指摘
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【蜘蛛巣球】に張り付けられたキングにディオレスがトドメを刺そうとするが、ディエゴが制止。
覗き込むように再び話しかける。
「ひとつ聞く。次元が統一された場合、俺たちはどうなるゥ?」
「決まっている。一番強い個体が生き残る」
キングの宣告に、プハッとディエゴが笑った。
「何がおかしい」
「冥土の土産にひとまず言っておいてやる。お前は検証しなければならなかったことがふたつあった」
ディエゴはレシュリーが巻き付けた蜘蛛の糸を短剣で剥ぎ取り、
「おい、何を」
ディオレスがディエゴを引き離そうとするが、それを止めたのは【蜘蛛巣球】を使ったレシュリー自身。
捕らえられた時点でキングの戦意は喪失していた。そういう意味では捕らえるという行為自体が重要だった。
「ひとつ。まずそもそも〈7th〉のキング。てめぇ自身がおそらく一番弱えェ」
一番強い個体が何を指すのか、がまず曖昧だが、意志の強さという数値では計り知れないものなどを指すわけがない。
純粋にランクの高さ、レベルの高さ。そして熟練度、そういう数値化できるものが優先されるに決まっている。
そういう意味ではもう倒されてしまったが〈10th〉のキングのほうが〈7th〉のキングよりもよっぽど強い。
「だとしたら、〈1th〉~〈9th〉のキングがまだ生きていた場合、お前の意識は消失する。その調査を怠った」
キングは自分が一番強い個体であるという前提で動いていたのかもしれない。
そもそも他の次元の自分に限らず誰であろうと生存確認に関しては終極迷宮で調査することができた。
「ふたつ目。お前がその調査を怠ったのは、その調査をしてしまうと、どうしてもトネイリーの生存も気になってしまうからだろォ」
「やめろ」
キングは続く言葉を遮ろうとするが、蜘蛛の糸はまだ程よく巻きついており、完全には動くことができないでいた。
「お前がトネイリーの生存を調査しなかったのは、こう思ったからだ」
「やめろ」
「全ての次元でトネイリーはもう死んでいるかもしれない」
それは残酷な言葉だった。自分の弱さを告げられるよりもよっぽど辛い。
もしかしたら生きているかもしれないという希望よりも、もう死んでいるかもしれないという絶望を味わいたくなくて、キングは調査をしなかった。
次元の統一によって会えるという希望を、前提で捨てたくなかった。
全ての次元でトネイリーが死んでいれば、統一したところでトネイリーには会えない。
前提でそれを知りたくなかった。
「まだ縋りたいなら立てよォ」
蜘蛛の巣を全て剥ぎ取り、ディエゴが告げる。
「漢なら立てよォ。俺が勝負してやるォ。無様に死にたくないだろォ」
キングの目に活力はない。ディエゴの残酷な宣言が取り戻していた活力を根こそぎ奪っていた。
それでもキングは立った。
「俺たちは俺たちだ。次元の統一なんてさせねぇ。それこそ俺たちが俺たちではなくなるからなァ。だから阻止するそれが俺たちの望みだァ」
ディエゴは言葉は止まらない。ディエゴ自身封印されている間も見聞きはできたのかもしれない。キングの目的も把握している。
だから止まらない。ディエゴ自身がこんな結末を望んでないと言いたげに。
「てめぇはそれでも希望に縋りたい。だったら奪ってみろよ。俺たちから希望を。やり直してみろよ。できるもんならなァ」
最大限の挑発に、キングは口を開く。言葉を振り絞る。
「トネイリーは、トネイリーは、まだ生きている。まだトネイリーが生きて幸せになれる次元はある」
諦めきれない、諦めれるはずがないとキングの目に活力が再び宿る。
残酷な可能性を受け入れてもなお、希望を諦めないと決めたのだ。
そういう人間は強い。
「仕切り直させてもらう」




