろう。

 狩猟用刀剣を滑らせた魔刀がそのまま流水がごとくアリーの飛来。

 僕の援護が難しい分かっているアリーにとって、その刃に仕込まれた毒は致命傷になりかねない。

 慎重に刃を避けないといけない、という思考はアリーにとっても重圧になるのだろう。

 やや動きに緊張があるのか回避もぎこちない。

 それでも意地なのか、避け切って、再度、狩猟用刀剣で応戦。魔充剣を握りながらも使わないのは単純に耐久性が劣るからだろうか。

 いやアリーのことだ、何か策があるに違いない。

 軽々と避けた黒騎士カンベエもそれを察したのか反撃はしてこず、一歩後ずさり、待ち構える。

 アリーはそんな黒騎士カンベエへ間髪入れずに距離を詰め、狩猟用刀剣で二連撃。

 初撃は避けられ、次撃は弾かれる。回避と防御を完璧に行った黒騎士カンベエが弾き飛ばしたアリーへと追撃。

 魔刀が銅を切り裂く手前で応酬剣が割って入り、その凶刃を防御。      

 応酬剣を防御に使うのは珍しいように思えた。僕はその姿をあまり見たことがない。

 けれど応酬剣がまるで盾となり、魔刀を防いだことで、アリーはより多くの攻撃機会を得ていた。

 防御が固く、回避さえも卓越した黒騎士カンベエを打ち崩すには攻撃機会が多いほうがいい。

 だからこそ応酬剣を防御に回すことで、二刀流を存分に活かす方向に切り替えたのだ。

 普段、応酬剣を不意打ちに使うことの多いアリーだが、不意打ちが通用しないからこその判断だろう。

 狩猟用刀剣と【強突風(ゲイルガスト)】を宿した魔充剣の連撃。

 【強突風(ゲイルガスト)】で速度を増した速い魔充剣と頑強な狩猟用刀剣での重い一撃。

 強弱をつけた連撃で翻弄……できればよかったけれど、相手は手練れ。そうはいかない。

 アリーもそううまくいくとは思ってないはずだ。

 当然、避けられ、巧みに受け流される。

 防御に回した応酬剣で反撃はうまく受け止め、さらに連撃。

 それが何度も繰り返される。

 何度かの反復によって、アリーは反撃に対応可能になっていた。

 手傷を負うことなく立ち回れている。

 おそらく超感覚(エクストラセンス)の影響だ。研ぎ澄まされた感覚が適応能力さえも向上させているのだろう。

 僕の治癒も予想に対して治りが随分と早い。これも超感覚(エクストラセンス)の影響だろうか。

 体を多少動かしても痛みが引いているのがわかる。

 上半身を起こして、壁を背にする。まだ立ち上がれるほどではないが、座るぐらいはできるようになっていた。

 僕のそんな動きが気になったのか、黒騎士カンベエの視線が動く。

 動いたのをいいことに僕は鉄球を【造型】。それも黒騎士カンベエの視界に入るようにわざとらしく。

 同時にアリーも動いた。

「吹き飛べ、レヴェンティ」

 宿していた【強突風(ゲイルガスト)】が展開。

 ただしそれを黒騎士カンベエではなく後方に放つ。後ろに強風が噴出され、それが魔充剣とアリー自身の推進力となる。

 【加速】の使用でも問題ないが、それでは黒騎士カンベエに推察されると見越しての【強突風(ゲイルガスト)】だった。

「それは読んでいた」

 黒騎士カンベエが告げる。

 攻撃階級8までの魔法剣を放剣できるアリーが、攻撃階級4の【強突風(ゲイルガスト)】を選んだ時点で、黒騎士カンベエは副次効果的なものを利用するだろうと読み切っていたのだ。

 魔充剣の超高速の一撃を自身が避け、空を切ったところを骨を断つ。推察を黒騎士カンベエはしていたのかもしれない。

 推進力によって速度を増したアリーも不敵に笑う。

 魔充剣と狩猟用刀剣を交差させ、アリーは突進を選択。狙いは胴体のように思えた。


「莫迦な。切れるまいて」

 鎧ごと切り裂こうとでもする暴挙に黒騎士カンベエは驚愕を隠し切れない。


 ぼうぅふん。


 暴挙は一見、諦めにも見える。とはいえアリーが諦めていないことはほとばしる殺意からも理解できるだろう。


 ぼうぅふん。



 だからこそ、なぜそういう行動に出たのか、黒騎士カンベエには理解できなかった。


 ぼうぅふん。


 同時に黒騎士カンベエの思考を遮るように何かの音。


 ぼうぅふん。


 ぼうぅふん。


 ぼうぅふん。



 黒騎士カンベエは魔物でありながら実に人間らしい。

 だからこそ自分の意識下に割り込む、殺意を向けられた相手による不可思議な音の正体を確かめずにはいられない。

 

 ぼうぅふん。



 その音の正体は護謨球が高速で壁にぶつかり跳ね返った音だった。

 種を明かせば僕の猪口才な妨害工作。

 そんな音を確認するために逸らした視線。

 けれど援護はそれだけでも十分だったらしい。

 アリーは笑っていた。

 狙いが胴から首へと切り替わり、防御に回した応酬剣は背後へ。いつの間にか攻撃へと転じていた。

「さっきの二の舞だ」

 首を斬らせはしないと、黒騎士カンベエは交差した魔充剣と狩猟用刀剣を受け止めるべく今度はしっかりと魔刀を構え、待ち受ける。

「それ、ごと、たたっ斬る、っつってんの!!」

 アリーの咆哮に応じて全身から闘気が噴き出る。尋常じゃない多さ。その所々に輝きも見える。

 もしかしたら超感覚(エクストラセンス)の影響で何かが変化したのかもしれない。

 ぎぃぎぎぢぢぢぢぃいいん!

 魔刀と魔充剣と狩猟用刀剣が衝突。

 闘気噴出と同時にアリーの初回突入特典〔全ての難門を(モントリ)通り抜ける(オール)〕が発動していた。

 アリーの特典は単体対象技能使用時に障害を全て無視するものだけど、その定義はなかなかに難しい。

 対象が持つ盾などはその定義に当てはまるが、武器はその定義には当てはまらない。

 物理的な盾や障壁などには作用するので魔刀衝突の際に魔刀が障壁などを展開すればその効果は発揮できた。

 今回のような鍔迫り合いのような状況においてこの特典は対象外――のはずだった。

「うあああああああああああっ!」

 咆哮とともに、魔刀の刃が折れる。

 これも超感覚(エクストラセンス)の影響だろうか。特典の効果すらも定義を変質させて、アリーの力となっていた。

 刃が宙を回るなか、後方から首元へ応酬剣が届く。同時に魔充剣と狩猟用刀剣も喉元へと届いた。

「お見事っ!」

 【三剣刎慄(トリアングラム)】。輝く闘気の三本の剣が、黒騎士カンベエの首を斬り刎ねた。

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