役割
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「よ、うやく、見つけ、た」
聖櫃戦九刀のシスメック・ユニゾーバが言葉の区切りがおかしいまま、黒騎士アーネックを見つけたことに安堵する。
一緒に突入した冒険者たちと逸れ、聖櫃戦九刀の四人で懸命に探し出し――まるで巡り巡って選ばれたかのように遭遇した。
そして遭遇からが早かった。
あっという間に周囲が炎で囲まれていく。
「も4か4て、50が32けら07かった理由?」
「どんな効果か不明だケド……僕たちを閉じ込めるものには相違ない」
逆立つ毛で逆立ちしたままのド・ジャメイネ・メメがレーント・ゲララ・ルの推察に乗っかる形で大まかに黒騎士アーネックの技能を推察。
【炎天下】という名前も、正確な効果も分かりはしないが、逃がしはしないという意図だけははっきりと全員が読み取った。
「とりあえず散開! 最初に敵視取った人が防御しながら他が隙見て攻撃!」
聖櫃戦九刀の筆頭であるレイシュリーのかけ声でシスメックとジャメイネ、レーントが散開。
【炎天下】の中でそれぞれが距離を空けて広がり、四方へと散らばる。
「刀剣ということは剣技でしょうか?」
「遠距離はな、いわ、け、ない、よね、ぇ」
「そうだね。剣技技能のなかには当然、衝撃波飛ぶ奴もあるよ」
「ケド、比較的距離は離れていたほうがいい?」
「理論的28、そうだろうけど……っ10、ジャメイネそ2ち1った4」
「僕ですか。一番、弱者そうだからっていう選択だと、割とショックなんですケド。でもまあ、都合は良いって言えば良いか」
「だ、ね。昨日か、ら使、ってる、ん、だろ、う」
「昨日どころか、覚えてから毎晩使ってますよ。何せ即時効果があるもんじゃないですから。ケド、お陰で僕は絶好調ですよ」
初っ端からだった。
黒騎士アーネックはジャメイネに標的を見定め、まずは軽く一振り。横一文字の一閃。
髪の毛で逆立ちしているジャメイネは、髪を抑えるようにして、丸まり、背を低くすることでそれに対応。
すぐさま、その反動で髪の毛で跳ねて少し距離を取るが、黒騎士アーネックは止まらない。
「わわわ、これ、しかも剣技じゃないよ」
黒騎士アーネックが振るう刀剣〔叡知なる親友アルフォード〕の速度は凄まじいものがあったが、その剣には闘気が乗っていない。
技能であれば、闘気に包まれるため、ランク7の冒険者になるよりも前に視認できるようになっている。
つまり黒騎士アーネックは腕の振りだけでその速さを再現していた。
止まることのない連撃のいくつかを避け、避けきれないと判断したものを黄瞳石の機砒杖〔怒り狂うニヴル〕で受け止める。
Label AI搭載の機杖はLabel AIを搭載している分だけ他の杖よりも脆い。精密さと頑丈さがまだ両立できてない。
それでもジャメイネの思考を読み取り、黄瞳石の機砒杖から【硬化】を展開。
頑丈さを補い、硬質化した杖で黒騎士アーネックから振るわれた避けれない一撃を防御。
弾くように刀剣を振り払ったのも束の間、まるで冒険者が【収納】から装備を切り替えるように、屠殺剣が切り替わっていた。
刀剣に比べても大きいと感じられるほどの屠殺剣〔仁義たるレベリオス〕が、黒騎士アーネックの手の中にあった。
そのまま振り下ろされる。
「ひえええ」
反応が遅れた。刀剣の連撃をどうやって避けるか、と考えていた矢先に、いきなりその刀身よりも大きい屠殺剣が目の前に出現し、それが振り下ろされているのだ。
それも闘気を伴って。
一言。
「【満月流・」
それはアルフォード・ジネンが使う新月流によく似ていた。
「――有明の撃】!!」
