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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
747/874

度胆

 ***


 ディエゴがキングに突き刺さった短剣を引き抜くと声が響く。

『B0DH1・5ATTA>じゃあ{次}はボクっちゃとやろうよ。レシュリー・ライヴ』

 余韻もへったくれもなかった。恰好もつけて宣言する。度胆を抜く発言だった。

「うん」

 レシュリーも即答。

「マジか……」

 驚きの声を上げたのはディオレスだけだったが表情を見れば全員が驚いていた。

 驚いていたというか引いていた。

「いや……あの……えっと、一応それが条件で協力してもらっていたから」

 周囲のドン引きを見て、レシュリーは何か悪いことをしているような気分でいた。

 娯楽雑誌ならここで、飲めや歌えやの宴会騒ぎになったりするのかもしれない。

 それが全然なかった。

 ある意味でB0DH1・5ATTAもレシュリーも戦闘狂であった。

 とはいえ、中盤はディオレス、終盤はディエゴがキングと戦っていた感じがあるからふたりとも消化不良と言えば消化不良。

 負傷したディオレスや封印されたディエゴに比べてみればまだまだ余力が残っていた。

 途端に星黒銀の岩巻樹杖〔自棄の歌い手ロック・ザ・スター〕の優しい音色がこだました。

 ラッテやアリサージュ、ヴィクトーリア他、負傷した冒険者たちに癒しの雨が降っていく。

治癒雨(プリエールプリュイ)】の優しい旋律だった。

「おいおい、こんな戦いに似つかわしくない演奏の中戦うのかよ?」

 ディオレスが呆れながら問う。

「戦う」

『B0DH1・5ATTA>{戦}う」

 レシュリーははっきりと、B0DH1・5ATTAは恰好をつけて、ふたりとも断固譲らないと。

「そうなったら無理よ」

「でござるなあ」

 リアンの治療を受けていたこともあり、いち早く治療が完了したアリーが呆れながら近寄っていく。コジロウも同意した。

 レシュリーをよく知るリアンやアルも同じ表情で、見えないながらもジネーゼもアリーたちに同意して頷いていた。

 コジロウとジネーゼはクイーン、タミ、キングとの戦いにあまり絡まなかったが周囲のPCのほとんどを素早さと見えない姿を利用して倒していた。

 ジョーカーがクイーンを利用して、(ゲート)たる亀裂を封印する際、申請(ログイン)待機した一部PCが侵入してきたが、それらを倒したのもコジロウとジネーゼだった。

 そんな陰の功労者たちもレシュリーたちの宣言には呆れ返っていた。

「はぁ……」

 だから当然、キングの討伐に貢献したディオレスが頭を抱えしまう。シュリが宥めていたが、気休めになったのか。

「えっと――そこの」

 他の冒険者たちも呆れ返っているなか、ディオレスは諦めてレストアを指さす。

「な、なんですか?」

「てめぇの特典〔休憩室(レストルーム)〕なんだろ?」

「まーさか、切り離ーすのですか?」

「そうしたいところだが、それだと恨まれるだろうが。んなことになったら七面倒臭ぇわ」

「そっから外に繋がってるんだろ?」

「たぶん。帰れると思います……」

「なーるほど。ふたりは放っておいて帰ーるってことでーすね?」

「そういうこと。付き合ってられるか。もう助けてやったんだ。目的は果たしただろ。ここで用が残っているのはアホふたりだ」

「カッカッカ。違いねえ」

 ソレイルが笑う。確かに戦うことを求めているのはレシュリーとB0DH1・5ATTAだった。

「見学したいやつは残ればいい。俺は帰る。レストアだっけか? お前は強制的に付き合う羽目になったな」

 指摘されて苦笑い。特典〔休憩室(レストルーム)〕が支柱になっている以上、見届ける必要があった。

『HUMA・Ntte117>そそそそそういえば、ぼぼぼぼくたちはどうなるのですか?』

