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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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「だが断るっ!」

 点数順位最下位ウルクア・ニキサスが僕たちの勧誘を断った。

 どやぁ、と格好をつけた顔をしていて、なんだか殴りたくなる。

 断られたのはウルクアだけじゃない。これでもう三人目だった。

 戦闘の技場(バトルコロシアム)に参加できるというのに誰もが僕たちが三人組と言うだけで断っている。最下位ですら。

「何かあるね。少しおかしいよ」

 一旦外に出た僕は呟いた。

「少し? ……かなり、よ。低順位の冒険者なら上を目指すために必死に媚びてでも上位の冒険者のチームに入れてもらうのがフツーでしょ」

「……それよりも大事な何かがあるってことでござるな」

「たぶん、そうだよね。でもそれならどうする?」

「結局、ひとりが見つからないと次の試練が受けれないのよねー」

「もう一度入ってみようか」

「無駄ね。無駄、無駄。私たちはその“何か”に組み込まれそうになってる」

「試練を受けるためにわざと組み込まれてみる?」

「……それだけのために言ってるわけじゃないでしょ。どうせあんた、その何かで犠牲になってる人を助けようとか企んでるんでしょ?」

「……たぶん、企んでない」

 図星をそんな言葉で濁してみる。

「むしろ下手したら僕たちが犠牲になりそうだよね、今回は」

「ハイハイ、嘘、嘘。あんたの思考なんて丸分かりよ。でもまあ巻き込まれるのは慣れっこよ」

「言っても聞かないでござるからな。誰かさんは」

 二人の前では隠しようもなかった。でも僕は誰かを救うと決めているが、その誰かはいまだ現れていないので、まだ二人どころか誰も巻き込んでないはずだ。そう言い訳してみた。

「何にせよ、私たちが誰かのたくらみに組み込まれそうというなら待ってみるのも手ね。あんな辛気臭い酒場に居ても退屈なだけだわ。おなかも減ったし、またあの料亭にでも行きましょう。他のメニューも食べたいし」

「それは賛成でござる。慌てても何も起こらんでござる」

「そういうものかなー」

「そういうもんよ」

 実際、そういうもんだった。

「よほほほほほっ! お前がレシュリーで相違ないでおじゃるな?」

 料亭で食事をしていると汗だくの肥満体が尋ねてきた。

「たぶん、違うと思うけど」

 何かに巻き込もうとしてるのはなんとなく分かったけど、この人とはなんでか関わりたくなかった僕はそう答えた。

「嘘はいいでおじゃる。本当は聞かずとも知っているのでおじゃる」

「じゃあなんで聞いたのよ、ブタ野郎!」

 アリーが不機嫌そうにイノブタ叉焼を食い千切る。

「形式というものがあるでおじゃろう!」

 汗を使用人に拭いてもらいながらその肥満体は怒鳴った。

「その前に名乗るのが常識ではござらぬか?」

「よほほほほっ! これはご婦人に一本とられたでおじゃるな!」

 性別に触れられて少し気に障った様子を見せるコジロウだったがそれは僕やアリーぐらいしか気づけない変化だった。

「まろはオジャマーロ! この島の一応統治者でおじゃる。お前たちが受けようとしている戦闘の技場(バトルコロシアム)の責任者でもあるでおじゃる!」

「で何の用よ!」

 完全に不機嫌そうなアリーがイノブタ叉焼を再度食い千切った。

「お前たち、まろが用意した酒場で仲間の勧誘に失敗したそうでおじゃるな」

「よくご存知で。まさかあんたが失敗を操作したとか?」

「よ、よほほほほほっ! それはないでおじゃるよっ!」

 妙に焦った言い方だった。たぶん、何かしたんだなあと直感的に悟れるぐらい怪しすぎた。

「とにかくでおじゃる。運営すらも任されておるまろとしてはお前たちが欠場となっては悲しいでおじゃる」

「だから何よ?」

「まろが紹介するでおじゃる!」

 そんな都合の良いことを言ってくるオジャマーロが何も企んでいないというのはおそらく嘘だ。

「それで試練に参加できないってことにはならないでしょうね?」

「ならないでおじゃる。そんなことはさせないでおじゃる」

 必死に言い訳するオジャマーロ。まあその言葉に真剣味があったからこそアリーも押し黙った。それに試練に参加できるのならあえて巻き込まれてみるのも手だと先ほど話していたばかりだ。

「とにかくでおじゃる。お前たちの仲間になるやつを紹介するでおじゃる」

 オジャマーロの後ろから登場してきたのは青色のザンバラ髪と長衫(チョンサイ)が特徴的な女性だった。

「じろっと見ない!」

 僕の視線に気づいたアリーが叱った。慌てて視線を逸らす。さっきまで僕の目線は長衫(チョンサイ)のスリットから見える太もも、言うなればその脚線美に注がれていた。

「彼女はシュキア・ナイトアトと言うでおじゃる」

「……よろしくっ!」

 軽快な声で言うシュキアだがどことなく暗さが入り混じっている。

「よろしく」

 代表としてシュキアと僕が握手を交わした。


 ***


「どうなることかと思ったでおじゃる」

 使用人と歩くオジャマーロは安堵の声を漏らす。

「折角、シュキアを勧誘する場としてあの酒場を用意したというのに、とっとと帰るとはどういう了見でおじゃるか!」

「もしかしたら誰も彼もが断るのが怪しいと思ったのではありませんか?」

「よほほほほっ! 面白いことを言うでおじゃ。そんなことはありえんでおじゃる。仲間が足りない、そんな焦燥のなかでそんなことを考える余裕なんてないでおじゃる。どの冒険者も全てをいち早く手に入れようと躍起になっておるでおじゃるからの」

「なるほど。私は冒険者ではないのでよく分かりませんが、やはり冒険者とはそういうものなのですか?」

「そういうものでおじゃる。だからお前の考えはあまりにも浅はかなのでおじゃる」

 使用人の考えを一蹴し、スキップで屋敷へと帰るオジャマーロ。

「なんにしろ、これでまろにまた大金が手に入るでおじゃる!」

 全てよりも金が大事なオジャマーロは大金に思いを馳せた。

「よほほほほっ! 楽しみで楽しみで夜も眠れないでおじゃ!」

 その夜、寝台に寝そべってニ秒も経たずにオジャマーロは眠りに落ちた。

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