新月流を刀剣で行うアルに対して黒騎士アーネックは満月流をより大きい屠殺剣で行う。
「やばっ!」
直撃すると理解したジャメイネを守ったのは三本の杖。
全員が、剣撃からジャメイネを守るように【硬化】で硬質化した機杖を手前で重ね合わせていた。
三本の矢は折れない的理論で守るように息を合わせて重ねた三本の杖が【満月流・有明の撃】を防ぐ。
「大丈夫、だよね?」
レイシュリーの言葉に何度も頷く。衝撃の重みで体が圧迫さえたジャメイネは本音を言えば少し痛みはあったが、死ぬのに比べれば我慢できる痛みだった。
「ありがとう。助かった。ケド本気で吃驚仰天。死ぬかと思った」
油断でも、驕りでもなく、特典の恩恵があるのを良いことにジャメイネは逆立ちのままでも戦えるんじゃないかなんて本気で思っていた。
それを心底反省する。
「……ちょっとだけいい気になってたよ。」
髪の毛での逆立ちをやめてきちっと両足で地面を踏みしめる」
「ジャメイネが、立、った」
初めて逆立ちをやめたジャメイネの姿に驚きが隠せないシスメックのことは露知らず、――ケド次は、と言葉を続け、
「もっと、もっと、いい気になる」
自らの特典を指し示すかのようにそう宣言。
ジャメイネの体に闘気が巡回、増大していく。
ただそれはある意味で虚勢でもあった。
ジャメイネが持つ黄瞳石の機砒杖〔怒り狂うニヴル〕へと闘気が遷移。
Label AIがジャメイネの思考を読み取り魔法詠唱を開始。
すぐさま詠唱が終わり、ジャメイネが機杖を振るう。
黒騎士アーネックは受けて立つ構え。
展開されたのは攻撃階級3【雷音】。
発動と同時に爆ぜ、飛び交う雷の火花が黒騎士アーネックに襲い掛かるが、それは元来の【雷音】とは違い、闘気も帯びていた。
「面白ぇ!」
まるでそっちが素と言わんばかりに言葉が砕けて黒騎士アーネックが兜の中で笑う。
本来、闘気は技能発動時に付与されるが、魔法や癒術には付与されない。冒険者の魔力そのもののがある意味で闘気だからだ。
なのに、ジャメイネは闘気も魔法である【雷音】に付与できる。
おそらく特典なのだろう、その程度の知識は持っていたがそれでもどんな効果があるのか楽しみで仕方がなかった。
黒騎士アーネックに直撃した。傷ひとつない。
わずかな痺れを覚えて手のひらを見つめる。
「闘気が付与されたのは目に見えていた。推測通り、威力の増加だとしたら――わずかにあった手のしびれは……麻痺? この俺が久しぶりに状態異常にかかるとはなあ。ってことはもしかして才覚もあるのか……いいね。面白ぇ、面白ぇぜ」
「7んか、|9000000000000《口調》違わ71?」
「あれが本来なんじゃない?」
レーントとレイシュリーの会話の傍ら、
「おい。無傷だからっていい気になるな」
ジャメイネは黒騎士アーネックがほぼ無傷だったことに若干ショックを抑えつつも、まあ攻撃階級3だからな、と胸中で言い訳して
「もっといい気になるよ」
そう言い張って闘気を大きく見せて挑発。
手には冷や汗。
何せ、それはある意味で虚勢だった。
黒騎士アーネックには悟られてはならない。
自分が大きく見せている特別な闘気の量。その量は実は昨日の時点ですでに決まっている。
それを絶対に黒騎士アーネックに悟られてはならない。
冷や汗は、熱気によって流れ出る汗でうまく隠せた。
だからこの秘密も黒騎士アーネックに隠し通して、常に黒騎士アーネックの脅威になり敵視を受け続ける。
そうすれば他の三人はより自由に動きまれる。
【炎天下】に閉じ込められたその時点から、まるでジャメイネはそういう役割を自分に課していた。まるで物語の登場人物のひとりのように。




