獄災
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石像から解き放たれた三人の黒騎士はそれぞれ違う地点へと転送された。
違和感は降り立った地から即時現れた。
黒騎士ムジカが降り立ったのは雪が降り積もるウィンターズ雪原。時折、吹雪にも覆われるその大地の枯れ木にまずは花が咲いた。
もう年中雪が積もり、もう咲くこととはないと思われていた枯れ木。その木に花が咲く。
しかも空中庭園にしか存在しない春の象徴ともいえる桜の木だった。もともとの枯れ木は桜ではない。
なのにその何かしらの花を咲かせていた枯れ木は桜へと変貌し、周囲に彩を与えていく。
ムジカが一歩一歩歩くたびに大地は雪解け、凍って雪の中で霜付きになっていた雪原の草々が姿を見せる。
雪景色の中に春の彩りが芽生えていく。
黒騎士アロンドの出現はコウデル広野の中でも花と香りの街フレージュの近く。
その近隣にはフレージュから飛んだ種が花を芽吹かせ花園を作っていた。
ただしそれも先ほどまで。アロンドが下りた大地が一瞬に凍り付き、花々は枯れ、木々は朽ちた。
比較的年中快適に過ごせるはずの気温が何十度も低下し、一気に冷え込む。
風が吹けばそこに心地よさはなく寒さが襲い掛かった。
黒騎士アーネックが降り立ったのはユグドラド大森林の中。
降り立った瞬間に、木陰の涼しさを消滅させるほどに気温が上昇。
過酷な気温へと変化を及ぼし、周囲の木々を乾燥させていく。
さらに高温によって熱せられた地表の空気が上昇。アーネックの頭上はるか高くに入道雲が出現し、落雷。
雷が乾燥した木々へと落下して引火。その炎が大森林へ燃え移りまさに山火事と言わんばかりの大災害を引き起こしていく。
それだけにとどまらない。
黒騎士の行動によって、本来なら領域によって移動制限を受けている魔物たちの行動が活発化。領域を広げようと大侵攻を開始した。
***
侵攻開始から30分後
黒騎士ムジカのもとに冒険者たち15名が現着。
フリーリエ・ントゥルーナ
スマラクト・ントゥルーナ
メラリンコ・ントゥルーナ
ラドシィカ・ントゥルーナ
乗車していた馬車が到着後、なぜか爆発して死亡。
エノグリン・ハルフューム
ヌアンホデ・ニッチェルム
ウラゴンゴ・ラバージイド
レトセトラ・タァンチ
シュラウザ・ジントバック
カデリゴフ・リノケロス
ンドゥルジ・ダァンダォン
ツヴェルク・ツェヴェリカ
コウシロウ・アンテイ
ユンチュエ・ウェン
ミネラーレ・ミネラル
馬車の爆発に巻き込まれ運悪く死亡。
到着から5分も立たずに15名の冒険者が運悪く全滅。
黒騎士ムジカが傷を負ったという報告はなし。
侵攻開始から10分後黒騎士アロンドのもとに冒険者たち20名が現着。
ルリージオ・ヤッターデナ
ヒリュザー・ランパード
ホドゲイブ・ロード
マクフェド・クロム
ロクァース・チグラフ
ハイリッヒ・ターメリック
トゥーロス・ギルテナ
ナッサーブ・セムリャート
セプティエ・サソリンザ
ソルミトラ・インデチェ
キャパシテ・テクノティーカ
クゥデルタ・イルメナト
ササノスケ・ノジロオウ
タルリール・ニャオ
ヤズミーン・ボグドボゲ
ヨナーディ・ケブライド
以上20名が到着直後から1時間絶え間なく攻撃するも傷一つ負わせることができず、
その後の黒騎士アロンドの反撃により各個撃破され全滅。
侵攻開始から10分後、黒騎士アーネックのもとに冒険者たち15名が到着。
アルトール・カオウェン
イリオリオ・レオンハルツ
オデメノシ・アリカリカ
ケンジョー・シンドウジ
チーベーン・ヨガンイ
ティミッド・テルルゥ
ニヴェルナ・イルミノートー
ネロメロス・ナダ
ノーメンバ・ツェンツ
ヘイトレド・クロニテクノ
以上10名が黒騎士アーネックの幹すらも切断する太刀筋で蹂躙され抗戦開始20分で全滅。
ムールムル・マギマギカ
モルタザカ・ノットバーグ
リヒトヒト・シュデルメルク
ワガブンド・ノルタミンア
ヲナヲナヲ・ナチェストロ
以上5名が逃亡するも切断された幹が障害物となり、大森林の火災から逃れられずに死亡。
***
集配者からの報告にコーエンハイムは頭を抱える。
さらに報告は続く。
「さらに地形の変化――侵食も止まっていません。通称・黒騎士の歩行した領域はまるで地獄師の地獄賛歌技能のように、変化した地形は周囲に影響を与えています」
突如現れた魔物はそれぞれ黒衣の装いのため――黒騎士という名称が名付けられていた。
ただ嘘吐きテアラーゼの逸話と随分話が違う。
「これはどうしたものかなぁ……」
集められた情報は即時に各地にいる集配者に配布され、冒険者たちへと情報が伝達されていく。
緊急的な依頼に応じて集まってくれた冒険者50名が一瞬にして全滅した事実も伝えなければならない。
さらにその時招集できたのはランク6未満。対応はランク6以上に任せたほうがいいのか。
あくまで情報収集して提供するだけのコーエンハイムが本来ならそれを決める立場ではないが、全員が全員色々な対応に追われていた。
「アルとリアンから報告である」
そんななかイロスエーサがコーエンハイムの元へと現れ、告げる。
「侵食はリアンがなんとかする、ということである。だから集配社の力で冒険者を集めてほしいと」
「アルはどうしたのかなあ?」
「アル自身ももう向かったであるよ」
イロスエーサは机に広がる世界地図の一点――ユグドラド大森林を指す。
直後だった。
ウィンターズ雪原、コウデル広野、ユグドラド大森林。その三か所に上空から帳のように結界が張られていく。




