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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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限界

***


「脅威は排除する」

 その言葉をデデビビたちは聞き逃さなかった。

 進行していく方向を見る。

「ザイセイアさんのところに行くつもりだ」

 デデビビたちの会話が聞こえていたというより、時折響く鎚を叩く音で察したのか。

 黒騎士アロンドはのっしのっしと歩を進めていく。

「止めないと」

 自然と零れた言葉はデデビビだけでなく、ユテロ、クレインとも共通の認識。

「【構築(デッキリメイク)】!」

 使い切ったデッキを再度構築。自動で切り混ぜられていく。

「ミネーレさん、動けますか」

 横目でミネーレを確認するがまだ立ち直れてないのか返事もなく、ただ呆然と立ち尽くしている。

「なんで(start)(moving)したか(explana)(tion)(Ask)みます」

 デデビビのもとにソンソソとパーセプが到着していた。一斉攻撃の反撃の難を逃れて、少し遠回りして合流を選んだのだ。

「えっと」

 デデビビは到着したふたりに簡潔に説明する。

「シなシるほシど。シワシッシチシたシちシもシてシつシだシうシよ」

「お願いします」

 間髪なくソンソソの言葉を理解して告げると

(Astonis)(hment)した」

 パーセプもソンソソも驚いた表情を一瞬見せる。

 ソンソソの言葉はシ抜きでようやく言葉の意味をなすため、一回咀嚼するように言葉からシ抜く必要がある。

 ゆえにソンソソへの回答はどうしても時間差が生まれる。

 聖櫃戦九刀(Accen9t)でもソンソソの言葉をすぐに理解できるのはパーセプぐらいだ。パーセプがこうしてソンソソと組んで動くのも、通訳的な意味が合いがあった。

(I)はまだしも、ソンソソの言葉(words)一発(One shot)(Under)(standing)できるなんて」

「似たような仲間が僕たちもいるから」

 アテシアのことだろう。

 デデビビたちは発した言葉ではなく、その言葉の意味を感覚で察することができるようになっていた。

「そうか。それにしても(Astonis)(hment)連続(continuous)だ。まさか(batting)(skill)開発者(Developer)にこんなところで遭遇(meet)できるなんて」

「シとシっシてシもシべシんシり」

「そ、それはありがとうございます」

 出会う魔法士系複合職や上級職に幾度となくお礼は言われているが未だ慣れない。

「|せっかくです。ご一緒(together)させてもらおう。(magic)(spell)気安(Cheerful)発動(Activation)できない」

 パーセプの提案にソンソソも頷く。

 魔法は黒騎士アロンドの吸収され、再構成されて発動者の元に射出される。まるでトラウマのようにその光景は植えつけられている。

「じゃあデビ。いつも通りに」

 黒騎士アロンドに向かい始めたソンソソとパーセプに続くように一言告げてクレインにも向かっていく。

「デビ……まずいがも知れねえ」

 今まで静かだったユテロが一言呟く。見れば体を震わせている。

「むっがしから、寒いのは苦手でな」

 展開していた【炎札(ファイアカード)】を近づける。

「あんがと。けどあんまり意味ないべ」

「そっか……ごめん。どっちかに残ってもらえばよかったかも……」

 ソンソソとパーセプ。遠ざかるふたりを見やる。クレインが魔法を使えないため、魔法で暖めてもらうという発想が頭から抜けていた。いやデデビビもまた寒さで思考が飛んでいたのかもしれない。

「もう少し頑張れる? どうなるか分からないけどいざとなったらアレを使う」

「クレインに怒られるべ」

「仕方ないよ。分かってくれるさ」

 そんな会話も露知らず、クレインたちは黒騎士アロンドへと対峙。

 打術を惜しみなく展開して三方向から連続して打ち込む。

 歩き出した黒騎士アロンドの魔盾は空中に浮かび、結界はそこから展開されているが、それでも効果が減衰したりはしていない。

 

