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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
775/874

地殻

 ***


 魔力は本来一日分のみが体内に宿っている。その魔力を全て使い切ったとき、冒険者は精神的な死を迎える。

 けれど魔力は十分な睡眠ですぐに回復し、すぐに使用可能になる。

 初回突入特典〔生成可能(アース・)魔力資源(オーバー)臨界(シュート・)(デー)〕はその本来体内に宿る魔力一日分を発動時点を初日として一年分へと変換する。ただし、その後の魔力は十分な睡眠で回復せず、発動日から一年経ってようやく回復する。

 つまり普段なら一日分のみの魔力内で使い放題の魔法を、一年分の魔力で使い放題になる。

 実質、無尽蔵。もちろん使い切れば精神的な死を迎えるのは変わらず、魔力が一定量減れば警告として発生する頭痛や眠気は一日単位ではなく、一年を経過するそのときまで恒常的に続くことになってしまう。

 欠点のほうが多いように見える特典だが、現状のように攻撃階級10の【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】を連発しても魔力切れを起こさない。

 常人なら階級10の魔法は1日2回が限度。その限界を突破してもなお、ソンソソは魔法が使える。

 実に一年分の魔力がそれを可能にしているのだ。

「諦めろ」

「シさシっシきシよシりシもシあシせシっシてシなシい?」

 ソンソソは問いかける。鉄盾機銃〔蒼白のミネーレ〕から銃弾が連続で発射。が時折、銃弾の嵐が止まる。

 理由は明白。手動で装填しているからだ。砲術技能で出した【機関銃(ミトラリアリトーレ)】などであれば精神摩耗はするが銃弾が自動装填されるが、武器である鉄盾機銃は弾丸を技能を用いて入れることはできない。

 その装填の最中がソンソソにとってはある意味安息の時間。

 とはいえ休めない。自分で撃ち魔盾結界によって消滅した【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】を結界が生成してソンソソめがけて撃ち放ってくる。

 再度、【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】で迎え撃つ。

 襲来した【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】を消失させて、魔盾結界へと衝突。

 ジギギギギ …ミシィ…ギィィギギィィ

 衝突音の中に異音が混ざる。

 まるで、結界にひびが入ったかのような、音。

 「シやシっシぱシりシげシんシかシいシがシあシるシよシね?」

 再度、結界により生成された【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】が襲来。ソンソソは【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】で応戦。【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅する。

 ジギギギギ …ミシィ…ギィィギギィィ

 再び異音が混ざる。

 魔盾結界の限界にどんどん近づいているのかもしれない。

 途端に鉄盾機銃〔蒼白のミネーレ〕からの銃撃が再開。回避行動を取る手前で体がよろける。

 精神摩耗の反動だろうか、一日で生成される魔力はとっくに使っている。一年分の魔力のどれほどを消費したのか、計算はしていないがまだ頭痛も眠気もない。だとすればまだ魔力量は健全。

 それでも一日で生成される魔力以上の放出は身体的にも精神的にも毒なのかもしれない。

 よろけた反動で、回避できるはずの銃弾が何発か身体中に撃ち込まれる。掠る程度なら許容。そう考えていたソンソソだったが、右腕に右足、脇腹から出血。止血している暇もない。

 右腕は冒険者の大半にとって利き腕。そこに傷を負ったのは手痛い。

 痛みで落としかけた茶鳴石の機鉛杖〔驚き愕くアスガ〕をしっかりと握って襲いかかってくる【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】を【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】で対応する。

「諦めろっ!」

 黒騎士アロンドの怒気が強くなる。

 ジギギギ …ミシィシィ…ギィィギギィィ

 再び激突した【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】で異音がわずかに大きくなる。

 ソンソソだけで結界が突破できれば偉業かもしれない。

 ただそんな余裕もない。

 何度目か分からない結界生成された【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】が襲来。

 Label AI搭載の茶鳴石の機鉛杖〔驚き愕くアスガ〕へ意識を注ごうとして――

 目の前に結界によって生成された【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】があった。

 一瞬だけ意識が途切れたことに気づく。それでも反射的に【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】を展開。

 あと少し意識が長く途切れていたら、たぶん死んでいた。

 痛みと精神摩耗の疲れが、まるで徹夜続き、睡眠不足で一瞬意識が飛ぶような症状を呼び出していた。

 それでも、意志の強さがそうしたのか、ソンソソの繰り返しの【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】は続く。

