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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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強奪

「お前ら、おれを置いてくな。大雪の中、こいつらに必死についていったのはおれ。たどり着けたのもおれのお陰なのに置いていくな」

「キャハハハ。そぉれ、そぉれは聖櫃戦九刀(Accen9t)の最弱だぁから!」

「ナァ→ゼ↓・ナァ→ゼ↓、悪↑い癖↑です↓よ、そ→れ↓。わ→た↓し↑に何度↓言わ↑せるんです→?」

「発音おかしいメグーちんに言われたくなぁい、なぁい」

「そのくだり、好きすぎるだろ、お前ら」

 相変わらずの会話にドリストロイ・アージャスはツッコミを入れた。聞きなれているせいか落ち込む様子もない。

「キミたちも来たんだ」

「ここがついに死に場所だからな……」

「またまたー★ キミはそう言いながら生き残るよねー★」

「そうそう。けれど聞いて驚き桃の木山椒の木! それがガリガリガリーくんの良いところ!」

 死にたがりで有名なガリーと★をつけずにはいられないアンナポッカに、適当な言葉遣いのアールビー。なんだかんだで有名な三人もこの場に辿り着けていた。ガリーの〈悪運〉もムジカの〈幸運〉のように仲間に伝播し、〈悪運〉尽きるまで死なないしぶとさを発揮するのかもしれない。

「相手は運が良いみたいだけど★ こっちの運もなかなかのものだよ★」

「ええ。なかなか死ねませんし」

 呆れ口調でガリーは宣言。まだ彼の〈悪運〉が尽きてない。

「まあキミたちなら確かに大丈夫そうだけど。他は下がっておいたほうがいいと思うわ」

 残るふたりへとそう問いかける。

 アリーの弟子と途中からレシュリーたちの弟子になった冒険者という認識がある。

 庇護ではないけれど聖櫃戦九刀(Accen9t)とガリーたち〈悪運〉組はともかく、実力が読めないゆえの言葉だった。

「あら、SG(心外)ですわ」

 アテシア・リリューがかすかに肩を竦める。隣には相棒であるムィ――ムルシエラゴ(王蝙妖蝠)が羽を休めて鎮座している。

 最初から大きな体躯だったが、その体躯ももう大きくなり、アテシアの身長をゆうに超えていた。

「いやはや、こちらも問題ありませんよ。そもそも蝙蝠系魔物は幸運と富の象徴として、その標本が飾られていることもあるのです」

 ムィに群がる蝙蝠たちを宥めながら、グレイ・ザーズ・ジュリアはネイレスに進言する。

「なるほど。キミたちが辿り着けたのはムジカの影響だけじゃなかったんだ」

 少なくとも蝙蝠系魔物は幸運と富の象徴というのはネイレスも噂程度には聞いたことがある。

 眉唾と思っていたが、ムルシエラゴを従えるアテシア、蝙蝠系魔物を多く従えるグレイがそういう恩恵を授かっていたと見れば辿り着けたのには納得がいく。

 もちろん、聖櫃戦九刀(Accen9t)とアテシア、グレイの乗っていた馬車は必死にムジカやガリーたちの馬車についてきていたため、ふたつの才覚の影響下にいたというのが、一番大きい。

 そう考えると必死に馬車の手綱を握っていたドリストロイが一番の功労者なのかもしれない。

「分かったわ。ここに来たのならみんな協力して」

 結局、後方に残ったのはムジカとセリージュとメレイナ。けれどそれでいい。セリージュの特典はムジカの傍にいてこそでメレイナの【封獣球】は周囲の魔物の攻撃を一時的でも完全に無力化できる。

「フォローはわたしたちがするよ★ ガリーの〈悪運〉は今や〈幸運〉みたいなことだし★」

 ★をつけずにはいらなれないアンナポッカが笑いながらガリーの肩を叩く。

「それは、違う。そう見えるだけで……〈悪運〉を尽かしたいからあの特典を選んだのだ」

 ガリーの傍にいても賭けに負けるアンナポッカが運があるのに運が良くないことに駄々をこねたから、という理由も少なからずあった。

 賭けに負けた日は荒れることも多く、静かに死にたいガリーにとっては、荒れた日のアンナポッカの明るさは正直参るものがあるのだ。

 そんな理由は言わずに〈悪運〉が早く消費されるからという建前を交ぜて取得していたのだ。

「本当はこんなことしたくないが――〈悪運〉尽きて死ぬためだ。仕方がない」

 ぼやきながらガリーは黒騎士ムジカへと向かっていく。

 ガリーはランク7になるまでは剣盗士だった。あらゆる剣を盗む剣盗技能を使う複合職だ。はっきり言って使い勝手は良くない。

 けれど上級職になって、それは激変する。

「ガリー、あと二歩前に行ってそこから声を出して使うのが吉★」

 ★をつけてアンナポッカが何を指示。知らぬ人が聞いたら何を言っているのか分からないかもしれない。

 言われたとおりにガリーは二歩前進。

「【武具強奪(アイテムスティール)】……」

 黒騎士ムジカを追い抜く手前で、ガリーが技能を小さくつぶやく。

「もう声が小さいよ★」

「声量の指定はなかった……」

 アンナポッカの指摘にガリーがぼやく。それでも右手には先ほどまで黒騎士ムジカが使っていた変彩金緑石の藪蛇樹杖〔唯一のヘーカペー〕を握っている。

「なっ……いつの間に!」

 黒騎士ムジカは自分の装備が強奪されたことに驚きを隠せずにいた。

 剣盗士から上級職強盗師になったガリーは強奪技能が使用可能になっていた。

 指定したものを強奪できる強奪技能の成功率は相手との運の差によってほぼ決まる。

 黒騎士ムジカの〈幸運〉には本来なら到底太刀打ちできない。

 ガリーの〈悪運〉の運の良さは生存能力に全振り。それ以外には効力を発揮しない。

 となれば武器を奪える可能性には〈悪運〉の運の良さは加味されない。

 そもそも、ネイレスは誤解しているが、黒騎士ムジカのもとに辿り着く際に〈悪運〉は働かない。

 隆起する地面の影響を受けなかったのも〈悪運〉の効果ではない。

 〈悪運〉が働くとしたら影響を受けてもなお生き残っているはずなのだ。

 いうなれば〈幸運〉は危機を回避するが〈悪運〉は危機を回避できなくても生き残るのだ。

 だからこそ、今の現状は異常だった。

「運良く取れたみたいだ……これで死に場所に近づいた」

「いやいやあたしの誘導のお陰でしょ★ まだまだ死なせないよ★」

 じゃれあうようにガリーとアンナポッカが笑う。

 ガリーがムジカの武器を奪えることは黒騎士ムジカにとっても、ネイレスにとっても誰にとっても想定外。

 一気に情勢が有利に傾く。誰もがそう思った。

「――【猛毒吐息(ヴェノムブレス)】」

 ムジカの掌から噴出された紫の霧が足元から徐々に広がっていく。

「武器なんて補助機能にすぎません。飾りみたいなものですよ」

 あくまで黒騎士ムジカは魔物だ。人間らしいというか――ムジカ本人と比べても遜色のないその肉体は人間にしか見えない。

 そして魔法を杖から発動すればそれはもう冒険者だ。魔物という概念がどこかで頭から抜け落ちていたのかもしれない。

 武器を使う魔物は存在するが、確かに杖を利用して魔法を使った魔物は見たことがない。

 ぬか喜ぶガリーとアンナポッカの周囲が毒霧で包まれていく。

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