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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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変化


 途端に翼の音。B0DH1・5ATTAが空を飛んでいた。

 B0DH1・5ATTAの背中に生えるのは虹色の翼。その虹が発光し、飛翔の恩恵を与える。

 上空から発射されるのはもちろんビットマップボールレーザー。連射可能で、引金(トリガー)を引きっぱなしにするだけで等間隔で何発も発射できるため、僕の【超速球】の連投よりも間隔が早い。

 それでも焦りがなかった。

 球が全て見えていた。最初に到達するものから避ければいい、思考を整理して、最初の球を避ける。

 けれど二球目を避けたところで足がもつれて転ぶ。

 転がりながら次の球を確認して、完全に立ちあがる前に転がって回避。

「体が……まだついてきてくれない」

 原因を理解して独り言ちる。

 球が来ると思っても身体は思うように動いてない。いや動いたせいでまだ負担がある。

 ランクの低かった僕が【超速球】【剛速球】を投げるとき負荷がかかっていたように。

 体はランク8の感覚に順応していないようだった。

 地面を強く蹴って前進。少しだけ地力で加速するとその後ろをビットマップボールレーザーの光線が貫いた。

 咄嗟の判断もこの感覚のお陰かもしれない。

 見上げてB0DH1・5ATTAを視認。【転移球】を投球。

『B0DH1・5ATTA>それ{知}ってるよ。{転移先}は{見}えてる』

 恰好をつけてB0DH1・5ATTAが転移先にビットマップボールレーザーを向ける。

 【転移球】の転移先はB0DH1・5ATTAの眼前。

 僕が転移した瞬間だった。引金(トリガー)を引くのが見えた。

 それは僕にとっても、B0DH1・5ATTAが見えやすい位置。

 ビットマップボールレーザーから発射された光線は見えていた。まるで回るように身をかなり捩って、光線を回避。

 避けきれなかった光線が身を焦がす。それでもB0DH1・5ATTAへ球を振りかぶっていた。

 超至近距離での【超速球】――とB0DH1・5ATTAは思ったのかもしれない。思わず身構えて防御姿勢。

 けれどそれは僕が転移する前から持っていた【転移球】だった。極短距離での移動。

 前から後ろへ。まるですり抜けたようにB0DH1・5ATTAの背後を取る。

「なんか、結構空中戦多いなあ」

 思わずぼやく。そのつぶやきに気づいてB0DH1・5ATTAが振り向く。

 僕のほうが高い位置だが翼がない分、落下が始まっている。悪く、僕の足がB0DH1・5ATTAの顔へと着地。少し悪い気がしつつも、真剣勝負。遠慮なく跳躍。

『B0DH1・5ATTA>ぶへっ』

 恰好つかない悲鳴を上げて態勢を崩して落下するB0DH1・5ATTA。ビットマップボールレーザーも落としてしまっていた。

 間髪入れず、渾身の【超速球】を連投。それでも態勢を整えて翼を羽ばたかせて制止。

 迫る【超速球】を避けた。

『B0DH1・5ATTA>{甘}いっ』

 同時にB0DH1・5ATTAから何かが投げられた。

「そっちこそ!」

 お互い様だと言わんばかり言い放つ。

『B0DH1・5ATTA>ここで!?』

 B0DH1・5ATTAの胴体に衝撃。曲がった球が翼をもぎ取り、空中で制御できずに落下を始める。

 僕が投げたのは【超速球】じゃなかった。【超速球】だとすればそれは本来より遅い。

 それでもそう錯覚したのは落下速度が加算され、本来よりも速度が出ていたからだろう。

 僕が連投した速度の乗った球は、僕の計算通り四方向へと進む。

 【変化球・利手曲】【変化球・急落下】【変化球・逆手曲】【変化球・急上昇】。

 どこに避けるか判断できず、四球も必要としていた。

 だから賭けだった。【変化球】があることはB0DH1・5ATTAも知識としては持っているはずだ。ここでの連投を怪しまれれば見抜かれた。

 それでも【変化球】を決め手にすると決めてから僕は執拗なまでに【速球】で直球を投げ続けた。

 意識下でその脅威が植え付けられることを願って。

 それが功を奏した。

 けれど、途端に右目の視界が消失。

 B0DH1・5ATTAが投げたピクセルシックルが突き刺さっていた。自分の策を通すことに意識を割きすぎて回避が遅れた。

 もう少し遅ければ頭に突き刺さっていたかもしれない。

 それがおそらくB0DH1・5ATTAの奇襲の一手だったのだろう。

 【転移球】で着地。B0DH1・5ATTAは落下して地面に衝突。

「隠し玉はまだある?」

 鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を首に突きつける。

『B0DH1・5ATTA>{参}った。{飛}んだのは{失敗}だった。{空中制御}に{意識}を{割}きすぎたなあ』

 B0DH1・5ATTAは格好つけて笑った。

『B0DH1・5ATTA>トドメを{刺}していいよ』

「刺さないよ」

『B0DH1・5ATTA>{次}あったら{完全}に{敵}だよ。それでも?』

「それでも」

『B0DH1・5ATTA>{甘}いね。ボクっちゃは{殺}すつもりだったよ』

「なら味方してくれたBuddhak's etraが僕の恋人にトドメを刺さなかったからそのお礼ってことでどう?」

『B0DH1・5ATTA>やれやれ。それだとボクっちゃがBuddhak's etraに{借}りを{作}る{感}じになるんだけど……まあいいか……』

 B0DH1・5ATTAが退出(ログアウト)を選択。

『B0DH1・5ATTA>{次}は{勝}つよ』

 瀕死のまま、その姿が消えていく。

「ようやく終わったわね」

 B0DH1・5ATTAの退出(ログアウト)とともに突き刺さったままだったピクセルシックルが消滅。

 アリーの第一声に続いて飛んできたのはリアンの癒術。【癒々霧(ハイレンネーブル)】が僕の右目を治癒し視界を取り戻していく。

「ありがとう」

「早く治療しないと失明に繋がりますから」

 そういう意味ではリアンがいてくれて助かった。もしかしたらリアンはそういうのを予見して残ってくれたのかもしれない。

 アリーもきっと僕が万が一負けそうになったら絶対に助けに入るつもりだったのだろう。戦いの最中、視界の隅に見えたアリーはそわそわしていた。

 ジネーゼとコジロウもそうだったのか。

「おーめでとうございまーす。無事勝利されまーしたねー」

 ジョーカーが拍手する。

「あなたはなんで残ったんですか?」

 答えてくれなかった問いを今なら答えてくれるかもしれない。

「言ったでしょーう。それは後ー始末のたーめでーすよ。もうあーなたの戦闘中に仕込みは終わってまーす。さーさと休憩室(レストルーム)へ戻りまーしょう。詳細でお話しまーす」

 促されるように僕たちは休憩室(レストルーム)へと入っていく。


〘――ありがとう――〙


 転送転移世界ダイバーシティが消失する間際、そんな声が確かに聞こえた。

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