資源
***
「シとシめシなシいシと」
黒騎士アロンドと付かず離れずの距離でソンソソとパーセプは会話を続ける。
脅威を潰すまではそれ以外は興味がなく安全というのは何の皮肉だろうか。
「生半可な攻撃では止めれません。というか止まりません」
「シとシくシてシんシをシつシかシう」
「反対です。確かに強化はされるかもしれないですが」
「シほシかシにシてシはシなシいシもシの」
ソンソソは決意に満ちた目をしていた。
「確率は五分五分です」
「シあシなシたシもシとシくシてシんシをシつシかシえシばシいシい。シあシなシたシのシとシくシてシんシはシとシてシもシきシょシうシりシょシくシだシけシどシじシかシんシがシひシつシよシう」
「いやですよ。ソンソソ。貴女は何を言っているか理解しているのですか。それはつまり貴女は僕の時間稼ぎのために死ぬと言っているようなものです」
「シそシれシでシいシい」
「それがいやなのです」
言葉の応酬が止まらない。ソンソソは確実に死ぬ気だ。パーセプにはそれが分かってしまったから何としても止めたい。同時に頑固なソンソソが主張を変えないこともまた分かっている。
それでも納得させるように言葉を尽くさなければならない。
「シなシらシどシうシやっシてシくシろシきシしシをシとシめシるシの。シとシまシらシなシかっシたシらシくシろシきシしシはシあシのシかシじシやシさシんシのシもシとシへシとシむシかっシてシきシょシうシいシをシはシいシじシょシすシる。シそシうシなシれシばシぜシんシめシつシすシるシだシけ」
「ええ。それは理解しています。けれど貴女が犠牲になる必要はないというのもご理解いただけますか?」
「シそシれシはシなシぁシぜ?」
まるでナァゼ・ナァゼのように、シが挟まっているから決して似てはいないのだけどソンソソは問いかける。
「それは……」
一瞬、言葉に詰まってそれでもパーセプは告げる。
「誰にだって喪失は辛辣なものでしょう」
「シあシりシがシと」
自分の本当の気持ちがどこにあるのか整理ができていないパーセプだったがソンソソは満面の笑みを返す。
「シワシッシチシはシそシれシだシけシでシうシれシしシい」
「だったら……」
「シでシもシみシんシなシのシたシめシにシワシッシチシはシたシたシかシうシほシうシをシえシらシぶ」
それがソンソソの決意なのだと初めから理解していた。
死ぬ気で戦おうとしているソンソソをパーセプは生きてほしいというわがままのために生かそうとしていた。
そんなパーセプのわがままを理解してくれてなおソンソソは我が道を選ぶ。
「シねシえシてシつシだシっシてシよ」
「ええ。本当はここから離脱しなかった時点で……そうするつもりでした」
パーセプの特典なら確実に足止めは可能だろう。
でもその特典の発動のための時間稼ぎもまた必要なのだ。
ソンソソは黒騎士アロンドの興味を引き、パーセプとザイセイアのために時間を稼ぐ。
その時間稼ぎでソンソソは死ぬ可能性がある。
それがパーセプには途轍もなく悲しいのだ。
「シワシッシチシはシしシなシなシいシかシら」
「了解」
パーセプは黒騎士アロンドに特典を発動する。
両手で親指と人差し指でL字を作り、片方を反転。両方の親指と人差し指で□を作り黒騎士アロンドをその内側に捉える。
「シじシゃシあシね」
まるで別れの挨拶みたいだったので視線は合わせない。
パーセプの特典の発動から三分は時間を稼いでもらう必要がある。
ソンソソが駆け抜けていってから視線を合わせなかったことを後悔。ソンソソはどんな顔をしていたのだろうか。
***
かつて呪いが流行した時期があった。
流行り廃りは当然冒険者のなかにもあるもので、その流行りは冒険者から町へそして名もなき村へと、世界中へ広がっていく。
トワイライトやウル・アンキロッサのように呪いをかけられた冒険者はその呪いの流行の渦中に巻き込まれたと言ってもいい。
ふとしたことで人の反感を買ったり、または劣等感をなくすためと騙されて呪いをかけたりとその流行期には様々な謀略が渦巻いた。
トワイライトやウルの呪いは悪質の類に入り、呪いをかけた側には反動が行く場合もあるが
ソンソソの言葉はソンソソが生まれる前にソンソソが生まれた村で流行った呪いが解ける前に伝承されたものだ。
口の右側を二本だけ針で縫われているのはその呪いの名残り。だから解き方もない。個性として受け入れるしかない。
村の中では全員がそういう喋り方でそういう喋り方でも理解できたので問題なかった。
けれど村を出ればその喋り方は通じない。冒険者には様々な訛りがありなんとなく通じる場合もあるが、ソンソソの喋り方は人一倍理解しにくい。
シを抜けば言葉になると頭が理解していても、文章にしなければシを抜くことすら困難。
それを喋っている最中に理解する人間はそうそういない。
だからソンソソの村の人々は自給自足が基本で内向的だった。
ソンソソはその人一倍あった好奇心で冒険者となり、外に出て苦労しているのだ。
日常的な買い物すらできなかった。
そんなソンソソに手を差し伸べたのがパーセプだった。
パーセプもこれまた独自の言い回しを持っていた。自分で今の喋り方を作ったと公言するパーセプだから言葉の理解力が高かったのかそれは分からない。
それでも言葉が通じるパーセプの傍にいることをソンソソは確かに居心地が良いと感じていた。
それはずっと今も変わらない。
***
「ほう。ひとりで足止めにでも来たか?」
ソンソソが立ちはだかったのを見て黒騎士アロンドは告げる。だが相変わらず興味もなく歩き続けていた。
