優先
番長湯梨浜ことyahksも異能を持っていた。
自身の体を”猛熱”と呼ばれる炎で包むことで絶大な攻撃力を手に入れる。――ただし、命を削りながら。
異能猛熱殺々。
自身の負の感情に対応して自動発動し、発動後は解除できない。
自身の体力を秒ごとに消費し、0になるまで延々に続く。
終極迷宮、終極魔窟内の発動で、それは取り返しがつかない。
yahksはShr@vakaと、grid onpaoのことを愚痴りながら負の感情をためて発動。
'友喰い'を発動させた際に確実に異能猛熱殺々を継承させるように導いた。
yahksの言動は大言壮語で実は何もできなかったように見せてgrid onpaoはイラつかせるように動いていた。
最後は自分のほうが強い、だなんて言われてgrid onpaoがイラつかないわけがない。
番長湯梨浜の異能猛熱殺々を'友喰い'したgrid onpaoはその収まらないイラつきが、負の感情になって猛熱殺々の発動条件を満たす。
満たしたなら、もう猛熱殺々は止まらない。秒速で命が削れていくが、grid onpaoは猛熱殺々の利点にばっかり目を捕らわれていた。
何より、特典〔痛いの痛いの飛んでけ〕の効果がその短所を実質無力化していた。
さらにShr@vakaが召喚したタベールドンとオネムドンの追撃が、猛熱殺々の効果確認をさせる暇をなくしていた。
しかもタベールドンもオネムドンも重量級。本来なら一撃で倒されることなんてないが、猛熱殺々がそれを可能にしていた。
ワンパン。
その行為にgrid onpaoは高揚していく。爽快感が、確認を疎かにしていく。
『grid onpao>だ・か・ら何がしたいんだよ”って”思いました』
『Shr@vaka>単なる時間稼ぎ、尺稼ぎ、間延びっぽいらしいな』
grid onpaoの問いかけに対するShr@vakaの答えはその通りだった。
言葉通り。もう下地はyahksが整えていた。
猛熱殺々が自動的に体力を削り、一定量の傷を防いでくれる特典〔痛いの痛いの飛んでけ〕の効果をかき消す。
そこからはもう死へは秒読み。勝手に自滅していくだけだ。
「でもなんだ、効果は知らんがテンテンとやら”特異”を持っていてそれをあいつは持っているのだろう? その効果はどうした?」
説明を受けていたユーゴックが指摘する。”特異”の存在はgrid onpaoが'友喰い'したときにばらしていた。
『Shr@vaka>わしが担当した。おそらく、これ、あれ、それっぽいらしいなというものが推察できた』
『Buddhak's etra>それはなんなんです?』
『Shr@vaka>テンテンと戦っていたとき、不自然な殴り合いがあったっぽいらしい」
「あったか?」
『Buddhak's etra>はて?』
『Shr@vaka>あったんだよ。それに前の舞台でわしは不自然、不可解、不格好に意図せず動かされたっぽいらしい』
「つまり操作されていたということか?」
『Shr@vaka>それほど明確、鮮明、正確ではないっぽいらしい。どうやらある程度、望み通りになると言ったほうがいい』
『Buddhak's etra>それは操作されたと言うんでは? どう違うのです?』
『Shr@vaka>さあ? でも考えてみるとさ、わしが操作、運転、操縦されたっぽいらしいというより、テンテンの望み通りに動かされたという感覚が強いっぽいらしい』
「ガハハハ。細かい違いはどうでもいい。とにかくそういうような効果を持っているということだろう?」
『Buddhak's etra>では次はその対策を?』
『Shr@vaka>だからそれはわしが担当した。もう解決、締結、決着してるっぽいらしいから』
確かにgrid onpaoはShr@vakaのばらまいた食料を未だに食べている。
『Shr@vaka>ドラドンは造語でね、それこそ竜に貪欲をかけあわせた言葉。だからその言葉通り貪欲で、普段は欲望に忠実、正直、実直っぽいらしい』
Shr@vakaは言葉を続ける。その傍らで食料を食い尽くしたgrid onpaoはその場に座り込み、うとうとし始めた。
『Shr@vaka>わしが推察したようにテンテンの望みを叶えるのが”特異”の効果なのだとしたら、もし仮にgrid onpaoがドラドンを'友喰い'した場合どうなるか想像、想見、夢想したっぽいらしい』
『Buddhak's etra>その結果がこれですの?』
「なるほど。そのドラドンとやらの貪欲さが優先されたのか。タベールドンは食欲、オネムドンは睡眠欲ってところか。考えたな、三大欲求なら優先されてもおかしくはあるまい」
それがShr@vakaの考えたテンテンの"特異"である"欲望"への対策だった。テンテン自身には通用しないが、'友喰い'したgrid onpaoになら通用するのだ。
『Shr@vaka>でここからはおふたりさんの仕事、業務、任務。実はタベールドンは一定量食べると爆発するっぽいらしい』
眠たげなgrid onpaoに確かに先ほどより膨らんでいるように見えた。
「おい」
『Shr@vaka>でも大丈夫。その前に体力を0にすればいいっぽいらしい』
「そういうことか」
『Buddhak's etra>なるほど。要するに自爆する前に倒せってことデスワー。yahksがここまでお膳立てしてくださったのですから、台無しなんかにさせませんのデスワー!』
言われてユーゴックとBuddhak's etraがgrid onpaoに立ち向かう。
相手は自爆の準備中。爆発前に倒せば勝ち。倒せなければ負け。
目的が明確化される。
grid onpaoはもはや欲望に抗えない。一定の傷の蓄積で欲望が成就する"特異"――"欲望" がgrid onpaoの欲望を成就させ続けていく。
grid onpao本人が望んでなくても'友喰い'した人々もある意味でgrid onpao自身。
食べたい、食べたい、眠りたい、眠りたい、眠りたい、grid onpaoがやめろと思っても"欲望"がより強い願いをかなえていく。
タベールドンの効果で体が膨らんでいく。
自爆の予兆。
膨張する身体をユーゴックとBuddhak's etraが殴り続けていた。まるで肉を柔らかくするように。
それでも何もできない。欲望が優先されてどうしようもなくなっていく。
台無しにしようと動いたgrid onpaoはyahksとBuddhak's etraに台無しにされていた。
膨張する身体に穴が開く。
ぷしゅーと空気が抜けるように身体が縮み、grid onpaoは消失した。




