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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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復帰

 ***


「あーしは……」

 ミネーレは吹雪く周囲に誰もいないことにようやく気付く。

 一緒に討伐する予定だったエル三兄弟は死亡し、デデビビたちは離脱していたところまでは覚えている。

 聖櫃戦九刀(Accen9t)を名乗ったソンソソとパーセプはどうなったのだろうか?

 ミネーレはゆっくりと黒騎士アロンドの元へと向かった。


 ソンソソもパーセプも戦っていた。


「守らないと」

 それでも足は動いてくれない。エル三兄弟の死に様が目から離れない。

 守れないなら守らないほうがいい、そんなことさえも思ってしまう。

 思ってないようなことを思ってしまい、罪悪感を覚えて身を隠す。


 ソンソソが死に、パーセプも死んだ。


 その死に様にどこか胸が熱い。

 どちらもザイセイアの元へ生かせまいと持てる力を出し尽くして、それこそ死力を尽くした。

 それはアロンドの死に様に似ていた。

 ミネーレ自身が憧れた死に様で生き様。

 誰かを守って、守って死んだという生き様。

 ミネーレはアロンドの全てを知らない。

 姉たちを守っていたという見聞だけで憧れた。

 空中庭園に飾れた石像と、そこから伝えられた逸話で、憧れを強めた。

 エル三兄弟から渡された巨大盾〔誉れの盾雄アロンド〕で託されたとさらに強めた。

 憧憬はミネーレの強くなるための糧だった。

 だからエル三兄弟が死んだというのはアロンドへの裏切りそのものだった。

 それが重くのしかかかって体はうまく動かない。

 ソンソソの戦いにもパーセプの戦いにも参加できたはずなのに。

 ともにザイセイアを守ることだってできたはずなのに。

 死が、それも身近な仲間の死が。

 エル三兄弟に巨大盾〔誉れの盾雄アロンド〕を託されるまでは各地を転々として、いろんな依頼を受けた。

 失敗もしたうえに仲間を失ったこともある。

 けれど守り切れなかったことでの喪失感はこれほどまでなかった。

「あーしがやらなきゃ」

 再び歩き出した黒騎士アロンドを見て、心を奮い立たせる。

 一歩を踏み……出せない。


 ***


「あと少し……あと少しだ」

 ザイセイアは思わず言葉にしていた。

 完成目前の焦りというより、飛んでくる殺意から心を落ち着かせるように呟いていた。

「ふぅううううう」

 深く呼吸をして

「はああああああああ」

 永く息を吐く。

 何もしなければ、殺意だけで殺されてしまいそうなほどだった。

 鍛冶場の熱気だけは理解できないほどの汗が額から、そして体中から吹き出る。

 冬の浸食の寒さが汗を冷やし、暑いようで寒い、寒いようで暑い絶妙な感覚だった。

 神経を尖らせて、剣を鎚で叩く。

 飛んでくる殺意から逃れるように、忘れるように叩く。

 けれど一度意識した殺意は、気になってしまった音をずっと気にしてしまうように、ずっと意識の中をまとわりついてくる。

 打つ手が止まる。このままでは良い強化はできない。

「ふぅうううううはああああああああ」

 作業を止めて、深呼吸を続ける。

 肺に空気が入り込む。

 冷たくて、新鮮な空気が。

 それでも殺意が飛び込んでくる。

「情けない……」

 大口を叩いて、矛盾の話をして、強化できれば勝てるなんて言い放った。

 このまま打てなければ大言壮語だ。

 震える手が止まらなかった。

 もうザイセイアを守る人はいない、薄々気づいて怖くなった。

 こんな状況では打てない。

 敗北の二文字が脳裏に過ぎる一歩手前、

「良かった……。間に合った……。まだ終わってなかった……」

 泣きそうな声でザイセイアの後ろに現れたクレインはそう告げた。

「どうして【降参(サレンダー)】で離脱したとばっかり」

「戻ってくるつもりだったよ。今度はきっちり着込んできましたから」

 今度はしっかりと防寒着を着用していた。

「わだしは疲れだからちょっと休憩」

 疲れた様子のユテロが遅れてやってくる。

「デビは【降参(サレンダー)】の影響で傷だらけで……」

「だからと言って、逃げても誰も責めない。元より無茶な提案だった」

「でもあと少しなんじゃないですか」

「それはそうだけど……」

「だから戻ってきたんです。デビも止めたけど、ボクが無理言ったんです。寒さで逃げ出して、他の冒険者が全滅なんて……そんなのは嫌だから」

「呼吸は整ったべ」

 ユテロが言う。

「じゃあ、黒騎士アロンドの前までまた【転移球】でお願い」

「まただべか……」

 ここまでも【転移球】の連続で急行したのだろう。

「勝てなくても戦うんだな?」

 転移間際、ザイセイアは問いかける。

 実力はもう分かっているはずだ。それでも守ってくれるのか、と。

「勝てますよ。ザイセイアさんが言ったんです。もうすぐ勝てます」

 その言葉が一瞬理解できなかった。

「もしかして、誰かが向かってきているのか」

 その言葉が出たのはふたりが転移したあとだった。

 それでもザイセイアは奮い立つ。

 殺意は気にならなかった。

 鎚を打つ手が弾む。

 +9。

 残る強化も必ず成功させる。

 そして倒して見せる。

 無敵の盾を。


 ***


 ミネーレが動けない間にも黒騎士アロンドは進んでいく。

 そんな黒騎士アロンドの前に現れたのは離脱したクレインとユテロだった。

「戻ってきたのは愚策だ。相手にもならない」

 黒騎士アロンドは半透明の鎖で行動範囲を制限するにはしたが、ふたりには興味はなかった。

 鍛冶場へと銃弾が届く範囲までは目算で二十歩程度。

 半分まで距離を詰めれば、強行突破もできる距離だった。

「一歩たりとも止めれない」

 話を聞かずにクレインが杖をぶつけ続ける。

 びじぃ と衝突するたびに音が聞こえてくるが気にも留めなかった。

 一歩。

 一歩と歩く。

 その一歩の間にクレインは【直襲撃々(ディレクト・ヒット)】を三発から四発撃ちこんでいた。


 びじぃ、びじぃ…ミシィ…びじぃ、びじぃ。

 

 違和感が交じる。

 それはソンソソとパーセプが積み上げた違和感。

 魔盾結界も限界が近い。

 とはいえ、クレインが打術機能で結界を破るにはあと数万発は必要。

 ユテロの【速球】であればもっと必要になる。

 雀の涙程度。

 けれどわずかに聞こえた違和感は、クレインたちにとっては希望になる。

 無敵のように見えた魔盾結界も耐久度がある。

 それにもうすぐ助っ人も到着し、さらにザイセイアの最強の剣+10も完成する。

 希望は力になる。

 クレインたちはそれを目指して攻撃をし続ける。


「無駄だと言うのがわからないのか」


 黒騎士アロンドが足を止めた。

 完全なる無駄足。魔物なら脅威の排除を一番に優先しそうだが、黒騎士アロンドにはアロンドの残滓が残っている。

 だからだろうか、無駄でも立ち向かってくるふたりに意識が割かれた。

 鉄盾機銃〔蒼白のミネーレ〕の銃口がクレインへと向けられた。

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