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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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清濁

***


 ジャメイネは自分の特典の秘密をひた隠しにしながら、再度魔法の詠唱を開始。

 詠唱と言っても聖櫃戦九刀(Accen9t)機杖クォーツスタッフに搭載されているLabel AIが行っているため、他の魔法士系複合職や上級職が行う詠唱と若干意味は異なるかもしれない。

 攻撃階級3の【雷音(ライオレアオン)】では傷を与えられなかったが成果があった。

 黒騎士アーネックの言葉尻から状態異常にかかるというのは理解できた。

 聖櫃戦九刀(Accen9t)にとって状態異常は要だ。異質者メタモフォシストたちは各属性に備わった状態異常を利用して、相手をじわじわと追い詰めていく。

 全く効かない魔物にはただの魔法と変わりはしないが、黒騎士アーネックにはわずかであれ効くのであれば、その優位は使わない手はない。

 思考はわずかな時間。その間に黒騎士アーネックはジャメイネとの距離を詰める。

 レーントとレイシュリー、シスメックはそれぞれ、【微風(ウインドー)】【光線(レイ)】【吹水(アクアジェット)】と攻撃階級1の魔法を唱えてわずかに距離を開ける。

 基本的に引き付ける役はジャメイネに任せる方針。それでも気が散らせればと放ったそれぞれの魔法が黒騎士アーネックに直撃。

「見向きもされないっ」

 【雷音(ライオレアオン)】が無傷の時点で攻撃階級1では意味もないのだろう。

 気が散ることもなく、黒騎士アーネックはわずかな時間でジャメイネに肉薄。

 数える暇がないほど何撃も剣を振るうがジャメイネは回避。限りある特別な闘気の損失は控えたいが、黒騎士アーネックの一撃は強力に違いないと本能が悟ってしまっていた。

 そうこうしているうちに詠唱が完了。

「これでも食らえっ!」

 杖を振りかざした瞬間、黒騎士アーネックも加速する。

「【満月流――」

 手に握るのは刀剣〔叡知なる親友アルフォード〕。先の満月流は屠殺剣で行われたが、どうやらどちらでも繰り出すことが可能らしい。

 ジャメイネは突進してきた黒騎士アーネックへと狙いを定める。

「【慧狼雷奔エレクトリスク・ストート】っ!!」

「――・孤月】」

 突進していた黒騎士アーネックは大きく体を捩じり、一回転。捩じりの回転力に闘気が加算。

 ジャメイネは回避を選択しなかった。黒騎士アーネックが万が一回避する可能性を鑑みて、だった。

 刀剣が抉るようにジャメイネの脇腹からへその辺りまでの肉を一気に奪っていく。

 が【慧狼雷奔エレクトリスク・ストート】が超至近距離で発動する。

(マーイ)だ、畳みかけろ」

 刀剣の食い込みがへそのあたりでとどまったのは黒騎士アーネックの全身が痙攣し動きが止まる。

 明らかな状態異常・麻痺。

 声に連動して、詠唱完了していたレーントの【純風満犯インペトゥス・ヴェンティ】とレイシュリーの【激化氷塵(ダイアモンドダスト)】が黒騎士アーネックへと襲いかかる。

「やっぱり周囲の炎は消えないね」

 黒騎士アーネックだけではなく周囲を風と氷で満たしても【炎天下(ブレイジングエリア)】は消失しなかった。単にもっと連発する必要があるのかそれとも戦闘が終了するまで消えないのか、判断がつかなかった。

 それに階級10の魔法をおいそれと連発はできない。あと1発か2発程度しか放てないであろう階級10の魔法を、逃げ道作りには使用できない。

 黒騎士アーネックの全身の痙攣が収まる間際、【激化氷塵(ダイアモンドダスト)】による凍傷と【純風満犯インペトゥス・ヴェンティ】による裂傷が発生。黒鎧の中は確認できないが、肌がひりつき、傷ついているはずだった。