 ソンソソの狙いは魔盾結界の魔法生成の性質を突いた、連続魔法展開により結界の消失だった。

 ソンソソが展開した【落石(ロックフォール)】と魔盾結界が生成した【落石(ロックフォール)】が衝突したとき、お互いが消滅した。 

 つまり、ふたつの【落石(ロックフォール)】は威力が同じ。

 続いてソンソソは魔盾結界が生成した【岩石崩(ロックアバランシュ)】に【落石(ロックフォール)】で対抗した。

 【岩石崩(ロックアバランシュ)】が攻撃階級2に対し【落石(ロックフォール)】は攻撃階級1。

 本来ならば【岩石崩(ロックアバランシュ)】を【落石(ロックフォール)】で消滅させることはできない。

 威力が攻撃階級2のときが上だからだ。もちろん熟練度が影響すればその限りではないが、ソンソソはこう推測していた。

 魔盾結界が生成する魔法は結界で消滅したときと同じ威力、と。

 だからこそ、ソンソソは攻撃階級1から順々に魔法を展開する術を思いつく。もっと効率的な方法もあるかもしれないが、それを瞬間的に計算して出せるほどソンソソは賢くない。

 攻撃階級1の魔法を展開し、攻撃階級1の魔法が生成。

 生成された攻撃階級1の魔法を攻撃階級2の魔法で応戦。

 生成された攻撃階級2の魔法(階級1相当の威力)を攻撃階級3の魔法で応戦。

 というふうに繰り返していった。

 結果、

 生成された攻撃階級10の魔法(階級5相当の威力)を攻撃階級10の魔法(階級10相当の威力)で応戦という状況が作り出される。

 当然、ぶつかりあった攻撃階級10の魔法は威力の差分だけ結界に衝突し結界を傷つけていく。

 魔盾結界が生成する【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】は応戦を繰り返した結果、階級5相当の威力となっているのでソンソソが展開する階級10相当の威力の【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】を放てば結界を必ず傷つけることができた。

 技能や剣撃などの威力では意味がないほどに果てしない耐久力を持つ結界も、階級5相当の威力だとしても連続で展開される【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】は確実に魔盾結界を傷つけ弱めていく。

 狙い通り、黒騎士アロンドは歩みを止め、ソンソソに対応せざるを得なくなっていた。

 ソンソソはその行動を何十回目も繰り返した。

 やがて、

 ジギギギギ …ミシィ!! …ギィィギギィィ

 微かな異音は確実な異音として黒騎士アロンドやソンソソだけではなく、パーセプの耳にも届く。

 時間稼ぎには十分すぎた。

 その頃にはソンソソの体は銃弾によって穿たれた穴から大量に出血しており生きているほうが不思議だった。

「シあ……シあ……」

 言葉ももう呂律が回らないどころではない、呻き声に近い言葉を発していた。

 うまく立ち上がれないのか茶鳴石の機鉛杖〔驚き愕くアスガ〕で体を支えていた。

 その状態では魔法をもう展開できない。

(suff)(icient)です。もう(suff)(icient)ですよ。ソンソソ」

 ソンソソの体を支えて、魔盾結界が生成した【堅土兆来ナチュラル・ディザスター】の直撃から回避。

 この痛みと精神摩耗では冬の浸食による寒さですらきつくなっているはずだろう。

 鉄盾機銃の射程外までソンソソを運んだパーセプは自分が着ている防寒具もソンソソに重ね着して少しでも寒さを和らげる。

「シあ……」

 ソンソソの言葉はもう出ない。思わず抱きしめて

「ありがとうございます。ソンソソ。(Impo)(ssible)をさせすぎました。(Origi)(nally)ならもう(bit)(early)(stop)めるべきでした。けれど貴女(you)(Too)(amazing)ぎて(in the)(middle)(stop)めることができなかった。もしかしたらあの(Barr)(ier)(dest)(ruction)するのかもしれないと。そんな偉業(feat)(expec)(tations)してしまった」

 言い訳のように、それでも嬉し気に言葉を紡ぐ。

貴女(you)(beauti)(ful)でした」

 ソンソソは微笑み、やがて眼を閉じた。か細く続いていた呼吸が止まり、息が絶える。

 それがソンソソの最期だった。

(Next)(I)(turn)です」

 警戒しているのか黒騎士アロンドは歩みを止めている。そのまま歩みを止め続けるのがパーセプの役目だろう。

 ソンソソの遺体をゆっくりと地面に寝かせる。吹雪がソンソソの遺体を埋めていった。

 意を決して黒騎士アロンドの前にパーセプは姿を見せる。

 ソンソソが戦っている最中、そうしていたように両手で親指と人差し指でL字を作り、片方を反転。両方の親指と人差し指で□で黒騎士アロンドを捉える。

 そして一言。

(play)(back)

 パーセプの初回突入特典〔百八十秒の虚構(ニヒルアルティーケル)〕が発動する。

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