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tenth  作者: 大友 鎬
第13章 次々と失っていく
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極光

 そもそもアスガルド大陸に四季という概念はない。

 けれど認識はある。

 ウィンターズ島は年中雪が降っているから冬ともいえるし、南の島とも呼ばれる一発逆転の島は年中暑く夏ともいえる。

 また、空中庭園のみが何か月ごとにそれこそ春夏秋冬と巡り移り変わる。

 自然という庭師によって景色を変える――という意味でも庭園という名を持つその空中庭園のみが一年で四季を味わえる富裕大陸だった。

 その四季の様が猛威となってアスガルド大陸を襲っていた。

 秋がない理由を冒険者たちはしらない。それでも春夏冬。

 それらの浸食。

 暖かく、暑く、寒く――まるで魔法の属性の定義である冷、熱、湿、乾からひとつの定義除いたような安定を欠いた猛威はむしろ恐怖を助長させた。

 どこかで秋の浸食が始まっているのではないか。

 情報収集に長けているコーエンハイムがそう思っても仕方がない。

 誰が試練が時間経過、それも百年経過したことで緩和されたなどと分かろうものか。

 コーエンハイムは一部の集配者に秋の浸食も探索させることを命じた。

 時間がなかったことも不運だったかもしれない。

 リアンがどうやって四季の浸食を止めるのか、きちんと説明できていれば、存在しないものを捜索する時間と人員を割く必要はなかった。

 がリアンには時間がなかった。

 とにかくこの浸食を止めなければ――、世界を救わなければと祈り――

 空高く、アズガルド大陸の中心で祈っていた。

 リアン自体は光り輝く半透明の球体に包まれ、そこから三つの球体が黒騎士に向かって放たれ――帳のように結界が展開された。


 ***


 ――来て。――覚えて。


 その呼び声がリアンに聞こえたのは終極魔窟(エンドレスコンテンツ)からも戻って一日も経たない頃だった。

 空耳、幻聴かと思った。

 けれど仕事の合間や休憩中にご飯を食べ終えて、どこか間のようなものが生まれた瞬間、


 ――来て。――覚えて。


 と聞こえるのだ。その声は方向を示しているような気がなぜかして、その方向の先を見るとガニスタ岬があった。

 そこは終極迷宮(エンドコンテンツ)の入口だった。

 

 誰かに呼ばれるようにリアンは支度を整えてアルや聖櫃戦九刀(Accen9t)を引き連れて、終極迷宮(エンドコンテンツ)と向かった。

 その間に起こるであろう一切をレシュリーたちへと任せて。

 もちろん、レシュリーたちも反対はしなかった。

 ただ急すぎる終極迷宮(エンドコンテンツ)の出立の疑問をレシュリーに問われた。

「声が聞こえたんです」

「それ大丈夫なの? 終極魔窟(エンドレスコンテンツ)の声ってことはないと思うけど」

「優しい声でした。だから私は行かないといけないと思って」

「悪意はなかった、なら心配ないのかな。でもくれぐれも気をつけて。まあアルが死んでも守ると思うけど」

「アルは死なせません」

 そういえばリアンは最近【蘇生(リヴァイヴ)】を覚えたと言っていた。ランク7の癒術だが、覚えるにはかなりの経験が必要だったはずだ。

 きっとレシュリーが【蘇生球】を覚えた理由と一緒なのだろう。

「そうだね。ふたりがいれば安心だ。聖櫃戦九刀(Accen9t)も実力はあると思うけど、終極迷宮(エンドコンテンツ)は地上とは違うからくれぐれも気をつけて」

「はい。でもきっとすぐに戻ります。声は覚えて、って言ってたんです。きっとそれって特典のことですよね?」

「何かしらの知識を習得してほしいって意味かもしれないけど、たぶんそうだろうね。じゃあ今回は声を探るというより特典を覚えに?」

「そうなんです。そうしたらすぐに戻ってくる予定です」

「まあ僕たちみたいにイレギュラーはつきものだから、予定している期間が過ぎて気にしないで。覚えてもすぐには出れないからノアの羽根を探して。それがあれば戻ってくる。最近は比較的簡単に手に入るようになってるから大丈夫だと思う」

「分かりました。それでは行ってきますね。後はよろしくお願いします」

 一礼してリアンは終極迷宮(エンドコンテンツ)に導かれるままに。


 ***


(――これがきっと私の役目)


 アルがその特典を聞いたとき、リアンの選択に難色を示した。

 そこまで背負う必要はないと。

 それでもリアンは選択した。


 リアンは何度も死にかけた。いや一度確かに死んでいる。人形の狂乱(ドールズカーニバル)で。

 その際、レシュリーの【蘇生球】で生き返ったのだ。

 そのことをリアンは強く覚えている。今でも。

 誰かを救うための力。

 それが欲しかったから【蘇生(リヴァイヴ)】も覚えた。

 誰かを救える可能性があると思ったから。

 だからその特典が王の血筋の者しか覚えられないと知って覚えることに決めた。

 ディエゴもキングもきっと選択肢として存在したが選ばなかったのだろう。

 それが王族であるという証明になるとしても、王ではないから〈王血〉の才覚を持っていないから。

 どんな理由で選ばなかったかはわからない。

 けれどその特典は常時役に立つわけではない。

 「来るべき時以外役に立たず、その時が来ず、あるいは過ぎ去れば何の役にも立たない」

 そんな警告があった。

 それでもリアンは選択した。

 その来るべき時に誰かの救いになるために。

 

 (――もっとも、それがこんなにも早く来るなんて思いもよらなかったですけど)


 光り輝く半透明の球体でリアンは微笑する。

 それでも今この時のみは覚えておいてよかったと、心からそう感じた。

 これからの災厄が終わった途端、特典が何も意味をなさなくなるのだとしても。

 そんなデメリットは今、眼下に広がる災厄を食い止めるメリットに比べれば、比べものにならないとそう感じていた。


「聖女さまだ」


 空高く浮かび、不思議な球体に包まれ祈るリアンを見て、誰かが祈る。

 リアンのことは王族だと知れ渡っている。

 だからそんな誰かの言葉につられて、皆がその言葉通りだと祈る。


 広がりつつあった四季の浸食はリアンが展開した結界に阻まれ、止まる。

 黒騎士自体もその結界内から出られなくなった。


 この特典はこの時、この限り、黒騎士の復活による四季の浸食を防ぐためだけに存在した。


 王族限定初回突入特典――名を〔極光の(ゾリャーズヴェール・)一夜城(グラストンベリ)〕といった。


 ***


 その好機を逃さず、三部隊が突入する。


「行こう。リアンが作ってくれた好機を逃さないっ!」

 アルが号令をかける。目の前には黒騎士アーネック。かつての親友の姿をした黒騎士と対峙。

 アルに続く数名のなかにコジロウの姿も見えた。


「行くわよ。本当にムジカにそっくりね」

 ネイレスに率いられ、セリージュ他数名が黒騎士ムジカに対峙。自分そっくりの黒騎士に、黒騎士ではないほうのムジカがおどおどしている。


「あーしは随分とアロンドさんと因縁があるし」

 巨大盾〔誉れの盾雄アロンド〕の正統後継者ミネーレ・アデルーリア他数名が黒騎士アロンドに対峙。

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