『Buddhak's etra>確かにそうですワー。もしかしてここに閉じこめられたのです?』

『B0DH1・5ATTA>いや{大丈夫}だよ。メニュー{開}いてみなよ、キングを{倒}したあと、メニューにログアウトが{出現}してる』

 恰好をつけてはいるが、B0DH1・5ATTAはそういう調査は抜かりがない。

『HUMA・Ntte117>あ、本当だ』

『Buddhak's etra>ではわったくしは帰りますとするのですワー。それでは皆々様、いろいろと楽しかったのですワー』

 メニューの退出(ログアウト)に触れるような動作をして、Buddhak's etraが姿を消す。不良番長の仲間たちも会釈して離脱していった。

『Shr@vaka>ワシも帰還、帰宅、帰郷するっぽいらしいな』

 Shr@vakaも旅立つと、

「あばよ」「じゃあな」

 ディオレスたちがそれぞれ言葉を残して特典〔休憩室(レストルーム)〕へ消えていった。


***


「ねぇ」

 他の人と同じように流されるように退出(ログアウト)しようか迷っていたHUMA・Ntte117はシャアナに袖を引かれて部屋の隅のほうへと連れていかれていた。

「これ、一応お礼ってことで。すごく恥ずかしいけど」

 早口で言ったシャアナはそっとHUMA・Ntte117の手の甲に口づけをした。

 シャアナにとってはそれが精一杯。HUMA・Ntte117の恋心は理解しているが、シャアナの復讐心は想い人を忘れられない恋心からだ。

 その心がある以上、それ以上のことはできないと思った。

 柔らかい感触に何事かと思ったHUMA・Ntte117はその正体に気づいて、

『HUMA・Ntte117>パペポポピビポペポー!』

 意味が分からない半濁音を叫びながら、顔を真っ赤にして退出ログアウトしていた。

 自分で行った行為がシャアナは照れくさくて少し頬を赤らめながら、誰にも気づかれないように特典〔休憩室(レストルーム)〕へと入っていく。

 ディエゴへの復讐など、この時ばかりはすっかりと忘れていた。


***


「ジョレス」

 アリーはジョレスへと声をかける。今回の戦いにおいてジョレスは〈7th〉で唯一生き残った冒険者だった。

「あんたはこれから大丈夫なの?」

「ええ。美しくないですが俺は生き残りました。キングが死んだことで美しくなかった次元(サーバ)も少しはましになるかもしれません」

 ジョレスはアリーと戦った時よりも表情が明るく見えた。

「そこで俺は美しかろうがそうでなかろうが、生きてみせますよ」

「あんたは強くなるわ。師匠の私が保証してあげる」

 にんまり笑ってジョレスは特典〔休憩室(レストルーム)〕へと消えていった。



***


 それぞれが帰路につき、残ったのはレシュリーとB0DH1・5ATTA。

 観客としてアルとリアン、ジネーゼ、それになんだかんだ言いつつもアリーとコジロウが残り、なぜかジョーカーも残っていた。レストアはこの場にはいないが特典〔休憩室(レストルーム)〕の扉をノックすれば開けてくれるらしい。

 ジョーカーは不思議がるレシュリーたちに「後始ー末があーるのでーすよ」と告げるが詳しくは説明しなかった。

 援軍でやってきたレイシュリーは帰る間際にアルとリアンには挨拶していたがレシュリーには挨拶もせずに姿を消す。

 アルはなんとなく察していたがそれが嵐の前の静けさだとは今のレシュリーには知り由もしない。

 それでもアルはあくまでレシュリーには伝えることはしなかった。

『B0DH1・5ATTA>じゃあやろう』

 ドット絵のB0DH1・5ATTAが笑う。眉のピクセルがピクリと動き、口角のピクセルも動いた。にっこりと。

 約束が果たされることが何よりも嬉しいと笑っていた。

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