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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
769/874

天丼

***

 

「いい夢見れたか?」

 まるで初夢の感想を尋ねるようにクルシェーダがつぶやいた。

「何を言ってるじゃんか?」

「いや。いよいよ言わないといけないような気がしてな」

「何それじゃん。ボケっとしてるとノバジョに叱られるじゃんよ」

「いよいよやめてくれ」

 すっかり仲直りしたクルシェーダとノバジョの関係性を示すようにジネーゼがからかう。

「で、じゃん? 依頼はオルトロスを倒すでいいじゃんか?」

「ああ。だがいよいよ普通のオルトロスではない」

 目の前に大量に存在している双頭犬に見つからないように隠れながらジネーゼとクルシェーダの会話は続く。

「どういうことじゃん?」

「普通のオルトロスならいよいよジブンの出る幕ではない。他の冒険者でも対処できる」

「あー、回りくどいじゃん。つまりはどういうことじゃんか?」

 じれったいと言わんばかりにジネーゼはクルシェーダを急かす。

「あいつの正式名称はマルティプリケーションオルトロスだ。いよいよ見分け方は首元にわずかだが黒い斑点がある」

「分かりにくいじゃん!」

 ジネーゼが立ち上がり双頭犬の姿を確認。固有技能【不在証明(アリバイ)】が姿を消しているため見つかることはなかった。

「ほんとじゃん。けどないやつもいるじゃんよ」

「それはただのオルトロスだ。交じっているからこそ、いよいよ対処が難しいうえに、対処を間違えれば数が増していく」

「だから他の冒険者が失敗したと、そういうことじゃん?」

「そういうことだ。いよいよただのオルトロスだと思ったのだろう。対処方法を知らなかった結果、数が膨大になりいよいよ手に負えなくなった。だからジブンにいよいよ白羽の矢がたったのだ」

 クルシェーダは言う。クルシェーダは難敵、強敵退治を得意とする冒険者だ。

 一般的な魔物退治であれば他の冒険者でも対応できるため、数が多いだけで駆り出されることは少ない。

 今回は依頼者が難敵だと判断できずに一般の冒険者に依頼を出し、結果的に数が膨大に増えたうえに依頼を受けた冒険者は死亡および逃亡していた。

「まあそれに加えてこのあたりはノバジョたちの村の近くじゃんか。クルシェーダにとっては黒騎士よりも優先度が高いじゃんね」

「そういうお前はいよいよ黒騎士に向かわなくていいのか」

「いやいやジブンは頼まれ事されたからクルシェーダかアエイウを探してたじゃんよ。で今はそのついでに手伝ってあげてるじゃん。文句あるじゃんか?」

「いや。いよいよ助かる」

 軽く礼を述べて、クルシェーダは姿を見せオルトロスたちに向かって口笛を吹く。

「まずは村から遠ざける。いよいよ無暗に切り倒すなよ」

「えっ?」

 言われるよりもはやくマルティプリケーションオルトロスの右首を切断していた。

 切断された個所からオルトロスの右頭が再生しただけではなかった。

 地面に落ちた切断された右頭から、右首、胴体、左首、左頭と生えてくる。

「うえええ。どういうことじゃん?」

 あまりの気持ち悪さに思わず声が出た。

「いよいよ言っただろう|マルティプリケーションオルトロス《増殖双頭犬》だと。いよいよ対処を間違えれば数が増していくとも言ったはずだ」

「早く言えじゃんよ」

「聞いてなかったのはお前だろう……」

 呆れるクルシェーダだが、何度か共闘したジネーゼという冒険者はこういう性格だと改めて痛感した。

「まずは誘導だ。対処方法はそれから教える」

「悪かったじゃん。そんなに怒るもんじゃないじゃん」

 怒気を含んだクルシェーダに平謝りして、ジネーゼは姿をくらます。

 ジネーゼの姿を見失ったマルティプリケーションオルトロスの群れは口笛を吹くクルシェーダの姿を見つけて、挑発に乗るように追いかけていく。


 ***


「いよいよいいだろう」

 村から十分に引き離したところで、クルシェーダはマルティプリケーションオルトロスの群れに対峙する。

 獲物と捉えたマルティプリケーションオルトロスはクルシェーダを逃がさないように囲んで唸りをあげていた。

「で、どう対処すればいいじゃん?」

 そのクルシェーダの隣から声。【不在証明(アリバイ)】によって姿を消すジネーゼも当然のように横にいる。

「いよいよ簡単だ。ふたつの首を同時に斬ればいい」

「えっ? それだけ?」

「ああ、それだけだ。交じっているオルトロスも同様に対処すれば黒い斑点を区別する必要もなくなる」

「なるほどじゃん。でも確かに、それを知らなくてオルトロスだと思っていたらなかなかに倒すのは難しいじゃん」

「ああ。だが対処方法が分かれば難敵の中でも雑魚だ」

 だからこそ一瞬だった。

 ランク7のジネーゼとクルシェーダのふたりの前には描写すら省いて良いほどの瞬殺。

 オルトロスとマルティプリケーションオルトロスの死骸が周囲には散らばっていた。

 その死骸をクルシェーダは丁寧に拾い上げ山のように積み上げていく。

「どうするつもりじゃん?」

「食料に決まっている」

 短刀を取り出し、オルトロスの皮を丁寧に剝いでいく。

「村にとっては重要な食料だ」

 ノバジョの村を含め近隣の名も無き村に食料を配るのも最近ではクルシェーダの日課に組み込まれている。

「でいよいよジブンを探していたのだろう? 何の用だ?」

「緊急の依頼じゃん。引き受けてくれるじゃんか?」

「まだ難敵の依頼が数件ある。それにこの肉の下処理も終わってない」

「緊急って言ってるじゃん!」

 叫びながらジネーゼは要件を伝える。それは黒騎士アロンドに対する依頼だった。

「分かった。だが、それならまだ時間があるのだろう。なら、難敵の依頼も下処理の時間もある。いよいよ間に合うように行くからと伝えてくれ」

「ジブンはまだ仕事が残ってるじゃん。だから伝言はなし。ジブンはすごく嫌じゃんだけどこれからアエイウを探さないといけないじゃんよ」

 それでもジネーゼはアエイウも念のため探す必要があった。

 この依頼の本命はアエイウで、クルシェーダは保険なのだ。本人を前にして言わないが。

「なら、いよいよ間に合うように向かう。お前が話した作戦的に大丈夫そうだ」

 クルシェーダはのんびりがすぎるが、それでも黒騎士アロンドの元に向かってくれるのであればまだ安心か。

 ジネーゼはその返事だけを聞いて姿を消した。アエイウを探しに行ったのだろう。

 クルシェーダはジネーゼを見送った後、しばらくは下処理をしていたが突然、妙な胸騒ぎを覚えた。

 長年冒険者として活躍していると感じる嫌な予感。

「いよいよ少し急ぐか……」

 オルトロスの肉を担いでクルシェーダは遠くをコウデル広野を見やった。

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