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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
779/874

構築

 ***

 

 思わず巨大盾〔誉れの盾雄アロンド〕を持って銃口とクレインの間にミネーレは飛び込んでいた。

 クレインの無謀にも思える姿を見て、なぜだか足が動いた。

「死ぬ気? 逃げたなら逃げたままでも良かったし」

「全力で戦わないと負けても生き残ってもきっと後悔するから」

 クレインは離脱しても戻ってくるつもりでいたのだろう。

「だからって、死ぬ可能性のほうが高いし」

「そうかもですけど。でももうすぐ助っ人がきます。それまで耐え切れれば」

「助っ人?」

「はい。ボクとユテロは【転移球】でここまで戻ってきたんですけど。その途中で見かけたんです」

「じゃあザイセイアの作戦は?」

「成功しそうです。でもここで辿り着かれたら……」

 失敗する。という言葉をクレインは口にしなかった。言ってしまえば現実になりそうで不安だったのかもしれない。

 それを察したミネーレも、続けて言葉にはしなかった。

 それよりもどうして動けたのか、助けようとしたのかのほうが不思議だった。

 本能とも違うような気がする。まだエル三兄弟を失った喪失感は存在している。

 いやクレインが戻ってきたことがあまりにも無謀にも見えて、だったらここで代わりに死んでもいいとミネーレは自棄になっているのかもしれない。

「あーしは何をすればいい? 守ればいい?」

「いえ、一緒に戦ってください」

「ん?」

 それが守るということではないのだろうか、とミネーレは不思議な表情でクレインを見つめていた。

「だから一緒に戦ってください」

「そういうことね……」

 ミネーレが腑に落ちたかのようにつぶやく。

「何か?」

 聞き逃したクレインは問いかけるが、「独り言だし」とミネーレにごまかされた。

 まだエル三兄弟への喪失感は癒えない。

 それでも一緒に戦ってほしいというクレインの言葉はミネーレの想像していた言葉と異なった。

 クレインは守ってほしいと思っていたがそうではない肩を並べてほしいと言っているのだ。

 だからだろうか、守ることに固執していた自分に気づかされる。

 アロンドに憧れ、巨大盾〔誉れの盾雄アロンド〕を託されたときから、ミネーレは自分の戦いを捨てた。

 もともとは盾を使って守るのではなく、盾を使って攻める戦い方をしていた。

 後衛を守る役割を任されても、気づけば前衛で暴れまわり、敵の注目を集めるという方法で盾役を務めていた。

 おそらくエル三兄弟が盾を託したあとに多少の申し訳なさがあったのは、ミネーレにその戦い方を捨てさせたからかもしれない。

 託される前のミネーレはもっと豪快で大胆さがあった。守る気持ちはあっても攻める気持ちのほうが強かった。

 武器を変えることで低迷するのは冒険者にとってはあるあるで、使い勝手に慣れるまで困惑する状況が多い。

 ミネーレは託されたと思い込み重圧や責任感もともに背負っていた。

 もっとミネーレがミネーレらしく戦えれば、エル三兄弟の死さえも覆せたかもしれない。

 アロンドに憧れすぎて守ることに重きを置きすぎていた。


 ミネーレはその日、アロンドに憧れるのをやめた。

 巨大盾〔誉れの盾雄アロンド〕を【収納】。


 ミネーレは結局、アロンドの何を知っていたのだろう。

 ミネーレが知っていたのはアロンドの歴史の一部でしかない。

 それこそ人の見聞きで構成された切り抜きだ。

 アロンドも敗北を経験し、たくさんの人を守れなかった。

 アデルーリア姉妹だってそうだ。時には仲違いをし、その結果、死に別れたことだってある。

 アロンドはそのことを自分から語りはしなかった。

 きっとその全てをアロンドが話を終え、謝罪したときミネーレの中にある憧憬は跡形もなく消え去るかもしれない。

 ヤマタノオロチ戦での戦いぶりが英雄視されている、というだけで、何人も守り切れず恨まれ責めれたほうが多いのだ。

 アロンドもそのたびに悩み苦しんだ。