「シあシなシたシはシかシなシらシずシあシしシをシとシめシる」
「……」
わずかに静寂があった。
「やってみろ」
その間に解析でもしたのか、黒騎士アロンドは挑発的に笑う。視線はもう外れていた。相手にしないというような態度。
「シいシわシれシなシくシてシも」
黒騎士アロンドが最初は興味を引かないのは分かりきっていた。
Label AI搭載の茶鳴石の機鉛杖〔驚き愕くアスガ〕から【落石】を展開。
じぃ、と小さな衝突音。
結界に魔法で生成された石が衝突しかき消える。
三兄弟を屠った通り、結界は消滅した魔法を生成。【落石】がソンソソへと襲来。
すでに詠唱を終えていたLabel AIが再度【落石】を生成。
襲来した【落石】とぶつかり消滅。
「シいシりシょシくシはシどシうシてシいシど」
そう考えるとエル三兄弟は三重詠唱して威力を増していたからこそ、結界に生成された【疾風怒濤】もまた三重詠唱されたほどの威力を持っていたのだろう。
続けて【岩石崩】が茶鳴石の機鉛杖〔驚き愕くアスガ〕から射出。
攻撃階級は2。階級1の【落石】よりも当然高威力。
がそれもまた結界に阻まれる。
躊躇うことなく【岩石崩】を連射。魔盾結界から生成、発射された【岩石崩】と相打ちになっていく。
「魔力の無駄遣いだ」
「シいシいシえ。シこシれシはシかシくシにシんシさシぎシょシう」
そうソンソソの言う通り、これはただの確認作業でしかない。
魔盾結界から生成射出された【岩石崩】を相殺し、今度は再び【落石】を発動。
「魔力切れか? 節約か?」
黒騎士アロンドは確認作業と言いながら魔法を連射するソンソソに疑問を抱きながらも亀のごとき歩は止めない。
生成、発射された【落石】に向かって【岩石崩】を発動。
【落石】を破壊し、残った【岩石崩】が結界に衝突。消滅。
魔盾結界が再び【岩石崩】を生成し発射。
その【岩石崩】にソンソソは【落石】をぶつけて相殺。
「シやシっシぱシり」
思い描いた通りの結果にソンソソは納得する。
「何がしたいんだ?」
自分の周囲で飛び回る蠅を手で追い払うように煩わしげに黒騎士アロンドは問う。
「シきシょシうシみシがシあシるシなシらシあシしシをシとシめシてシみシてシいシっシてシよ」
「……」
わずかに歩が止まる。がそれはコンマ数秒。また黒騎士アロンドは歩き出す。
その間はソンソソの言葉を解析に使ったのだろう。自分の言葉に対する読解力はパーセプより劣ることをソンソソは把握。黒騎士アロンドにとってはどうでもいいことだろう。言葉を理解して興味がないから再び歩き出したのだ。
ソンソソは再び【落石】を発動。魔盾結界よって消滅。生成された【落石】が襲来。
【岩石崩】で応戦。【落石】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【岩石崩】が襲来。【尖突土】で応戦。【岩石崩】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【尖突土】が襲来。【弾岩】で応戦。【尖突土】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【弾岩】が襲来。【地盤沈下】で応戦。【弾岩】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【地盤沈下】が襲来。【大地震】で応戦。【地盤沈下】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【大地震】が襲来。【隕石地任】で応戦。【大地震】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【隕石地任】が襲来。【獣満憶土】で応戦。【隕石地任】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【獣満憶土】が襲来。【土崩駕壊】で応戦。【獣満憶土】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【土崩駕壊】が襲来。【堅土兆来】で応戦。【土崩駕壊】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【堅土兆来】が襲来。
「シまシだシまシだシいシくシよ。シどシこシまシでシたシえシらシれシる?」
【堅土兆来】で応戦。【堅土兆来】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【堅土兆来】が襲来。【堅土兆来】で応戦。【堅土兆来】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【堅土兆来】が襲来。【堅土兆来】で応戦。【堅土兆来】を打ち砕き、魔盾結界よって消滅。生成された【堅土兆来】が襲来。
「なんだ、それは?」
黒騎士アロンドの歩が止まる。
無尽蔵の魔力と高速詠唱ができなければやってできない荒業。それをソンソソがやっている。
黒騎士アロンドは確実に身震いし、脅威と認定。
鉄盾機銃〔蒼白のミネーレ〕の銃口をようやく向けた。
銃弾がソンソソへと放たれる。
多少掠っても気にせずソンソソは自分へと発射された【堅土兆来】へと【堅土兆来】を衝突させてから魔盾結界へとぶつける。消失した【堅土兆来】は再び魔盾結界より生成。【堅土兆来】がソンソソへと発射される、を繰り返している。
「どれだけ撃てる?」
「シいシくシらシでシも」
それがソンソソの初回突入特典〔生成可能魔力資源臨界点〕の能力だった。




