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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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看破

 睨みつけられたアールビーは見つめられた、と勘違いして黒騎士ムジカに笑顔を見せる。

 なぜ笑顔を向けてきたのか今は分からない黒騎士ムジカだったが、冷静にアールビーの特典を推測し始めた。

「特典〔星天の霹靂アスペクト・アンド・ネイタルチャート〕で幸運位置(パワースポット)を確認しているようですが、もう通じませんよ」

「あちゃー★ バレちゃってる★」

 手始めに黒騎士ムジカはアンナポッカの特典を指摘する。

 本人が動揺を見せるかどうかで見極めようとしたがアンナポッカは素直に認めて、黒騎士ムジカにバレたことに舌を出す。

 悔しがっているというよりはおどけているという印象が強い。さすがアールビーとつるんでいるだけあるというべきか。

「きっとキミを見たのもある程度推測されたからじゃないの★ アールビー★」

「えっ? あの行為ってオイラに好意があったからなんじゃないの? 笑顔サービス超速球しちゃったよ」

 アールビーはアールビーで睨みつけられた理由を適当に片づけて、勝手な解釈で笑顔を見せたことを告げる。

 自然と調子を狂わすのがアールビーで、ガリーは振り回されているがアンナポッカは元の性格もあってかたまにアールビーのように悪乗りすることもあった。

 今がまさにそうだろう。

 黒騎士ムジカはそんなふたりの言動に混乱しつつも、推測は進んでいく。

「まあ、バレたとしてもそれがどうしたって話。話し手のように相手の様子を窺いながら戦うのは変わりがないし」

 肉薄していたアールビーはつかずはなれずの距離で黒騎士ムジカを牽制。

 近づこうとしてくる黒騎士ムジカには拙いが武器投師も投球技能は使用できるため【速球】によって進行を妨害し距離を空けていく。

「あなたには戦う気がありませんね」

 黒騎士ムジカ自身が感じ取った殺気からアールビーは攻めっ気に欠けると今は判断。

 黒騎士ムジカが現状、推測できているのはアールビーが運に影響する何かを持っているということだけだった。

 それこそ運を増減させるような何かがある。

 そうでなければ幸運位置(パワースポット)に飛び込んだ黒騎士ムジカが運悪く【竜の飛礫(ドラゴンズデブリ)】が直撃するはずがない。

 今は知識の中からそれを探り当てる必要があった。  

 もちろん手も緩めない。変彩金緑石の藪蛇樹杖〔唯一のヘーカペー〕が光る。

「アールビー★」

 魔法の詠唱を見てアンナポッカが位置を指定。

 アールビーが【転移球】を取り出し放る。転移すると見せかけて、自らの足で走りだす。

 アンナポッカが指定した位置、アールビーが投げた【転移球】の転移先、さらにはアールビーの移動先。

 黒騎士ムジカの視線が彷徨う。

 全てが違う位置。さらには自分の影と頭上にすら警戒が必要。 

 ネイレスの姿がなく、空中には再浮上したアテシアに蝙蝠の群れがあった。

 それでも黒騎士ムジカは狙いをアールビーに定める。

 アールビーの運を増減させる特典こそが黒騎士ムジカにとって強敵だと判断していた。

竜の(ドラゴンズ)――」

 魔法が暴発する。

 握っていたはずの変彩金緑石の藪蛇樹杖〔唯一のヘーカペー〕がなくなっていた。

 変彩金緑石(アレキサンドライト)から発動するはずだった【竜の溜息(ドラゴンズバースト)】が展開する直前、使用者と装備の同期が強制的に断たれた影響で、発動間際の魔力が暴発したのだ。