 今、ミネーレがそうであるように。

 それでもミネーレは立ち上がる。

 再び駆けつけたクレインたちのために。

 その為に盾を振るう。

 本来、自分がやりたかったように。

 縄盾〔密偵ダーマン〕を取り出す。

「分かった。だったら遅れずついてきてだし」

 ミネーレはそう告げてクレインより前に出る。

 縄盾〔密偵ダーマン〕の縄を自分の腕に巻きつけたまま、投擲。魔盾障壁に遮られ、勢いが殺された盾を縄を引っ張ることで回収。

 再度投擲。

「無駄だ」

 黒騎士アロンドの鉄盾機銃〔蒼白のミネーレ〕を乱射。急いで回収した縄盾で最低限防ぎ、距離を詰めていく。

「無駄かどうかはあーしが決めるし」

 速度が増す。速度が増していく。

「あーしの姿を見切れる?」

「何が起きている?」

 超高速で動き回り、乱射を防ぐどころか回避して、確実に魔盾障壁へと縄盾をぶつけている。

「【発襲(アクシデンタル)暴撃(・ディスチャージ)】!」

 玉髄の安蘭樹杖〔犬の兵隊ググワンガ〕が魔盾結界に衝突。さらに衝突点から衝撃波が無作為に爆発。

 魔盾結界を傷つけていく。

 回避されるミネーレをひとまず無視。鉄盾機銃〔蒼白のミネーレ〕の銃口をクレインに向ける。

「ユテロッ!」

 その頃にはユテロが【転移球】でクレインを転移。転移先は射程外のため、銃弾の無駄撃ちを抑えて、再びミネーレの方に向ける。

 縄盾〔密偵ダーマン〕の連打が止まらない。

 小型の盾なのに、結界に響く衝撃音は重たい。

 銃の乱射に合わせて、回避行動に切り替えるミネーレ。同時に結界にぶつかる縄盾の衝撃は軽いものへと変わる。

「そうか……」

 黒騎士アロンドも元のアロンドの知識は取り込まれている。その知識の泉から思い当たる特典へと到達。

「〔自己矛盾(セルフプロデュース)〕か」

「ご名答だし。けど、分かったところであーしを止められる? 少ない武装で。もう新しい種なんてないでしょ?」

 黒騎士アロンドに向けて、挑発を投げつける。

 黒騎士アロンドの判明している攻撃は三つ。すべては魔盾結界という絶対防御の中で行われる。

 ひとつ、鉄盾機銃〔蒼白のミネーレ〕を用いた銃撃。

 ひとつ、結界での魔法消滅に伴う同威力の魔法展開。

 ひとつ、冬の浸食による寒さでの体力消費。

 その種の割れた三つがほぼ黒騎士アロンドの攻撃を占めており意表を突けるものは存在していない。

 その割れた種では黒騎士アロンドが倒せない、とミネーレは挑発しているのだ。

 初回突入特典〔自己矛盾(セルフプロデュース)〕は自身の能力をいじることができる。

 【分析(ステータス)】で数値化されるATK、INT、DEF、RGS、SPD、DEX、EVAの七つの能力値を自由に操作することが可能になる。

 最低各能力に1必要のため、最大数値は七つの能力の合計-6となるが、それは他を犠牲にした莫大な力へと変貌する。

 それこそ己が矛にも盾にもなれる力。制限時間があるため使い時の見極めは必要だが、あと少しの足止めであれば効力を発揮するには十分となる。

 EVAを最大まで上げて銃撃を避け、ATKを最大まで上げて縄盾を魔盾結界へと叩き込む。

 攻撃の種類や性質を瞬時に見極め、ミネーレは己を作り変えていく。

 クレインの打術技能の連打が、所々で黒騎士アロンドの意識を割いているのもミネーレにとって手助けとなった。

 一緒に戦うという言葉の意味が体に沁みる。

 もう少し早く理解できていれば、何か変わっただろうか。

 涙目を堪えて、連撃を浴びせては回避を繰り返す。

 黒騎士アロンドは歩くこともなく、むしろ苛立っているようにも見えた。

 そうして全員が気づく。

 鎚の叩く音が鳴りやんでいた。音が鳴りやんだのはいつなのかは分からない。

 それでも分かることがある。ザイセイアの強化はついに+10へと至ったのだと。

 同時にその強化された剣を持った人影が吹雪の中から姿を見せる。

「やれやれ。よく耐えてくれた。後は任せろ」

 クルシェーダが黒騎士アロンドの前へと姿を見せた。

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