 ジャメイネ、レーント、レイシュリーの魔法を受けて無傷でいられるはずはないだろうという期待もあった。

 全てが直撃し視界が晴れたあと黒騎士アーネックは一言。

「効いたぜ」

 しかも腕を振り回しながら。そう言うのが礼儀だから言ったと言わんばかり。

 ようするにそんなに効いていないのが見て取れた。

本当(トーホン)かよ……」

 流れ出る流血を押さえながら間近でジャメイネが動揺。生きてはいたが瀕死。

 回避はしなかったが特別な闘気で全身を覆っていた、黒騎士アーネックが状態異常・麻痺になったことで一命を取り留めた。

 もちろん、瀕死の獲物を逃すような黒騎士アーネックではない。

 立ち上がるのもままらないジャメイネへと刀剣を突き刺す――間際でレーントが飛び出す。

「あ(たし)らを忘れ71(忘れない)で」

 横入りして杖で防御姿勢。

「来ると思ったぜ。仲間意識が高そうだからな」

 突き刺そうとしていた刃の向きを変える。向かってくるレーントめがけて刃が強襲。

 守ることに必死で予想外の方向に対応できなかった。

 刀剣がレーントの肩へと突き刺さり、さらに追撃。

 レイシュリーが【直襲撃々(ディレクト・ヒット)】で刀剣を強く叩き、その追撃を阻止。

「面白ぇ。知らねえ技だな」

「ふたりとも大丈夫?」

「うん」

「なんとか……」

 そう言いながら無意識に傷ついた肩を触るレーントと立ち上がれないジャメイネ。

「やせ我慢はやめておけって」

 ジャメイネの返事が聞こえていた黒騎士アーネックがもうジャメイネは致命傷であると宣告。

「いいや、まだだ。まだ終ってないよ」

 先の黒騎士アーネックへの攻撃はジャメイネを筆頭にレーント、レイシュリーと続いたが、なぜかシスメックは攻撃に参加していなかった。

 詠唱は終わっていたのに。

「レーント。打術を織り交ぜていこう」

「うん」

 肩を触るのをやめて駆け出していくレイシュリーにレーントも続き、打術を繰り出していく。

「来いよ。見極めてやる」

 打術なるものがどういうものか、身をもって知ろうというのか黒騎士アーネックは回避しなかった。

直襲撃々(ディレクト・ヒット)】が鎧を揺らし、【波襲衝撃(ショック・ウェイブ)】が黒鎧を貫通して胴体を揺らし、【撃襲墜撃(シュート・ダウン)】の尖った闘気が鎧をわずかに傷つけていく。

 三種三様の織り交ぜた打術技能の乱打、その全てを黒騎士アーネックはその鎧と肉体で受けきった。

 黒騎士アロンドの魔盾結界のような尋常なほどの無敵ではないにしろ、強固な肉体を誇っているのだろう。

 魔法士系上級職の腕力に闘気を上乗せたぐらいの打術ではびくともしないのかもしれない。

 その後方――シスメックが黒騎士アーネックたちへ向けて魔法を展開する。

 それは味方であるはずのジャメイネ、レーント、レイシュリーも巻き込んだ、命を奪う水の奔流。

「【命狂止水ヴォジャノイ・ストルブ】」

 その水は巨大な塊に変貌して全員を巻き込んだ。

 本来なら敵のみを巻き込み、その内部を悠々と泳ぐ姿の見えない何者かが対象者を攻撃する魔法だった。

 なのになぜかシスメックの【命狂止水ヴォジャノイ・ストルブ】は味方も巻き込んでいた。

 シスメックが乱心したのではない。

「お待たせし、ました」

「ちょっと遅いぐらいだよ。本気(ジーマー)で」

 巻き込まれたはずのジャメイネは皮肉りつつも、先ほどまでの痛みが和らぎ、顔が綻んでいく。

「攻撃しながら、仲間を回復? おいおい、そんなのありかよ。面白ぇ!」

 黒騎士アーネックは【命狂止水ヴォジャノイ・ストルブ】に巻き込まれ、水中の何者かに襲われているはずなのに、むしろその状況を楽しんでいた。

 シスメックの初回突入特典は〔清濁併せ持つ(ミックスジュース)〕。黒騎士アーネックが即理解したようにその効果は分かりやすい。

 本来魔法では回復できないが、この特典は水属性に限り敵に攻撃しながら味方を回復できる。

 だからこそ、レイシュリーは「まだ終ってないよ」と宣言できたのだ。

 黒騎士アーネックの窒息死も狙っていたが、動じないあたり、そういう技能を持っているのかもしれない。

 当然、巻き込まれた三人もその可能性があるため即時【呼吸補助(ブレスコーチ)】を展開していた。

 【命狂止水ヴォジャノイ・ストルブ】の水塊はシスメックが魔力供給する限り維持される。

 レイシュリーたちは強制的に戦場を水中へと切り替えた。

 それでも黒騎士アーネックは動じない。

 けれど鎧が重いのか、その水塊の底で水中に浮かぶレイシュリーたちを見上げていた。

「そういやお前!」

 ゆっくりと腕を上げて黒騎士アーネックはジャメイネを指さす。

 指名されたジャメイネはわずかにびくつく。

「その纏ってる闘気――ちょっと雰囲気が違う闘気だけどよ。やっぱりさっきより少ないよな? もしかして限度があるのか?」

 ジャメイネは的確に指摘されたが動揺は隠した。隠したつもりだった。

「闘気が揺らいだな。当たりか?」

 黒騎士アーネックは闘気の揺れという予想外の方法でジャメイネの特典の秘密が見抜かれる。

 ジャメイネが特典で手に入れた特別な闘気――それは前日に特典を発動した時点で翌日の総量が決定する。

 それがジャメイネの初回突入特典〔明日は(ハイパー)もっといい気になる(ハイテンション)〕の効果だった。

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