 変彩金緑石の藪蛇樹杖〔唯一のヘーカペー〕を盗んだのはガリー。

 【武具強奪(アイテムスティール)】によって再びその杖を手に入れていた。

 黒騎士ムジカにとっては想定外の暴発。

 暴発した魔力で杖を握っていた右半身が火傷を負い、超回復によって修復が始まっていた。

 「見落とし? 私が?」

 言い訳のようにごちる。確かに警戒すべき冒険者は多かったが、運悪く見過ごしていたとでもいうのだろうか。

 どこにいたのか思い出そうにも意識外からの【武具強奪(アイテムスティール)】だったため、技能使用前にガリーがどこにいたか思い出せずにいる。

 アンナポッカやアールビーの言動による混乱もあったのかもしれない。

 「なら、これならどうです?」

 深く深く呼吸して口笛を吹く。

 ガリーもアールビーも個に特化していた。

 強盗師も武器投師も基本的には1対1、組んだとしても2対2を想定している。そしてガリーとアールビーは対人のほうが圧倒的に強い。 

 黒騎士ムジカの口笛によって、魔物たちが次々と召喚される。

 ゴブリン、コボルド、オークに始まり、ワームやワイバーンなど多種多様だがウィンターズ島の生態には全く関係がない魔物の群れだった。

「それは悪手だよ★」

 嬉々としてアンナポッカが言う。手には隕石の魔樹杖〔星好きテテポーラ〕。

 一度黒騎士ムジカが確認した地点から移動しているのはそこが幸運位置(パワースポット)だからだろう。

「見せ場を作ってくれてありがとう」

 わざわざ黒騎士ムジカにお礼を言って杖の先端を魔物の群れに向ける。

 避けた大地が強烈に捻じれ、無数の螺子のように形成されていく。

「キラリと行くよ★」

 【大地の裂(グラウンドドリル)】が発動。

 殲滅士の上級職全滅師が持つ圧倒的な物量を圧倒的な火力で全滅へと導く全滅技能。

「味方も巻き込まれますよ」

「残念。みんな、運がいいんだ★」

 【大地の裂(グラウンドドリル)】が群れの魔物たちを貫き、全滅させていく。

 黒騎士ムジカの近くにいったアールビーとガリーは無傷。

 黒騎士ムジカは腹を貫かれていた。

 まるで運がない。そう感じた瞬間、まるで天啓のように自身の知識の中から該当する特典を思い出す。

「もしかすると、もしかするかもしれません」

 ガリーの二度目の【武具強奪(アイテムスティール)】は幸運位置(パワースポット)に頼らないものであった。

 ただガリーの才覚〈悪運〉は運を高めるものではない。

「随分と、珍しい特典を選んだのですね? 特典〔闇を恐れよ(カール)運は見捨てぬ(スナウト)〕だなんて」

 吐血しながら黒騎士ムジカはガリーを凝視。図星なのかガリーは視線をそらした。

 特典〔闇を恐れよ(カール)運は見捨てぬ(スナウト)〕は端的に言えば豪運を得る特典だった。

「そして二択でもなく、ふたりでもなく――三人だったのですね」

 アールビーとアンナポッカの言動もごまかしの陽動。

 おそらくアンナポッカが指定した幸運位置(パワースポット)も自分しか見えないことを言いことに嘘を織り交ぜていたのだろう。つまりそれも陽動。

 実際のところ、三人は圧倒的な運の良さで黒騎士ムジカの運の良さを上回ることもあれば、黒騎士ムジカの運を操作して、普通の運の良さでも圧倒的に運がいいと見せかけていた。

 それでもどちらとも運が悪い、運がいいの二択として受け取られるからだ。

 これまでの黒騎士ムジカとの戦いでガリーが運が良かったのは〈悪運〉の影響ではなく特典〔闇を恐れよ(カール)運は見捨てぬ(スナウト)〕によって得た豪運によるもの。

 断定すれば腑に落ちる。

「それと――」

 再生しながら今度はアールビーへ向き合う。

「あなたは特典〔ねえちゃんと(スペルミス)ふろはいった(バイアス)〕ですね」

 追撃で変彩金緑石の藪蛇樹杖〔唯一のヘーカペー〕を投げていたアールビーは指摘で手元が狂う。

 軌道が逸れ、地面へ突き刺さった変彩金緑石の藪蛇樹杖を黒騎士ムジカはゆっくりと拾った。

幸運位置(パワースポット)へと私を誘導し、その幸運位置(パワースポット)を特典によって――例えばそこは不運位置(アンチスポット)だと認識誤認させた。そうですね?」

 だから黒騎士ムジカの運が低下し、不運に見舞われたのだろう。

 特典〔ねえちゃんと(スペルミス)ふろはいった(バイアス)〕は誤認あるいは錯覚させ、技能や魔法の効果を誤解させて誤解通りの効果を発揮することが可能だった。「ねえ、ちゃんと風呂入った?」と「姉ちゃんと風呂入った?」というどちらを選択しても誤認が生まれるような選択を強要させるような言葉遊びから転じて生まれた効果、とでもいうべきか。

 特典の効果を知っていなければ看破は難しい。

 しかしながら黒騎士ムジカは魔物であるがゆえか、かなりの数の特典を知識として取得していた。さらに元になったムジカが洞察力に優れた冒険者だったのだろう、洞察力がその知識を大いに役立てた。

 アールビー、アンナポッカの言動の裏の意味、冒険者であればするであろう細工、偽装。

 そういうものすら看破して黒騎士ムジカはアールビー、アンナポッカ、ガリーの特典による連携を見抜いた。

「それでも今のままでは私が負けるでしょうね」

 そのぐらい、特典〔闇を恐れよ(カール)運は見捨てぬ(スナウト)〕は今のままでは強い。

 黒騎士ムジカは空を眺め、変彩金緑石の藪蛇樹杖〔唯一のヘーカペー〕から魔法を発動する。

「【空虚の殻(エンプティ・ハスク)】」

 黒騎士ムジカの体が指先からゆっくりと黒く硬化し始めていく。

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