包囲
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「"特異"……」
誤作誤動生域バグでの戦いでは見つけれなかった"特異"をキングはやっぱり持っていた。
一応、ディオレスたちにも忠告したけれど、たぶん知っていても避けきれない。
不可避の何か、あるいは不可避にする何かのように思えた。
考え事もほどほどにしろと言わんばかりの殺意で思考を中断。
キングがこちらへと向かってくる。
「手助けしてっ!」
叫ぶと同時に余所見。シュリさんのほうを遠目ながら見て、呼吸を確認。
なら優先すべきは……
牽制するようにキングの方向へ三発ほど投球。
「何のつもりだ?」
自分へと向かってくると思った球が見当違いの方向へ飛んでいくのを見てキングは訝しみながらも無視。
がすぐに振り向く。僕の目的に気づいたのだ。
僕の助けに気づいてB0DH1・5ATTAがこちらに向かってくるがキングの行動のほうが早い。
「安直っ!」
キングが躊躇うことなく僕の投げた【蘇甦球】を切断。キングへ向かっていると分かればその軌道も読みやすいのか。
「単純!」
【速勢・皇帝型】で二投目の【蘇甦球】に追いついて切断。
「気づかないとでも思ったのか!」
ディオレスへと到達しようとした最後の三投目の【蘇甦球】も切断されてしまう。
「ひとりでは何もできない、投球士系上級職の典型だな」
全ての【蘇甦球】を切断したキングは僕に向かって宣言。
僕の絶望する表情を見たかったのかもしれない。
けれど、僕は笑ってしまっていた。
「勝手に殺してんじゃねえぞ」
鮫肌剣〔呪い唄はダバダバモード〕がキングの背後から、胸を貫いていた。
ディオレスだった。
ディオレスも胸から腹にかけて大きく傷を負っていた。
鮫肌剣を引き抜いてキングを蹴り飛ばす。
キングは怒りのまま倒れるだけは堪えて、ディオレスをにらみつける。
ディオレスは回復錠剤を齧り、回復細胞を活性化させて止血していく。
シュリも立ち上がって、ディオレスへと近づいていた。
「悪い。気絶したせいで【相愛型】が切れた」
「そのせいで死ぬかと思ったのよ?」
「だから悪い、って。やっぱり【相愛型】もいいが……やっぱりあっちで行く」
「それでよかったのよ」
シュリとディオレスが会話するなか、キングがふたりへと向かっていく。
「おい、お前らも手伝え」
僕を含め、B0DH1・5ATTAやソレイル、ギネヴィアにもキングは声をかける。
それだけでなぜか温かみのある充足感を感じていた。
まるでキングの特典〔減点にして弔電〕の能力低下の際に感じた脱力とは正反対の、力。
たぶん、これが能力上昇の恩恵を受けている感覚なのかもしれない。
ディオレスが言う。
「【全勢・軍団型】!」
その恩恵を受けたのは僕だけじゃなかった。
ディオレスとシュリは当然のこと、B0DH1・5ATTAやソレイル、ギネヴィア……だけじゃない。
僕たちと同じ青色の名札を持つ全員へとその恩恵は渡っていた。
まるで自分が軍団を指揮する王だと宣言するがごとく固有技能だった。
キングに宣戦布告するように、あるいは挑発のようにディオレスは味方全域へと能力上昇を与える固有技能を使ってみせた。
なぜ最初から使わなかったかという理由は想像がつく。きっと何らかの条件があるのだろう。
ソレイルとギネヴィアがふたりしてキングへと向かっていく。
「カッカッカ! ようやく最強の敵と対峙できるなあ」
擬似刃屠竜剣〔竜を穿つバットンギッハ〕が遠慮なくキングへと向かっていた。
擬似刃屠竜剣には炎が宿る。魔充剣以外に魔法を宿せているため、ソレイルもまたギネヴィアと同様、双重具師だった。
攻撃階級7【憤怒炎帝】を擬似刃屠竜剣と自身の鎧に宿したソレイルが腕を振るい、重厚な刃がキングへとぶつかる直前にキングも炎上魔刀〔従僕ビビンゾベ〕で応戦。
火種があれば燃え続ける性質を持つ魔刀も全身が炎に覆われたソレイルの前では無意味。
当然、その魔刀の存在を知らなかったソレイルは自らの豪運に助けられて最良な選択をしていた。
……はずだった。
なのに、炎上魔刀は炎の鎧をすり抜けて、ソレイルの脇腹を突き刺していた。
「カッカッカ、なんだよ、そりゃあ」
「下がって」
【電々蒸】を宿した円月輪がキングとソレイルの間に割って入り、キングが踏み込むのを阻止。
「大丈夫?」
「ああ、助かった。けどなんだ? オレの炎装がまるでなかったかのようにするりと刀が入りやがった」
「お前もか?」
「そっちもかよ。テメーみてえなのが油断したとは思わねえから、さしずめその傷の原因もオレと同じ感じにされたからってとこか?」
ディオレスは頷いて、キングに向き合う。
「お前の不思議な力の正体は分かった――が分からん! おそらく行動の阻害系か何かだろうな。それも自身の解釈でその範囲も拡大できる可能性があると見た」
鮫肌剣を強く握りしめて言い放つ。
「だから斬られた。それをより詳しく解釈する意味でも【全勢・軍団型】は有効だ」
「勝手なことを言っているな。いくら強化されようがまだ特典〔減点にして弔電〕もある。先ほどの【相愛型】よりも上昇効果は薄いのだろう?」
「いや、残念だがよ……能力低下系技能は【軍団型】には効かないんだわ」
後出し後出しで、ディオレスは宣言。もしこの状況下で能力低下が有効になるのであれば、キングの"特異"もある程度推察できる。
ディオレスの作戦がずばり嵌っていた。
僕は思わず感心するが、すぐに思いなおす。僕の知っているディオレスは作戦と言いながら、戦闘経験や自身の直感で、その場その場で戦い方を形成していくような人物だった。
「なら炙り出しといきますか」
遠くで爆音が鳴り響いていた。
それぞれの戦場での戦いも終盤を迎えていると言わんばかりに、断末魔や怒号が減り、最初よりも静かになっているような錯覚まであった
『B0DH1・5ATTA>ボクっちゃも{本格的}に{参戦}だ』
主にNPCと戦っていてくれたB0DH1・5ATTAも格好をつけて参加し、キング包囲網がじわじわと出来上がってくる。
キングの"特異"が判明するのも時間の問題だった。
それでもキングは不敵に笑う。計画に狂いはないと。
それを体現するかのように、彼方からクイーンがこちらへと向かってきていた。