 びぃいぃいん、じじぃぃん、びぃぃいぃん、びっじいじん


 変わり映えもなく、結界と杖とがぶつかる衝突音が聞こえ黒騎士アロンドの歩みは変わらない。

「止まらないっ!」

「シこシのシまシまシつシえシだシけシがシまシもシうシしシそシう」

同意見(agreement)です」

 ユテロの投球、デデビビの札術の援護もあるが、その衝突音は小さく、打術よりも効果があるとは言えない。

「くしゅん」

 クレインがくしゃみが響く。

 黒騎士アロンド討伐に参加したパーセプ、ソンソソと違って、クレインの防寒は不十分。

「ごめんなさい」

 心配する視線に素直に謝る。

「シきシにシしシなシいシで。シむシりシもシなシい」

 不意に巻き込まれて参加しているののはソンソソも理解している。

「お仲間(fellow)限界(limit)そうでした」

 先ほど少し話していたときにユテロはずっと震えていた。そのことだろう。

「もし、もしですよ」

 仮定の話を強調して以前に聞いた噂話を元に語る。

「ここから脱出(escape)できる手段(means)があるのでしたら、あなたたちだけでも使用(use)してほしい」

 パーセプたちが空中庭園での依頼を受けていたとき酒場で打ち上げをしていると酔っぱらったお客が、札を扱う冒険者がヤマタノオロチの戦いで、傷つきながらも雅京へと現れたという話を大声で叫んでいた。

 冒険者をよく知る客は札を使う複合職なんてないと夢を見ていただけかボケているだけ、彼をそんなふうに罵った。

 実際、パーセプたちもなんとなく面白いからで聞いていたが札術士が十本指に名を連ねて妙に真実味を帯びてくる。

 だからパーセプはデデビビが何らかの強制移動手段を持っているのだと妙な自信があった。

「でも……」

 心当たりがあるのだろう。

 それでも躊躇うあたり申し訳ないとも思っている。

 優しい子だ、とパーセプは思う。

「シそシもシそシもシぜシんシてシいシがシちシがシう」

「そうです。ソンソソの(communi)(cation)り。(Subjuga)(tion)はこちらの仕事(work)。あなたたちは巻込(involve)まれただけですよ」

 罪悪感を無くすように、言葉を選ぶ。

「だから(peace)(of mind)して」

「シこシこシはシまシかシせシて」

 クレインが選択できるように誘導していく。

「わかり、ました」

 冷える体を我慢してクレインは後退していった。

「さてここからが正念(Crucial)(moment)ですよ」

「シだシいシじシょシうシぶ」

(die)ぬかもしれないですよ」

「シだシとシしシてシもシあシなシたシがシいシれシばシいシい」


***


「クレイン……」

 寒さに震えながら戻ってきたクレインの姿にデデビビは言葉を失う。

 体質的な問題なのかデデビビも寒いながらまだ耐えられる程度の認識だったがクレインとユテロは寒さに耐えきれず放っておけば死んでしまいそうだった。

「ごめん。使うよ」

 だからこそ決断する。

「うん。パーセプさんたちも許してくれた」

 罪悪感をなくすためにパーセプたちは言葉を交わしたが、それはクレインにとっては自分への言い訳のように感じてしまっていた。

「わだしのせいで、申し訳ねぇべ」

「ふたりのせいじゃない。僕の力なんて通用しなかった」

 きっと逃げ出したことにふたりは苦悩する。その苦悩を共有するためにデデビビも悔しい心情を素直に吐露する。

「僕たちはまだ弱い」

「ザイセイアさんも置いていくことになっちゃうね」

「それも申し訳ねぇべ」

「あの人は意外と頑固だから逃げないよ」

 何もかもが通用しなかった。

 悔しさのまま、デデビビは出現させたデッキに手を置いて、一言。

 傷ついてもなお、ふたりを助けれるのなら躊躇いはなかった。

「【降参(サレンダー)】」

 その効果の代償で受ける傷だけがこの戦いの結果なのだろう。

 三人をつれて【降参(サレンダー)】が発動。

 強制移動効果が黒騎士アロンドの発動した拘束を振り解いて、使用前に設定した帰還地点へ移動させた。


***


「ほう。意外とやるなあの小僧。お前たちもあの力で逃げることもできたのでは?」

 【降参(サレンダー)】を見た黒騎士アロンドが素直に感心し、いまだ結界に攻撃を続けるパーセプとソンソソに告げる。

 ふたりの攻撃には見向きもせず、黒騎士アロンドは歩を進める。

 もはやふたりに攻撃もしていない。

 脅威は未だ前方。

 鍛冶の音が響く。

 現在の強化は+5。ようやく道半ばだった。

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